第二十七話−魔術師の隠し立て−
「どうして、魔術師ばかりにこだわってるんだよ!」
僕にはケビンの言っていることが相変わらず理解できなかった。
むしろ、理解したくもない。
「そもそも魔術師ってなんなのさ」
すると、ケビンはケッと皮肉たっぷりの笑みを浮かべた。
「魔術師が何かって? お前、魔術師のクセにそんなこともしらないのか? ケッ へっぽこ魔術師が。
彼等は危険で、何をしでかすかわからない……人間の皮をかぶったバケモノとでも言おうか」
「ちょっと、待て。どうして僕が魔術師だってわかるんだ?」
「あの扉を知っているものは魔術師しかいない」
やっぱりケビンは本当の魔術師だったんだ……。
「確かにそうだよ。僕は……別に魔術師になりたくてなったワケじゃないよ」
しかしケビンは僕の意見を聞かずに、噛み付いた。
「そんなこと知るか! 外部に魔術師であることがばれたら、そいつを魔術師にするか、抹消するしかないんだよ」
そういい終わると、かつて無いほど不気味な笑顔でこう言った。
「もちろん! 俺なら、抹消するを選ぶけどな」
ケビンが一歩ずつ僕のほうへ付かずいてくる。彼の視線はまっすぐと僕を見据え、獲物を捕えたハイエナの様に口の縁がつれあげている。
あと一歩で僕と鼻がくっつくところで足を止めると、彼は僕の顔面に手をかざした。
「汝、影の世界より現れし、ここに来たれり」
ケビンがそういい終わったと同時に、僕の背中にはまるで氷水をたらされたかのような悪寒が走った。
それは脊髄を這い上がり、脳の中にまで広がって、僕の思考を凍りつかせる。
冷たく張り詰めた空気が教室の中を満たした。
その恐怖で、怖気づいてしまったのか、はたまた彼の力によってか、僕は一歩たりとも動けなかった。
ケビンの顔に目が釘付けになっている。吸い込まれそうな、冷酷で、悲しみを帯びた目に。
その瞳に生命力を吸い取られていくかのように、体温が下がり始めた。リトルに首をきられた、あのときの感覚にそっくりだ。それと同時に、何かが体をきつく締め上げる感覚がある。
まるで僕から生命力をしぼりだそうとしているかのように。
「」
身もだえしてなんとか彼の呪縛から逃れようとした。しかし、足に力が入らない。僕の足は震えるばかりで、前へも後ろへも進められなかった。
もうダメだ……意識が保てない。ひどい貧血になったときみたいに、視界がどんどん暗くなっていく。
そのとき、ケビンはふっとかざしていた手を下げた。
さっきまで僕の体を支配していた冷たい空気が余韻を残して去ってゆく。
すると、指先からじんわりと血管が広がって、次第に体温がもどってきた。
「お前が本当の魔術師なら今の技を防げたはずだ。フン、お前みたいな奴が魔術師になったなんて、とんだ魔術師の仕業か……それともただの自惚れか?」
ケビンは薄ら笑いを浮かべながら僕をなじった。
違う!そんなんじゃない!
「だって、リトルが……!」
「リトル?」
しまった。つい彼の名前を出してしまった。
どうしよう……彼の顔が頭に浮かぶ。ケビンにもジェシーに話したときと同じことを話すのか?
もしかしたら、ケビンはジェシーとは違うように僕の事情を捉えてくれるかもしれない。
すると、ケビンが突然釘をさした。
「リトルって、もしかしてお前を魔術師にした奴か?」
「どうして知ってんだよ!」
「イニシエーションは、特別な場合を除く限り一人で行うことは無いからな。最低でも、一人は魔術師が必要だ」
嘘だ。ちょっとまて。
ケビンが言っていることが、本当だとしたら、やはりリトル・ビニーという人物は魔術師だったのか?
彼は未来人だと名乗っていた。いや、未来人だろうが魔術師だろうが、ペテン師と何ら変わりない奴に決まってる。
「無論、俺はちゃんと選ばれた魔術師で正当な場でイニシエーションを受けた。」
ケビンは一旦間を置くと、消え入るような声で言った。
「でも……俺には……」
すると、彼は不意にうつむいて、鼻をすすった。両手で握られたこぶしが震えている。
「俺には……」
次の瞬間、ケビンは顔を振り上げて涙ながらに叫んだ。
「何も知らないお前に何がわかる? お前のようなへっぽこな魔術師なんてこの世からいなくなればいいんだ! 所詮、力のあるやつだけが、生き残れるんだよ!! 今に見てろ? ジェシーもリップも、そしてウィルソン先生も俺がこの手で抹消してやる!! レンディ、お前は彼等が死んでいくところを精々ハンカチでも持ってみてるんだな」