飲み会から異世界へ
部の飲み会……だけなら断るところだけど、お世話になった上司のお別れ会なので、たまにはいいかと参加した。
ただ酒を飲み、美味しいと思えない食事を食べ、思ってもいないことを言って、どうでもいいことに笑う。
社会人になって、十年。
楽しいフリも、自然とできるようになっていた。
飲み会が終わり、上司に挨拶をして、二次会に行くという人たちへ丁寧に断りを入れてから駅へと向かう。
渋谷駅のスクランブル交差点は、夜だというのに混雑がひどい。
SHIBUYA109のA2出口から地下へと降りて、半蔵門線の改札へと向かう。すると、すれ違う人たちが皆、走っていて、何か慌てているようだった。
なんだろう?
改札へ、向かう……皆、走って? 改札から逃げて?
え?
見ると、男が一人、刃物を振り回しながら走って来ていた!
逃げようと身体を翻した時、女性が転ぶのを見る。
思わず、立ち止まった。
男が、転んだ女性に襲い掛かろうとしている。
俺は持っていたバッグを男へと投げつけ、「逃げろ!」と叫んだ。
考えての、ことじゃない。
ただ、その女性が俺の妹くらいの年齢だと思ったから。
思わず、助けなきゃと身体が動いた。
男へ、体当たりをする。
女性が、立ち上がりながら離れていく。
誰かが、俺に加勢して男にぶつかった。
俺は無我夢中で、男を押さえつける。一緒になって、二人の男性が男を取り押さえていた。
「ぶっ殺してやる! ぶっ殺してやる! 死ね! 死ね!」
男が叫んでいる。
人が集まって来た……警察官、駆けつけて来ている。
「おい! 君! ……救急車! 救急車を!」
手助けしてくれていた男性が、俺を見て叫んだ。
なんだ?
男性の視線を追うと、俺の腹部に刃物が刺さっているのが見えた。
右側のあばらの下のあたり……。
……え?
「救急車! 早く!」
痛い? ……痛い! 苦しいぃ……。
誰かに、肩を掴まれた。
「君、離れなさい」
「誰か! 医者は!? 医療関係の人は!?」
「はなせぇ! はなせぇええ! ぶっ殺してやるぅううう!」
周囲が、騒がしい……やけに客観的な自分は、薄れていく意識の中で運ばれている……。
俺はここで、意識を失った。
- Il était appelé le Grand Mage. -
どれくらい、意識がなかったのかわからない。
どこか、狭いけれど温かいところにいるとわかる。
何か、人の声が聞こえてくるけど聞き取れない。
いつから、ここにいるのかわからない。
だけど、あの時、俺は刺されて、運ばれてからここにいるんだということはなんとなく理解できた。
とても眠くて、意識があってもすぐに寝てしまう。
大変な怪我、してしまったんだろうか。
会社、ずっと休んでいるんだろうな。
……傷病手当で、しばらくは休んで暮らしたいな。
- Il était appelé le Grand Mage. -
突然、周囲の空間が動き出したような感覚の中で、俺は自由に身体を動かせず、だけど懸命に何かから逃れるようにもがいた。
なんだ?
どこに向かっている?
ともかく、温かった居場所が俺を追い出そうとする!
やめて!
なに!?
突然、外に押し出された!
外気に触れた感触で驚く!
「――ぎゃぁ!」
思わず声を漏らした直後、口内から液体を吐き出し、空気を吸っていた。
静かに動いていた体内が、一気に激しく動き出す。
不安と、恐怖と、違和感と、驚きで、俺は叫んだ。
「おぎゃー! おぎゃー! おぎゃー!」
おぎゃー?
え?
俺、おぎゃー!?
「おぎゃー! おぎゃー!」
「おめでとうございます!」
「元気な男の子でございますよ!」
俺の周囲で、誰かが話しているけど、よくわからない。
音は聞こえるけど、意味がちょっと……でも、とにかく、俺の叫び声は理解できる。
おぎゃー……。
誰かに、抱えられて……俺、小さいらしい。
……生まれ変わった?
じゃ、俺……死んじゃってたの?
「おぎゃぁあああああ!」




