第二十六話−密告3−
僕たちは、職員室に行くまでの間、ずっと沈黙を守っていた。
ローテーションもいいところだ。
ウィルソン先生は、僕たちよりも早く職員室へ向かったので、僕とジェシーが廊下を歩いている間、彼の姿は見えなかった。
ウィルソン先生とくれば、リンゴみたいに丸々とした体をしていても、異様に足が速くて、いつでも神出鬼没だ。生徒達はめったに見かけたことが無い。 でも、今、僕たちはその先生とじっくり話し合う機会をもらってしまった。それも、”怒られる”という名の話し合う機会を……。
僕は、時々逃げ出したケビン達のことを思い出しては、ためいきをついていた。
あいつらときたら、先生が来たらとっとと逃げ出しやがって……。 まったく、許せない!
「そんなに落ち込むこと無いわよ。 私が変な好奇心を働かせたりしなかったら、こんなことにはならなかったんだから」
ジェシーはそっと、僕を励ましてくれたが、僕の気分は一向に晴れなかった。
「ジェシー、自分のこと責めちゃダメだよ。 どうせふたりとも怒られるんだ」
僕たちは、顔を見合わせてから職員室のドアをあけ、ウィルソン先生のいる机へと向かった。
ウィルソン先生は、右手の人差し指と中指にタバコをはさみ、親指でそれをいじくり回していた。 垂れ下がったマユの下からは嫌な目つきが覗いている。
僕とジェシーは、先生の前に並んで気をつけの姿勢で立ち、怒られる準備をした。
「フゥ、まったく。 どうして準備室なんかに入ったんだ?」
先生は安楽チェアーにドッカリとだらしなくもたれかかり、右手に持っていたタバコを肘掛に備え付けの灰皿に押し付けた。
「それは……その……」
僕は秘密を守りたかった。 けど、大人に嘘をついたって、見抜かれるのは百も承知だ。
先生の突き刺すような眼光がそれを悟っている。 正直に言うしかない。
「実は……」
すると先生は意外にも、僕の話を聞いて盛大に笑った。
「ハッハ! 君は作り話の天才だ」
しかし、先生の機嫌を取れたのはいいものの、僕の言いたかったことがいまいち伝わっていないようだ。
「違うんです! これは作り話なんかじゃ……」
「レーンディー。 お前の想像力がたくましいことは、クラスの担任からとうに聞かされとるぞ」
先生は、笑いを隠すために一度咳払いをすると、その顔からさっきまでの笑みが消えて、さっと険しい表情になった。
「先生をからかうのもいいかげんにしてくれ。 馬鹿も休み休み言うものだ」
僕はしょんぼりと下を向いた。
「先生が……信じてくれないのでしたら、一向に構いません。 僕は本当のことを言いました」
先生は僕の言ったことにあきれ果てて、溜息を漏らすと、今度はジェシーの方を向いた。
「では、ジェシカ。 お前もこの子に同行したんだな?」
「はい……」
「では、同罪とみなそう。 今回のところは多めに見てやるが、次は絶対に許さんからな。 ああ、絶対にだ」
先生からのお小言を受けた後で僕たちは職員室を出た。
ジェシーは職員室を出た瞬間、早速のど奥にしまいこんでいたことをぶちまけた。
「あの先生、どうかしてるわ!」
しかし、僕が「うん、本当にそうだね」と言いかけると、彼女は
「でも、今回のことは、ドンマイ! 私気にしてないから」と、笑顔でそう言って、僕の肩をポンと叩いた。
さっきまで、本当に僕と一緒になって先生に怒られていたとは、思えないくらいに、彼女はハキハキしている。
しかし、僕は彼女に神殿のような場所のについて話したことをすごく後悔していた。
先生には、あの扉のことがわからなかったのは良いものの、ケビンやリップにまでバレてしまった。
バラしてしまったことで、何が悪いかといえば、僕が魔術師になった時点でケビンが一体何をしでかそうと考えているか、わからないところだ。
あの日記の件といい、口止めされたことといい……。
だから、なおのこと、ケビンに対する妙な恐怖心はとどまるところを知らなかった。
準備室で、僕が彼を魔術師だってバラしてしまったときに、僕のことをにらみつけたあの目、あの表情。
今でも鮮明に頭の中に残っている。 しかし、彼のあの態度の裏に隠された、真実は謎のままだ。 もしも、僕に彼の心の中が読めたら……!
一通りおしゃべりが終わった後、ジェシーは急ぎの用事があるといって、そそくさと学校から立ち去った。
残された僕は教室に置きっぱなしだったリュックを取りに行った。
そのとき、僕は一番会いたくない人物と出くわすことになってしまった―――そう、教室に飛び込んできたとき、教室のど真ん中で、なんとケビンが待ち構えていたのだ。
「なァ、どういうことだよ」
彼は、下を向いたまま、上目遣いで僕のことをにらみつける。
「何?」
「わかってんだろ? 俺が魔術師だって、あの時バラしたことさ」
そう言いながら、でかい足音を立てて、僕に迫ってきた。
「ああ、あれは冗談に決まって……」
僕は笑ってごまかそうとしたが、ケビンが表情をこわばらせたまま、微動だにしない様子を見て、笑いが通じないと察し、そのまま言葉を飲み込んで黙りこくった。
「じゃあどうしてジェシーもつれてきていた? まさか、本当にデートに誘ってたとか、言うんじゃないだろうな」
あたりし静まりかえっていて、外から吹き付ける風がカーテンを揺れ動かす音しか聞こえない。
ケビンは続けた。
「どうせ、隠し扉だとかなんとかを見せたいと思ったんだろう?」
「それは……」
僕がいつまでももじもじしていると、ケビンは突然、凍りついた表情で言い放った。
「お前だって、魔術師ならわかるハズだ。 一般人がこの世界に入ってきたら、危険だってことをな」




