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 二度と酒なんて飲まん。


 確かに酒は美味いし、飲んでいる最中は気分がいい。

 酔えば饒舌になり、普段出せない感情をさらけ出すこともできる。

 酒を酌み交わして深まる友情も、確かにあるのだろう。


 しかし、しかしだ。


 いい大人であるならば、そんな目先の快楽に惑わされてはいけない。

 二日酔いはつらい。酔った勢いで変なことを口走る。

 健康に悪い。金もかかる。時間だってあっという間に溶けていく。

 たいていの場合、飲めば後悔する羽目になる。


 あえてハッキリ言おう。

 酒なんて飲む奴は──バカだ。


「なにブツブツ言ってんのよ。さ、飲み直しましょう、キンミヤ」

「そうですよ。今夜はとことん付き合っていただきます、兄さん」

「ま・さ・かぁ、ビビってんですかぁ? しんゆー♡」

「はぁーーーっ⁉ ビビってないが⁉ 余裕だが⁉」


 ──そして、誠に残念なことに。


 これは、そんなバカたちが酒を飲んではバカをやり、ついでに人類最強を目指してしまうという、なんともバカな話なのであった。



 太陽という星がある。


 いくつもの惑星がその周囲を悠然と巡り、放たれる莫大なエネルギーは、遠く離れた星々にまで恵みを与えている。


 その惑星のひとつに──地球という星がある。


 様々な生物が共存し、文明が花開き、そして、今から20年ほど前、無数のダンジョンが現れるようになった、そんな星。


 そして、この地球には──「我」、キンミヤがいる。


 職業:ダンジョン配信者。

 21歳男性。

 ダンジョン配信者ランキングは146位。

 名のあるダンジョン配信者を親に持ち、妹は有名人。

 そのうえ確かな実力を持ち、派手さはないものの堅実に成果を挙げる中堅上位。


 ──だが、そんな我は今、大ピンチの最中にあった!

「待てやゴラァァァァァァァァァァァァァッ!」

「待てと言われて素直に待つ奴がおるかァァァァァァァァァァァァッッ!」

 アスファルトを蹴る足音と、品性の欠片もない怒声が早朝の住宅街に響き渡る。


 思えば今日は朝から不運であった。


 日課のランニングへ向かえば靴ひもが切れ、近所のチワワには小尿をかけられた。

 そして今、巷で話題の暴露系迷惑配信者──ゴマレバとかいうチンピラと、その背後にいる撮影用ドローンに追い掛け回されている。


「クッソ! ちょこまかちょこまかと! 体力無限かよキンミヤテメェ!」

「はっはっは、鍛え方が違うのだよ鍛え方が!」


 ゴマレバ。

 ダンジョン配信者ランキングは我より1個下の147位。

 メインコンテンツは他の配信者の秘密を暴露すること。そんなんだから当然評判も最悪。

 そんな彼が何故、人畜無害で後ろ暗い所なぞ何一つ存在しない我のことを追いかけているかと言えば……。


 まぁ、十中八九、妹絡みであろう。


「オラァッ! 避けんじゃねぇ! もう調べはついてんだよォ!」

「ま、魔力弾だと! 街中で正気か貴様ァ!」


 正気ではない。

 周囲に人がいるにもかかわらず、ゴマレバの手からは一切の配慮なく魔力弾が放たれる。

 それをなんとか躱しながら、我は人気のない工事現場へと逃げ込んだ。

 おかげで真っ白に染めた自慢のオールバックの髪が崩れてしまった。


「ハァ……ハァ……ハァ……追い詰めたぜェ、キンミヤァ……!」

「この程度走っただけで、そんなに息を切らしながら言われてもな」

「っるせぇなァ! 逃げ回るしか脳がねぇ三下がよォ!」


 ゴマレバは絶え絶えの吐息と共に気炎を吐き、ドローンカメラを指差し、こちらをグッと睨み付け。


「テメェには視聴者どもの前で吐いて貰いてぇゲロが山ほどあんだ、まずはなあ──」

「そこら辺で辞めておけ。マジで、本当に。というか今すぐこんな事は辞めて、この場から逃げたまえ、我がわざわざ被害が出にくい所まで来た意味を分かって欲しいというか」

「アァ⁉ 今更泣いて謝ったって遅ェんだよ! いいか、画面の向こうの視聴者ども! 耳かっぽじいてよぉく聞きやがれ! コイツの妹はなあ!」

「いや、だからそういうことではなく、これは貴様のためを思っ──」


 て。


 その言葉を最後まで言えなかったのは。

 ドカァンという音と共にゴマレバが吹っ飛び、見事な流星になって空に散って行ったからである。

 ──ホームラン。


「だから言ったのだが……」

「大丈夫ですか? 兄さん。追われていると聞いて駆けつけてきたのですが」

 その声に振り向けば、そこにはバット代わりに大型のクレーン車を構えた、我が妹の姿があった。


 兄である我よりも高い身長。

 すらりとしたモデル体型に、腰まで流れる純白のロングヘアー。

 ひと房だけ入った赤いメッシュがチャームポイント。

 かわいい。

 仮に「かわいい」という言葉が彼女のことを説明するために産み出されたと説明されても、おそらく誰もが納得してしまうであろう、そんな容姿。


「……? ボーっとして、どうしました、兄さん?」

「いや、何でもない。少し汚れてしまってな、家に帰ろうか」

「はいっ!」


 ──ゴマレバが暴きたかった秘密、それは。


 ダンジョン配信者ランキング1位にして、人類最強の女性。

 配信者名:きんぎょ。

 彼女が、我が妹だということだ。

 読んでいただきありがとうございました。

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