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そうだ、オリュンポス行こう  作者: くらうでぃーれん
6.大神と香辛料と霊峰の神々
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6-17


 ソフィは静かに微笑んで、僕の頭を抱いてよしよしと撫でてくれた。情けなさはあるが、今はそのバブみが心地良い。


「いやいや、ホントよく頑張ったな人の子! 神でさえ委縮するヘラさんを前にして、真正面から向き合えるヤツなんてそういないぞ! 妹を想うその気持ち、素直に畏敬です!」


 バッシバシと背中を殴られながらお褒めの言葉を頂戴する。僕は、にへぇと力ない笑みを返すことしかできなかった。


「ま、人の子にしてはよく頑張ったんじゃない? ほ、褒めてあげてもいいんだからね‥‥」

「んあーっ! アルテミスのツンデレ尊死! 心臓を押さえて救急搬送された!」

「でしょー。これがご褒美」


 得意げなアルテミス様だが、どう考えてもアポロン様のご褒美にしかなっていなかった。


「あのー、ご褒美ならそろそろ人の子じゃなくて名前で呼んで欲しいんですけど」

「あー、それはダメ。だってニコちゃんのほうが可愛いもん」

「僕は(りん)ちゃんが良いと思います」

「おぅふ‥‥分かる、分かるぞ麟ちゃん可愛い‥‥。疲れた時は麟ちゃんに元気を分けてもらうんだぁ‥‥。ま、あたしはチーエリ推しだけど」

「でもソフィが一番大好きです」

「ぬーっ! 分かるぞ人の子ーッ! 世界は妹で出来ている!」


 ガッシィ!とアポロン様と熱い兄同士の握手を交わす。


「悪かったわね。手間をかけたわ」


 そこへ、ようやく回復したらしいアテナ様がやってくる。その視線はアポロン様に向いていて、僕の状態はあまり気にしていないようだ。


「ま、あの状況じゃ、しゃーないんじゃない? あたしも他に策なんて思いつかないし」

「そもそも神託を下したのは俺だからね」


 それに関しては僕も同意見だ。ソフィが危険に晒されたのは確かだが、あのままだとどちらにしてもソフィは連れていかれたのだろう。


「ぐあ、いつの間にかランキング抜かれてんじゃん。くっそー、今回けっこう熾烈だわ」


 と、アルテミス様が唐突にスマゴを2台取り出して、片方でポチポチとゲームをしながらもう片方でポチポチとツウィッタを打ち始める。


「とりあえず、お腹が空いたわ。良かったら今からゴドいち行かない? ヘルメスに奢らせる約束してるから、ついでに全員分出させるわよ」

「お、イイネ。ついでに俺もアイツ一発ぶん殴りたい」


 すっかり呑気な空気が蔓延し始め、急な空気の移り変わりに現実感が欠如する。


「‥‥あ、あの、本当に、終わったんですか?」

「ああ、安心しなよ。恐らく当分は帰ってこないさ。なんだかんだ、あの2人はアレで仲がいいからね」


 アポロン様が答えてくれるが、正直なところいまいち安心しきれない。母親を殺したら、その後は再び僕らの下へやって来る。ヘラさんのその言葉は脅しなんて陳腐なものではなかったからこそ、僕の心の底に恐怖を植え付けていた。


「ま、確かに母親が見つかればすぐに戻って来るだろうね。見つかれば、だけど」


 含みのある物言いに、僕らの視線がアポロン様へと集中する。アポロン様はソフィを見つめ、重々しく口を開いた。


「‥‥ソフィ、実はキミの母親は、キミを生んですぐにどこかに姿をくらませてしまって、生きているかどうかも分からないんだ」


 アポロン様の言葉に、ソフィがハッと目を見開く。ソフィのことを捨てた母親。それでもソフィにとって親であることに変わりはない。一度も会ったことがないとはいえ、それを知ったソフィの心境がどんなものか、僕には想像もつかない。


「――っていう設定」


 が、直後にアルテミス様が付け足した言葉に、僕らはぽかんと口を開く。アポロン様はその反応に満足そうに笑って詳細を語った。


「こうなる可能性が高かったから、あらかじめ手を打っといたのさ。ソフィの本当の母親を探して、知人の間では失踪したことにして、今は遠くの国で別の名前で暮らしてる。少し離れた街で事故に遭って重傷を負ったようにも見せたり、けっこう巧妙に隠蔽したつもりだよ。死んでないから冥府でも見つからないし、半端な情報を散りばめてるから無駄にあちこち歩きまわる羽目になると思う」


「昔のRPGみたいに散々たらいまわしにされた挙句、結局詰むっていうね。ふへへ、我ながら性格悪いワー。ま、もちろんあたしらはどこにいるか知ってるけど、バレたらヤだし会いに行くのはやめなよ。色んな友達に声かけまくったりして、見つけ出すのもけっこう大変だったんだからさー」


 それを聞くとソフィは複雑な表情を浮かべて俯き、じっと何かを考え込んでいる。僕はそんなソフィの頭をそっと撫でて、愛らしい顔を覗き込んだ。


「ソフィ、お母さんに会えなくて寂しい?」


 肯定されたところで僕に出来ることなんて何もない。それでもソフィが母親に会いたいっていうのなら僕は、ソフィにこう言ってあげるんだ。――お前がママになるんだよ!って。


 しかしそれは杞憂だったようで、ソフィはふるふると首を振ってにっこりと死ぬほど可愛い笑顔を浮かべた。


「ううん、平気。だってわたしのお母さんは、お母さんだもん! さあお兄ちゃん、一緒に帰ろう――わたしたちの居場所へ!」

「あっちょっと待って。そんな唐突に締められてもまだちょっと早いんじゃないかな」

「そうよ、ソフィ。あたしたちの冒険は、まだ始まったばかりなんだから!」

「だからなんで締めようとするんですか」

「人の子先生の次回作にご期待ください」

「打ち切りじゃないですかってツッコミより、人の子先生っていう語感の不快感がヤバいです」


 ワケが分からないが、神族が総出でお話を締めようとしてきているので、神々の意に従って締めてしまうことにしよう。


 実際それ以上語るべきことなんてほとんど無くて、この後オリュンポスであったことといえばクソヘルメス含む6人でカレーを食べたことくらい。


 ゴドいちのカレーは涙が出るほど美味しくて、レジ横で売られていた高級ゴッドスパイスをヘルメスに買わせたので、今度お家でも頑張って味の再現をしてみようと思う。


 あと、いったいどうやって帰ろうかと思っていたら、ペガ車が空を飛んで僕らの村のすぐ近くまで連れて行ってくれました。こんなこと出来るなら最初から迎えに来てよって思ったことは内緒。





 そんなこんなで、僕らの旅はこれにてとりあえずの終結を迎えるのだった。


 本当に大変なことばかりだったけど、結果が伴ったのであればそれ以上望むことなどあるはずがない。


 これからもソフィと一緒にいられるというのなら、僕はそれだけで十分だから。


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