3杯目 お酒は楽しく飲みましょう
アレナダンジョンの出口付近には、シモン・バーというダンジョン配信者御用達の酒場がある。
酒が安くてメシも美味い。
宿屋も併設されているため、シャワーやベッドもある。
そのうえ店主のシモンさんは美人なうえに「あらあら、うふふ」という言葉が似合う聖母のようなお人。
しかも彼女はかつて若手ナンバーワンとまで謳われたダンジョン配信者パーティー『青春ロケット』の元メンバー。
実力も実績も折り紙付きで、ダンジョン配信者に対する理解も深い。
これで人気が出ない理由を探すほうが難しい。
同じく元『青春ロケット』のメンバーにして、ダンジョン配信者ランキング十位のミルティさんが今でも常連として通っているのだから、この店の信頼は推して知るべきである。
唯一欠点を挙げるとすれば、どの酒もアルコールが異常に濃いことくらい。
これは酔っ払いを見るのが好きというシモン店長の趣味のせいなのだが、ロクデナシの常連配信者たちに言わせれば「それくらいで丁度いい」と、むしろ評判は上々だ。
いい店だ、掛け値なしに。
無論、我もよくお世話になっている。
……しかし、今日ばかりはその一角が重苦しい空気に包まれていた。
原因は言うまでもなく、我と目の前の成人女性。
ウメワリィ。
ピンク髪のツインテールとラフに着崩したダンジョン配信者用の服が似合う女。
トレードマークである八重歯の奥からは、歯磨き粉特有のミントな香りが漂っている。
先ほどシャワーを借りたとき必死に磨いたのだろう。
彼女の口から、弁明が開始される。
「私だけが悪いわけじゃないと思うんですよね」
カスが。
開き直りここに極まれりというヤツだ。
そのカスみたいな口からは、妄言としか思えないゲロ以下の珍説が飛び出す。
「確かに私はダンジョン配信をする前にお酒を飲みました、そりゃもうバッシャバシャに。そしてその結果、かわゆく繊細な乙女のゲロがインターネットの波に乗って拡散されることとなりました。しかしこれは、キンミヤ……いや、ここは昔の呼び方の通り、しんゆーとお呼びいたしましょう。とにかく、しんゆーにも責任の一端があるのです」
そして飲む。
ハイボールを、グビグビと。
一切の反省がないことは明白だった。
「ゲロも言い訳もよく出る口だな……」
「そんな言い訳だなんて! この可愛いくりくりおめめが嘘をつく人間の目に見えますか⁉」
「掃除する前のプールみたいな濁り方をしているな」
「なっっ!?」
思えばウメワリィは昔からこういうヤツだった。
コンピューターの天才。
C言語を超越したD言語を創り上げた者。
キャッチコピーは、コンビニでジュースを買う感覚で核ミサイルをハッキングできる女。
彼女を紹介するとき、真っ先に出てくるのはそんな言葉たちだ。
しかしそれらは、全く彼女の本質を突いていない。
「くーちゃん総理と一緒にアニメを見たいから」という理由で総理官邸のセキュリティを全て停止させ堂々と正面玄関から侵入するなんてのは日常茶飯事。
そのことで怒られたら、報復にと国会の答弁を全てラップバトルに変えた上で、議員全員をマイクロビキニにしたディープフェイク動画を作成し、ネットの海に公開するという暴挙に出た。
その件もあってかインターネットのろくでもない連中からはそこそこの人気者らしく、親しみを込めて『ディープフェイカー』、あるいはもっとシンプルに『犯罪者』と呼ばれている。
そういうやつなのだ。
しかも我は何故だか彼女に懐かれてしまい、学生生活はもうめちゃくちゃ。
彼女のせいで一生分の『申し訳ございませんでした』と『二度とやりません』を言ったと思う。
困ったことに、きんぎょが彼女に懐いているため、無下にする訳にもいかず。
……いちおう弁護しておくと、悪い奴ではないのだ。
我ときんぎょの関係性を知ったうえで、我の夢──『きんぎょを倒す』という途方もない夢を、まっすぐ肯定してくれた。
『きんぎょちゃんを倒すって夢、ぜったい叶えましょうね! 私も一緒に頑張りますから! 一生かけても叶えますから! ……だからその、二人で頑張りましょう……ずっと、一生!』
そう、言ってくれた。
この夢は、自分独りだけのものではない。
当時の我は、それだけでだいぶ救われていた。
本当に悪い奴ではないのだ。
ただ、良心の呵責というものを持ち合わせていないだけで。
15歳で黒澤塾を卒業して以来連絡を取っていなかったので、もう二度と会うことはないと安心しきっていたのだが……。
「だいたい、貴様が酒を飲むのと、我にどんな関係があるというのだ」
「それは、その、えぇとですね……本当に分かりませんか? 言わせる気なんですか? ……しんゆーのえっち」
「分かるわけがあるか。ハッキリ言え」
「うー……あー……でもこのぼんくらハッキリ言っとかないと分からないですからねー……」
「なんなんだ一体」
「ぐっ……いいでしょういいでしょう! 不肖・ウメワリィ! 女見せてやりますよ!」
叫びと共にウメワリィは立ち上がり、つかつかとこちらに歩み寄り。
熱に熟れた目を。
その端に僅かな勇気の雫を溜め。
ぐいっと、こちらの胸倉を掴んで引き寄せ。
「──ちゅっ」
思考が、止まった。
ただ、ミントの香りとメントールの清涼感が。
やわらかな感触が。
彼女の唇が、我の唇に。
ただただ何が起きたのか分からなくて、呆然と、その一瞬が終わって。
脳が目の前の情報を処理し始めた時。
にゅるりとした触感が、我の唇にちょんと触れて、ひっこんで。
ようやくそこで、彼女の手が、身体が、緊張で震えていることに気が付いた。
「ぷふぁっ……」
彼女の唇が、我の唇から離れ、その間にかかった唾液の橋が、彼女の舌によって途切れる。
とろんと潤んだ彼女の目が、艶やかな唇が、美しい桃色の頬が、震える肩が、真っ赤に染まった耳たぶが、ふるふると小刻みに揺れる、ピンクのツインテールが。
清水のような清純さと、この世のものではない妖艶さを併せ持って我を魅了する。
「……ふ、フーン! こ、これでお分かりいただけましたよね……!」
「え、あ……う……?」
「久しぶりに最愛の恋人と会うんです、そっりゃあ緊張だってすると言いますか、ね? それをほぐすためにお酒に頼ってしまっても仕方のないことだと思うんですよ。だからその……喧嘩両成敗。大岡裁きということで、どうかなーと……」
徐々に小さくなっていく彼女の言葉が耳を一回通り過ぎて、ついでに脳を通過して、反対の耳から出て行ったその3秒後。意味不明なその単語を、オウム返しの様に繰り返す。
「恋人?」
「ええ」
「誰が?」
「私としんゆーが」
「……………………?」
「………………………………?」
いやいやいやいやいやいや!
「い、一体いつ我と貴様が恋人になどなったと言うのか!」
「は、え、ちょっとマジで言ってます? 最後に会った時言ったじゃないですか」
いったい全体みじんも記憶にない。
ウメワリィと最後に言葉を交わしたのは6年前、『黒澤塾』の卒業式だったと思う、多分。卒業後は連絡を取っていなかったからきっとそう。
確かあの時彼女が言った言葉は──。
『きんぎょちゃんを倒すって夢、ぜったい叶えましょうね! 私も一緒に頑張りますから! 一生かけても叶えますから! ……だからその、二人で頑張りましょう……ずっと、一生!』
「えっ……もしかして……アレか?」
毎朝味噌汁を作ってくれ的なヤツだったのか?
「えっ……もしかして、もしかしてなんですが、アレ?」
「うん、その、勘違いっていうか……告白の言葉としては分かりにくすぎるっていうか……」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ウメワリィは取り乱し、机の上にまだ残っていたアルコールを一気に煽る。
こういう時なんと声をかければいいのか、人生経験の浅い21歳程度の若造には、まったくもって見当がつかなかった。
一方のウメワリィはモテない童貞のような理屈を並べ立てる。
要するに彼女の主張はこうだ。
一つ。
「だって私が落とした消しゴム拾ってくれたじゃないですかぁ!」
二つ。
「だってだって、私がいーっぱい振り回しても、いつも面倒見てくれたじゃないですかぁ!」
三つ。
「だってだってだってぇ! すっごい久しぶりに会ったのに一発で私だって気が付いてくれたじゃないですかぁ! 昔はぶさいくだったから頑張って可愛くなったのに! それって愛じゃないですか! 実質付き合ってるみたいなもんじゃないですかぁ! あとはもう言葉にするだけってやつじゃないですかぁ!」
それはそれは見事な非モテ三連撃であった。
しかし、どうしても修正しなくてはいけない箇所がある。
「いやお前は昔から顔は良かったではないか」
「そういう所ですよもう!」
「難があるのは性格だぞ、カス」
「本っ当に、そういう所ですよ!」
ウメワリィは、肩で息を繰り返し、取り乱すのにも疲れたのか、それともなにか吹っ切れたのか、ひとつ大きな深呼吸をしてから自分の席にどかっと戻り、こちらを据えた目で睨み付け、
「それじゃあ改めて……新婚旅行はどこにしますか?」
「勢い付ければなんでも通ると思うなよ?」
「うわーん! 裏垢でダンジョンの写真と一緒に変なポエム書いてる癖にー! 私が処女だから駄目って言うんですか! 処女は正直めんどくさいとか玄人ぶった童貞なんですかー!」
「なっ……どうしてそれを知って……! いやお前ならハッキングとかでやりかねんか……! いいから落ち着け! ほら、シモン店長が野次馬根性丸出しでこちらを見ているだろう!」
我々が視線を向けると、シモン店長はミルティさんに「青春って、良いわね……」と話しかけては鬱陶しがられていた、どうやらあの二人は元仲間というだけなく、古くからの友人らしい。
「別の女の方を見ていないで私と付き合って突き合ってくださいよー! うっかり性欲に流されて責任感じちゃってくださいよぉ! 今付き合えばこのおっぱい触り放題の大感謝還元格安大セールですよぅ! レッツマリッジ!」
「すまん、今恋人はちょっと……妹のこととかあるっていうか……」
「やっぱりシスコンのインポ野郎なんだぁ!」
刃渡り30センチくらいの言葉の刃がぼんぼこ飛んでくるが、コイツとの会話はこれがデフォルトなのでゆっくりとハイボールを飲みながら優雅に受け流す。
争いは同レベルの者同士でしか生まれないのだ。
もう手遅れだという気がしないではないが、人間何かを始めるのに遅すぎるという事はないのだ。
こちらが珍言を適当に聞き流すモードに入ったのを悟ったのか、少しずつ彼女はトーンダウンしていき、座った目をしながらシモン店長を呼びつけ、
「焼酎梅割り、2つ」
この店で一番アルコールが濃い酒を頼む。一切のブレーキを踏むつもりがないようだった。
注文を受けたシモン店長も「どうなっても知らないからねぇ」という視線をこちらに送り、「こういうのが見たくて店長やってるのよねぇ」と言わんばかりに、ででんと酒を机に置く。
焼酎梅割り。
それは、シモン・バーの看板メニューである。
普通、焼酎の梅割りと言えば、少しだけ注いだ焼酎に梅干を入れるものであったり、梅ジュースでいい感じに割るものであり、その甘く爽やかな味わいで大人気のお酒である。
なのだが、そんな子供が飲むミルクのようなメニューはこのシモン・バーにはない。
コップ一杯になみなみと焼酎を注ぎ、溢れそうになったところで申し訳程度に梅のシロップをちょこんと入れ、梅で割りました、割ったので飲めますよね? などと白々しくほざく暴力みたいな酒だ。
ウメワリィはそんなふざけた酒をひっつかみ、決死の特攻隊みたいな表情で宣言をする。
「勝負をしましょう」
「は?」
「先に潰れた方が負け。私が勝ったらしんゆーは私と付き合う、しんゆーが勝ったら今まで通り単なる親友として私は協力する。私がきんぎょちゃんに勝たせます」
「いや受けないが、というか親友ですらなく危険生物とその飼い主が適切というか」
彼女の提案はもちろん一蹴。全く以てこちらに理のない提案に冷たい視線を送っていると、ウメワリィはにま~っと笑い、ばかうけみたいな形の口でこちらを煽る。
「あれ~~~?」
「なんだ腹立つ顔だな」
「え~っ! つ・ま・りぃ~しんゆーはぁ~……ビビっちゃってるんですかぁ~!」
「は、ビビッてないが!」
「いやいや……ぷふっ……そうですねそうですねw ビビッてないビビッてないw こんなかわいい女の子にお酒で負けた時のこととか考えてないw」
「なっ……あぁっ……⁉ そ、そこまで言うならやってやろうではないか!」
テーブルの上に置かれた焼酎梅割りをガッと掴み、冷えたグラスにガッと力を入れ、正面でニヤケ面を晒すメスガキをガッと睨み。
「ハンデをくれてやる」
ウメワリィが構える前に、それを一気に飲み干し、空になったグラスを机に叩きつけた。
舐めるな、という意思を込めて。
「負けて泣き言を晒す準備はしておけよ」
「上等ですッ!」
ざわめきが広がる。酒場にいたお祭り好きの連中が何事かと我々を円で囲み、半笑いだったロクデナシ共がただならぬ空気を感じ取り、襟を正していき。
ごくり。
誰かが息を飲んだ時、開いたグラスに新しい焼酎が注がれ。
ちゃぽん、と。
申し訳程度の梅シロップが注がれる。
「「乾杯ッッッ!」」
勝負の火蓋が、切って落とされた。
◆
「いやあアイツ、正直気に食わなかったんですよ」
シモン・バーの常連、シュー=ザイ・ウケルは後にそう語る。
「いっつも酒場の隅で独りガキのションベンみたいな量の酒飲んで、世界中で一番不幸なのは自分です! って顔しててさ」
──意外ですね。
「だって、あのグレートインテリジェントメチャスゴイスライムや、ギャラクシーギガントギラギラゴブリンを倒した日にシケたツラしてるんですよ⁉ 普通のダンジョン配信者なら人生で1回勝てたら一生自慢出来ちまうくらいのモンスターなのに! 信じられます⁉」
──まぁ、それは確かに……。
「ま、色々聞いちまった後だとむしろよくその程度で済んでたな……とは思うんですけどね。当時は知らなかったから、ハイハイエリート様にはエリート様の憂鬱があるんですかァ。こんな下界でご苦労様ですってな感じで」
──……今となっては考えられない話ですね。
「まあなんつーか、持ってない奴には持ってない奴なりのプライドってもんがあるんですわ。貧しいからこそ世の中のことを知ってんだぞって」
──それが、あの日を境に変わってしまった、と。
「ええ、あの日のことはよぉく覚えてますよ。そりゃおったまげたもんですわ、塩かけられたナメクジみてえな奴が珍しく女連れ込んできたかと思えば、いきなり焼酎梅割り頼んでオトコの目つきになるんですもん」
──彼がその名を轟かせたきっかけになった、あの動画ですね。
「そうそう! 右の方におれが写ってる奴ね! 確かあの時は──」
◆
「「おかわり!!!」」
二人分の大きな声が重なり、焼酎梅割りが二度注がれ、テーブルに二つ並んで置かれる。
「チッ……今のはわずかに我が遅かったか……!」
後悔と共に上着を思いっきり脱ぎ捨て、野次馬どもに放り投げた。
いつの間にか追加されたルール。
同時に飲み始め、飲み終わるのが遅かった方が服を一枚脱ぐ。
乳首が元気にコンニチワをして──どうだってよかった。
最初こそ公衆の面前で服を脱ぐのには抵抗があったが……今ではむしろ心地がいい。
服と共に余計な思考まで脱ぎ捨てているかのようだった。
「ふふふ……まだやりますか?」
「……当然。むしろ貴様の方こそ降参してもいいのだぞ」
「なんのこれしき……余裕ですよ……!」
こちらは既にパンイチ。
ウメワリィの方はなんとかスカートを死守してはいるものの……上半身はキャミソール姿だし、下半身はノーパンだ。本人も顔を真っ赤にして恥ずかしくて仕方がないという表情を浮かべている。
だが、もう色気がどうのとつまらない事を言っている余裕がある者はこの場に存在しない。
野次馬どもが騒ぐ。
「お、おい……今何杯目だ……?」
「バッカオメ、んな細けぇことはどうだっていいんだよ! 焼きつけろよ! 雄姿を!」
目を閉じ、天を見上げ、大きく深呼吸をする。限界はとうに超えていた。
シモン店長とミルティさんが楽しそうに、
「ふふ、凄いことになっちゃったわねぇ。どう? 混ざる? ミルティ?」
「絶っ対、イヤ。あんなバカどもと一緒にしないでちょうだい」
「んもう、いけずぅ~」
などと無責任な感想をのたまっているが、外野に構っている余裕はない。
目の前に立つウメワリィを見る。
もう恋だの愛だの責任だのは全部どうだっていい。
ただ目の前のコイツに負けたくない。
こっちは人類最強に挑み続けた大馬鹿者。
諦めの悪さと根性ならば、誰にだって負けやしない。
「お互い、残された服は一枚」
「ええ、次の一杯が最後……決着を付けましょう」
その言葉に呼応し、ドンッと最後の焼酎梅割りがテーブルに置かれ。
野次馬どもから悲鳴のような絶句が湧き上がった。
焼酎梅割りが注がれていたのは今まで通りの小さなコップではない。
大ジョッキ、である。
「「………………」」
それを運んだ大馬鹿者は言う。
「最後の一杯だものね~、景気よく行っちゃいましょ~! 店長からのお・ご・り♡」
沈黙がこの場を支配し──死地に赴く兵士のごとき決心でジョッキの取っ手を掴む。
同時に、ウメワリィもジョッキを掴み。
最後の、戦いが──。
バァン、と。
「お楽しみ中の所失礼しますゥー!」
何の前触れもなく、勢いよく開かれたドアの音によって中断された。
撮影用ドローンを携え、店の入り口に立っていた不埒な乱入者は。
「ゴマレバ、何の用だ」
思わず口に出して、その冷たさに自分で驚いた。
怒っているのだ、楽しい時間を邪魔されて。
「おうおう随分と楽しそうなコトしてんじゃねぇか、オレも混ぜてくれよォ!」
ゴマレバの神経を逆撫でするような声に、酒場の全員は沈黙で応える。
実力行使による排除。誰の頭にもその単語が浮かんだ瞬間、ゴマレバの背後にぷかぷかと浮かんでいたドローンが、映像を投射した。
「まったく、盛り上がってッからってこっちは余興を持って来てやったってのによォ!」
そこに映し出された、映像は。
「いい機会だからオマエたちにも聞かせてやるよォ! こいつはなぁ!」
人類最強・きんぎょと共に映る、我の姿。
「あのきんぎょの兄なんだよォ! この出来損ないがだぞ⁉」
シモン・バーにいた人々は、驚愕に満たされる。
それはそうだろう、こんな所で飲んだくれてパンイチになっている阿呆と、あの美しく、可憐で、清楚で、清廉潔白で、みんなの模範となる配信者ランキング1位が兄妹と知れば。
「んでさらに笑っちまうのが、コイツ、きんぎょに本気で勝とうとしてるんだとよォ! 強すぎてサミシーだろうからって! 泣けちまうよなァ! お兄チャァン!」
ゴマレバはオーバーに両腕を大きく開き、
「テメェごときが」
我の眼前5センチメートルで、その瞳孔を大きく開かせて、
「万年配信者ランキング146位のテメェごときが、本気できんぎょを倒せるわけねえだろォ! バァァァァカッ!」
嘲る。
「テメェごときが本当に倒せたら、首から『キンミヤさんごめんなさい』プレートをぶら下げて日本一周走ってやるわ!」
笑い、嗤い、嘲笑ったところで──パシャり、とその憎たらしい顔に冷たい水がかけられた。
「アァッッ⁉」
下手人のウメワリィはゴマレバの怒りをスルーし、手に持っていたコップをテーブルに置いて。
「飲み比べじゃあ勝負はつかないみたいですし、勝負内容を変えません?」
「ああ、我も同じことを言おうとしてたところだ。いい加減、うんざりしてきた」
「アァ⁉ 何言ってやがっ……」
ゴマレバの怒声を遮り、ウメワリィは言い放つ。
「勝負の内容は──!」
その先は言わなくても分かった。
「「コイツを先に倒した方の勝ち!」」
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