中央大陸へ
「なるほど。それで、わざわざ俺を探してまでして返金したいって?」
「ええ……ここにきっちりあります」
夜。
幕舎のひとつで、フラドと俺たちは膝を突き合わせていた。俺たちが会話する横で、シスが一人、黙々と鶏もも肉の炙り焼きを食べている……。
俺とリューネは、換金していた宝石を彼の前に差し出したが、彼はそれを確かめようともしない。
「確かめないの? 本物かどうか」
彼女の問いに、フラドは笑う。
「返しに来たやつを疑う馬鹿じゃねぇよ。しかしお前ら、かわってるな? ふつうは、持ち逃げするだろう?」
「フラドさんと再会した時、堂々と話をしたいじゃないですか」
俺の言葉に、彼は微笑む。
それは、これまでの彼の印象を一変させるほどに優しく、品があった。
教導部隊を傭兵団として偽装しているだけで、彼本人はおそらく、根っからの傭兵じゃないんだろうな。
彼はそこで、少し姿勢を正すと真面目な顔となり、口を開く。
「アルス殿、リューネどの、お二人の誠実さ、しかと受け取りました」
声色も、がらりと変わった。
傭兵たちから尊敬される粗暴だけど頼れるアニキ的キャラから、どこか名のある家の人が部隊指揮官をしているという印象へと豹変している。
俺は、思ったことを尋ねた。
「フラドさん……というのは、偽名ですね?」
「ええ。本名は、ニールセン・フォクツ・ヘクゾース。ギュレンシュタイン皇国の騎士です」
彼はそう言うと、姿勢を変えて表情も元に戻す。
粗暴な男……が、にやけた笑みで俺たちに言う。
「でも、フラドと呼んでくれ。魔導書探してるんだっけ? 力になれる。ロイタール大遺跡の地下書庫、きっとあるだろう。推薦文を書く。ギュレンシュタインに行けば、問題なく中に入れる」
神様!
やはり正直者に福が来るのだ!
寄り道だと思っていたけど、近道だったのだ!
「ありがとうございます」
俺が感謝する後ろで、シスが満足したらしく会話にくわわった。
「七つの罪のほうも」
「そうそう。七つの罪にも関係してまして……」
俺は、これまでのことを説明した。
七つの罪の封印を解く者たちがいて、その封印の巫女であるハイエルフの指示で、シスが俺たちに同行し、封印の場所を確認してまわっていることを。
「そちらのほうも、手紙に書いておこう。皇太后陛下なら、お力になってくださるはずだ」
彼は言い、俺の背後を見て目を丸くした。
「おい……四人分を一人で食べたのか?」
フラドの指摘に、シスは首を傾げた。
「四人分? 一人分だったけど?」
リューネが、呆れたように笑った。
- Il était appelé le Grand Mage. -
宿場町は、フラドの部隊がリーフ王国軍到着まで待機すると言ってくれたので、俺たちはフレゼレシアへと向かうことにした。
合流した翌日の朝、フラドと握手をして挨拶を交わすと、彼は口端を歪めて言う。
「アルの敵になりたくない。ギュレンシュタイン皇国とは、争わないでくれ」
「俺は、国を相手に戦うなんて考えたことありませんよ」
「お前がそう思っても、どこかの組織に参加した場合、その可能性がある。釘をさしておこうと思ってな」
「ありがとうございます。俺もリューネも、フラドさんと戦いたくないんで、気を付けます。それに、ありがとうございました。中央大陸行の船に乗ります」
「気をつけて」
かたい握手をかわし、彼の部下の人たちにも手をふって挨拶をして別れた。
最後尾のシスは、干し芋を齧りながら歩くというお行儀の悪いことをしながらついて来る……。
こいつ、食べ物があったらずっと食べてやがる。
「シス、エルフは皆、あんたくらい食べるの?」
リューネの質問に、食いしん坊は干し芋をくちゃくちゃと食べながら答える。
「わたし、小食のほう」
イメージが……エルフのイメージが崩れる。
森の中で、自然を守りながら命を大事にする種族……というイメージが、シスのおかげで木っ端みじんになった。
- Il était appelé le Grand Mage. -
フレゼレシアに到着したのは、フラドたちと別れてから五日後の午後。
「食料が、ギリギリだった!」
リューネが安堵のあまり大きな声で喜ぶも、途中、森の中で兎やリスを罠で狩った俺からすれば、実際は足りなかったと思います……。
「シス、無計画にモグモグと食べているけど、満腹になって動けなくならないのか?」
俺の問いに、見た目は超絶美少女が不思議そうに首を傾げた。
「空腹のほうが、動けなくない?」
……愚問だったようだ。
組合へと生存報告をするために、三人で入ると、傭兵たちの注目を浴びる。理由はもちろん、シスがいるからだ。
誰もが、彼女の見た目に騙されている……。
「あ、あんたたち無事なのね?」
組合のカーリーが、俺とリューネを手招く。
「おかげ様で。ダリルという剣士の人、ここに来ましたか?」
俺の問いに、カーリーは頷くと歓談スペースを指さす。
見ると、彼が他の傭兵たちと談笑をしていた。
「ね、アル、誘ってみたら?」
リューネの意見に、俺は少し悩んだ。
普通の仕事を請けるのと違って、魔導書探しはどう考えてもお金になると思わないからだ。
「金儲け目的じゃないから、つきあってもらうの申し訳ないよ」
「え? でもバルニアでもここでも持ち帰らなかっただけじゃない? 魔鉄の件も何もしていないだけだし。あれ、事業家したらかなりの収益になるよ」
「……そうか」
「そう。アルがそういうの興味なければ、ダリルにあげたら?」
それなら、お互いにメリットがあると思う。
前衛を任せられて、経験豊かな……俺たちにとって彼の戦歴はきっと戦力になる。リューネはまだ魔法を使えないから、俺がへばって、シスがぽんこつだった時は危ない。これまではリューネが事前に判断してくれていたけど、突然の状況変化にも備えておきたい。
シスは俺たちの会話に興味ないらしく、歓談スペースの奥、食事を出す店の看板をじっと見つめていた……こいつ、まだ食べるのか?
俺がダリルに声をかけるより先に、彼が俺たちに気づいた。
「あ! 無事だったか!」
「ダリルも!」
リューネが明るい声を出すと、彼は談笑していた人たちに挨拶をして席を立つ。
俺たちは握手をして、お互いの無事を喜び合った。
「よかった。俺のほうは、仲間たちの家族へ手紙を出すことができて、これから移動しようと思っていたところなんだ」
移動するのか。
じゃぁ、誘ったら迷惑かな。
俺がそう思った時、リューネが口を開く。
「どこに行くの?」
「中央大陸」
「あ、じゃぁ、わたしたちと同じよ。一緒に行こう。ね? アル」
いきなり話をふられて驚いたけど、中央大陸にダリルが行くならちょうどいい。
「うん、ダリル。迷惑じゃなかったら、一緒に行動しない? こちらは魔導書探しと、七つの罪を追っているけど、途中で見つけたお宝はダリルの取り分でいいよ」
ダリルは笑う。
「そりゃありがたい。でも、総取りは気持ち悪いから、分けよう。それと、魔鉄の件、報告するか?」
俺がリューネを見ると、彼女は俺に頷きを返した。
任せる、という意味だ。
「ダリル、いい考えある?」
「ま、お前らしい。事業家すればひと財産を作れるが、ここにずっといないといけない。誰かに任せてやらせるにしても、信用できる奴を探す時間もコネもない……放置だな」
俺たちは苦笑を浮かべあい、改めて握手を交わす。
「ねぇ? この人も一緒に行く?」
シスはダリルを知らないので、俺たちの会話が終わったころを見計らって声をかけてきた。
「そう、彼はダリル。経験豊かな戦士だよ。ダリル、彼女はエルフのシスティーナ」
「アルとリューネの仲間になるなら、シスでいいわ」
「よろしく、シス。ダリルだ」
「ね? もういいでしょ? ご飯食べよう」
シスが先に、さっさと飯屋へと向かう……。
ダリルが、目を丸くしていたので、俺が説明をした。
「エルフは、超大食いです」
「嘘だろ……」
「本当」
リューネが言い、俺たちはシスの背を見る。
彼女は店へと入り、すぐにまた顔をのぞかせた。
「早く!」
手招くシスに誘われるように、俺たちは歩き出す。
「じゃ、ダリルの歓迎会しよう」
リューネの提案に、俺は頷く。
「いいね、そうしよう」
「奢れよ」
ダリルの笑みに、笑みを返す。
ご飯を食べたら、船券を買わなきゃ。
次は中央大陸。
ギュレンシュタイン皇国に行こう。




