表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マスターネオはネコまない ―黒猫GMのマスター魔法奪還ログ―  作者: Master NEO
第一章 奪われたマスター魔法

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/75

第八話 ヒーラーは、最後に残る

 夜。


 森の中に、小さな焚き火があった。乾いた枝が爆ぜる音だけが、静かに繰り返される。


「交代で見張りな」


 リリィが言う。


「必要か?」


「必要」


「はいはい」


 ネオはその場に丸くなる。巨大な黒猫が丸まると、それだけで相当な存在感がある。男は少し離れた場所で座っている。膝を抱えて、どこか落ち着かない様子だ。


 火の音だけが続く。三人とも、言葉を持たなかった。


 そのとき。


「……昔さ」


 リリィがぽつりと呟いた。独り言のような、それでいて誰かに届けようとしているような声。


 ネオは目を開ける。閉じたままでいる。


「パーティ組んでたの」


「ほう」


「前衛二人と、魔法職一人。私はヒーラー」


 淡々とした口調。感情は薄い。「よくある構成でしょ」


「まあな」


「強かったよ、あいつら」


 一瞬だけ――ほんの一瞬だけ、声の温度が変わる。「バカみたいに突っ込んで、でもちゃんと戻ってくる」


 小さく笑う。その笑いは、少しだけ痛そうだった。


「で、私は後ろから回復して――」


 言葉が止まる。火が揺れる。


「……ある日」


 静かな声になった。「ボスに挑んだの。普通なら勝てる相手だった」


「普通なら?」


「うん」


 リリィは焚き火を見つめたまま続ける。「でも、その日――スキルが、発動しなかった」


 沈黙。


「回復も、防御も、全部」


「……バグか」


「そう。一瞬だけだったと思う。でも、それで十分だった」


 火がはぜる。薪が崩れる音がした。


「前衛が一人、倒れた。もう一人が無理に突っ込んで――死んだ。魔法職も、巻き込まれて終わり」


「私は――」


 少しだけ、間が空く。「最後に残った」


 風が吹く。焚き火の炎が横に引かれた。


「ヒーラーってさ」


 リリィが小さく笑う。「最後まで生き残るの。見てるだけ」


 その言葉は、妙に重かった。軽く言ったのに、重かった。「助けられるはずだったのに。全部、見てた」


 ネオはゆっくりと起き上がる。だが何も言わない。ただ聞いている。それだけでいいと、何かが告げていた。


 リリィは続ける。「そのあと、ログが出た」


 ネオの目が細くなる。「ログ?」


「うん。普通じゃないやつ」


```

「それ、つまらないよ」

```


 空気が凍る。ネオの視線が鋭くなる。


「……それ」


「聞いたことあるでしょ。あなたも」


 ネオは少しだけ黙る。「……ああ。あるな」


 沈黙。焚き火だけが音を立て続ける。


「それで分かった。この世界、壊れてるだけじゃない。誰かがやってる」


 火が揺れる。リリィが、ゆっくりと振り返る。


「信じないことにした。誰も」


 その目は真っ直ぐだった。揺らいでいない。泣いてもいない。


 ネオはその視線を、静かに受け止める。


「……そっか」


 それだけ言った。


 リリィは少しだけ眉をひそめる。「それだけ?」


「じゃあ何て言えばいいんだ?」


「否定するとか」


「無理だな。俺も、同じの見てる。で、今も聞こえてる」


 そのとき。ログが浮かぶ。


```

「よく覚えてるね」

```


 ネオは笑った。「な?」


 リリィは目を細める。「……最悪」


 だが――ほんの少しだけ。張り詰めていた何かが、揺らいだ。


「でも」


 ネオが言う。「助けられなかったのは、お前のせいじゃない」


 リリィの目がわずかに動く。


「バグだろ、それ」


「……」


「なら責任は作った側だ」


 ネオは軽く笑う。「つまり俺だな。元GMだし」


 リリィが呆れる。「何それ」


「だからまあ」


 ネオは再び丸くなる。「まとめて取り返すよ」


「……何を」


「全部」


 軽い口調だった。だが――どこか、嘘のない本気だった。


 リリィはしばらく黙って――小さく息を吐いた。「……バカ」


 でも少しだけ。その言葉は、柔らかかった。


 遠くで。ログが一つ、静かに流れた。


```

「……優しいね」

```


 誰にも聞こえない声。だが――ほんのわずかに。寂しさが混じっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ