第二十五話−密告2−
「やあ、二人でデートでもしてるの?」
調子のいい声で、ケビンが僕等のことをおちょくってきた。 彼の隣にはつれのリップいる。
「なんだよ。 ケビンも混ぜてほしいのか?」
僕が皮肉っぽくそういうと、ケビンは鼻をこすって、笑わせるんじゃねえといったように返事をした。
「ごめんだね! それよりもどうしてこんなところにいるんだ、お前等?」
どうしてって……
僕は、ケビンには”あの神殿”のような場所があることを知られたくなかった。
彼は「俺は魔術師になるんだ」とか理解不能なことを行っていたが、どうして僕等が彼以上に魔術師のことについて深い事柄を知っているのかなんて、彼は知らないだろう。
でも、彼のことだから、それくらいの知識は持ち合わせていそうだ。あの神殿で、彼はもしかしたら魔術師になろうとしているかもしれない。 もしくは、もうなっている……?
いやいや、まだ自分の目で確かめワケじゃないんだから、そうとは決め付けられない。
でも、あまり多くの人間に秘密にしておかなければいけないようなことを話すのは気が引ける。
ましてや、ケビンに? 僕が彼と同類になっていることなんて……ジェシーの前で、そんなこといえない。 言ったって、ますますことがおかしくなるだけだ。
それに、仮にも僕がケビンより先に魔術師になっていたとしよう。彼はどう思う?僕をひやかしてくることなんて目に見えている。
僕は、ケビンに
「ケビン達には関係ないよ」と、無表情で答えて、彼の興味を退けようとした。
すると、ジェシーも口を挟んできてで僕をフォローした。
「そうよ。 もともと二人だけでくるつもりだったんだから」
しかし、今度はそれを聞いてリップが
「おい、本当なのかよ」
と、ケビンに向かって耳打ちをし、何かを仄めかす。
それを聞いて、ケビンはビーズのような小さい目を今にも飛び出しそうなくらいにひん剥いて大声を出した。
「やっぱりデートか! ヒューヒュー。 皆に言いふらしてやらぁ!」
さっきジェシーの言った一言を勘違いしやがったんだ!
しかも、皆に言いふらすだと?!
僕は頭にきて、思っていたことを口にした。
「お前だって、魔術師じゃないか! 知ってんだろ? 隠し扉があること!」
しかし、口止めされていたことに気づいたのは、言ってから数秒たってからだった。
扉があることを知っているのは、僕だけのハズなのに……これで彼に僕が魔術師であることが完全にバレてしまった。
そして、ジェシーとリップにもバレてしまった。
隠し扉があることなんて、勝手な思い込みで聞いてみたけれど、彼は氷のような表情で何も言おうとしない。
その恐怖をあおるように、あたりは、しんとして静まり返った。
ジェシーはわけもわからず、ぽかんと口を開いて、ケビンのことを呆然とながめている。
そして、リップは、眉毛を片方上げて、ケビンの顔を覗き込んみ、冗談だろ?とでも言いたそうな薄ら笑いを浮かべ、ケビンはといえば、その二人には目もくれず、僕の顔を驚いたのかキれたのかわからないすさまじい鬼のような形相でにらみつけている……まずいことになった!
しかし、次の瞬間その鬼のような形相がふっと緩み、彼はクスクスと笑い出した。
「フン、そうさ。 俺は偉大な魔術師だ!」
意外だ。
僕は間が抜けて、唖然としてしまった。 すると、そこへ理科の先生の助手であるウィルソン先生がドアを開けて中へ入ってきた。
「君たちは……」
先生は僕たちを見るなり、驚いてめがねの縁をつまんで目をぱちくりさせると、いぶかしげに僕たちに向かって質問を投げかけてきた。
「……どうしてこの部屋にいるんだい?」
「わあ、ごめんなさい! 先生」
するとジェシーは、先生が言い切る前に急いでウィルソン先生に頭を下げた。 僕もそれを見て、頭を下げると、すぐさまビーカーの入った戸棚を元に位置に戻して証拠隠滅を試みた。
しかし、先生は、既に気づいている。今更、努力したって無駄だ。
しかもそれを見るや否や、ケビン達はそそくさとその場から逃げ出していった。 なんて奴だ!
ウィルソン先生は、ケビン達に対してか、僕たちに対してかわからないが、軽く舌打ちをして、腰の後ろで手を組んで背を向けた。
「……ジェシカとレンディはあとで職員室へ来なさい」