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そうだ、オリュンポス行こう  作者: くらうでぃーれん
3.泥と林檎と狩猟の女神
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3-1


 途中で一泊だけ別の町で宿泊して、僕らは協力者がいるという街、テバイへとやってきていた。


 テバイはアテナイに負けず劣らずの大きな街で、多くの喧騒で賑わっている。僕の村のように野菜と家畜がゴロゴロしてることはなく、人と建築物が多くを占める。

 都市を訪れるのは先日のアテナイに続いて二度目ではあるが、あの時は周りを見る余裕など無かったため、落ち着いて都市の様子を眺めるのはこれが初めてだ。


「すごーい。人多いねー‥‥」


 ソフィも初めての都会に驚いているようで、眼をキラキラさせて街並みを眺めている。


「はぐれちゃったら困るから、お兄ちゃんとしっかり手を繋がないとダメだね‥‥えへへ」

「あっ都会って素敵」


 大都市の素晴らしさをまたひとつ発見してしまった。


「ワケの分からないことしてないで、早く来なさい」

「何言ってるんですか大切なことです! こうやって兄妹の愛を確かめることd「私、帰っていいかしら」

「ごめんなさい」


 アテナ様が向かったのは、街中にある一軒のお店。外には丸い石が看板として活用されており、緑色の背景に白の線で髪の長い女性の絵が描かれている。


 どうやらそこは、珈琲を嗜むことのできるお店のようだ。僕の村ではこんなシャレオツなお店は見られなかったし、大きな街にやってきたんだなあスゴいなあ、と色んなモノから目を逸らすことにした。


「ここがイマドキの女性に人気のスターゴッドスよ。略してスタゴと呼ばれることが多いわね」

「へーすごいですねー」


 突っ込みどころはチョモランマだが、僕は何も言わないことにした。

 店内に入ると、緑のエプロンを着けた女性の店員さんが爽やかな笑顔で出迎えてくれる。店内はシックな色調で統一されており、机やソファがいくつも並び‥‥いや、ココは詳細を語るのは止めておこう。


 アテナ様の完成された容姿に目を奪われる店員を素通りして、彼女は軽く店内を見回してから、とある女性の座る席へと近づいて行った。


 2人掛けのソファのど真ん中を占領しているその女性は、目の前にいるのにそこに現実感が伴わないほど、息を飲むような美しい女性だった。


 星の輝きのように煌く長い銀色の髪。硝子のように澄んだ、薔薇の花弁のように赤い瞳。肌はアテナ様同様陶磁のように美しく、しなやかな四肢は名のある彫刻家によって創られたかのように指の先まで均整がとられている。


 アテナ様が持っていたのと同じ板のような何かを横向きに構え、真剣な表情を浮かべて向き合う姿はまるで一枚の絵画のようで、彼女の周囲に虹色の光の粒を幻視してしまうほど。


 桜色の瑞々しい唇はそっと閉じられ、静かな微笑みを浮かべている。細められた紅玉の瞳は慈愛に満ちて――と、思いきや、突如顔面の筋肉が流動体と化したかのようにぺちゃーっと緩んで、頬を染めて世にも幸せそうな声で呟くのだった。


「マジ天使‥‥俺の嫁ぇ‥‥」


 ここからでは上手く見えないが、彼女の持っている板の表面には、なにやらピンク色の髪をした女の子が体を揺すっていて、その下には「せんせ~、だ~い好き」という文面が刻まれていた。なんだろう、彼女はどこかの寺子屋の教師なのだろうか。

 いや、そんなものではないということくらい、分かっている。


 恐らくは彼女もアテナ様と同じ――神。


 断りなく対面に腰かけたアテナ様に気付いて、彼女は不機嫌そうに顔を上げる。

 しかしそれがアテナ様だということに気付くと、不機嫌さを潜めて目を丸くした。


「あれ、アテナじゃん。珍しいね、スタゴ来るなんて」


 彼女は耳に心地いい丸っこい声をあげて、ひらひらと気さくに手を振った。


「お店よりあなたに用があったのよ、アルテミス。それに、あなたこそ珍しいじゃない。食事に使うお金があるならガチャを回す、と言っていなかったかしら」

「もっちろん、その主張は変えないわ。でも今日は友達にタダ券もらっちゃってね。飲食に興味なかったけど、やっぱスタゴの珈琲は美味いわー」


 彼女は指に挟んだ「1杯無料券」と書かれたパピルス紙をぴらぴらと見せつけながら、ニカッと楽しそうな笑みを浮かべる。


 アテナ様が呼んだその神の名は、アルテミス。浅学な僕でも知っている、アテナ様と同様十二神の一柱たる、狩猟の女神だ。

 その容姿はやはり、人間離れした整い方をしている。放つオーラも常人離れしていて店内の注目を独り占め、いや、今はアテナ様と二分している。


 しかし、なんというか、アルテミス様はアテナ様とは違い、纏う空気が柔らかい。っていうか、ユルい。


「せっかく来たんだから、フラッペ奢ってよフラッペ」

「嫌よ。食べたいなら自分で買いなさい」

「いやいや、お金ないからお願いしてんじゃん」

「無駄遣いするからよ。自業自得ね」

「いやいやいや、今月のガチャフェスは激アツだったんだから! ぶん回し不可避でしょ!」


 僕にはとても理解できないゴッドワードが飛び出しているが、なぜだか分からないがとっても俗物の会話のように聞こえてくるのはどうしてだろう。多分、僕の信仰心が無いせいなんだと無理やり納得しておいた。


 アルテミス様は水滴の付着した透明カップの珈琲を飲みながら、ソファの上で片足だけあぐらをかきつつ、机に肘を乗せて僕を見上げた。


「ちゅーか、あんた何? そっちの幼女ちゃんは人の子じゃないよね。ワケわかんない組み合わせで、何のコラボイベントが始まってんの?」


 アルテミス様はソフィを見て訝しげな表情を浮かべる。


「いわば、私の妹にあたる子よ。そう言えばおおよそ理解できるかしら」


 アテナ様はソフィの頭に手を置いて、アテナ様に対面した時のソフィの説明を繰り返す。アルテミス様は「あー」と呆れた声をあげて、ちゅーとストローを吸った。


「相変わらずのエロオヤジね。で、わざわざ会いに来て、何の用?」


 すぐに本題に入り、僕が説明すべきだろうかとアテナ様に視線を向けると、手の平で制されてしまった。


「ちょっとね、この子のことで聞いてほしいことがあるのよ。あのね――」


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