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第四十二話−決行−

 その後、僕はリトルがこれからどうするのかについて、ずっと考えていた。

 確かに、ジェシーたちが先にレストランで食事をしてきてしまったのなら、ホテルの部屋をあけている確率がぐーん、と減ってしまう。

 そうだとしたら、僕たちはどうやってホテルの部屋に忍び込めば良い?


「ねえ、リトル。 このプレゼント、渡せるかな?」


「どうした?」


 僕は疑問に思ったことをぶつけた。


「ジェシー達が部屋にいる確立は高いよね? どうやって忍び込むのさ」


「ジェシー達の来る前に部屋に忍び込めばよいだろう」


「そっか!」


 それなら合点がいく。


「寝ているところをずかずかと入り込むのはきが引けるからな。 そのためにも、だ」


 そして、一息ついた後、彼は僕に念を押した。


「それと一つだけ言っておくが、お前も入るとなると、二倍の苦労がかかるぞ?」


「別に構わないよ。 ジェシーにプレゼントは渡せるんでしょう?」


 すると、彼は僕をおちょくるように


「まあな。 お前が何かしらのへまをやらかさなければな」


と、言った。


***


 ホテルについたあと、僕達はひとまずジェシー達がチェックインしていないかを確認するために、カウンターのそばに置いてあった予約票を盗み見た。


 大丈夫、まだチェックインされていない。

 他の客達に若干あやしまれつつも(なんといっても、リトルの格好が異常だ)、僕等はホテルにチェックインした。


「ねえ、これからどうするの? プレゼントはどうすれば……」


 僕はあらかじめ、リトルの意向をくみとっておきたかった。 プレゼントのこともあるし。

 なので、自分達の部屋に向かうまでの間に、彼からできるだけ話を聞こうとした。


「プレゼントなど後回しだ。 他の日にしろ」


 しかし、彼はなかなか手の内を明かしてくれない。どうしても渡したいから、彼が何をしようとしているのか知りたいのに。


「どうしても今日じゃないとダメなんだ! リトルは一体、何を考えているんだよ?」


 しかし、彼はあまり相手にはしてくれなかった。

 子供みたいにわざと機嫌を悪くしてみたりもしたが、彼には通らない。


「フン、そんなに渡したいのならことが済んでからだ。 相手には気づかれたくないからな」


「……わかってるってば」


 僕はむっつりと答えたが、彼には僕の考えていることが図星だったらしく、


「だいたいなあ、お前に何かしらを教えてところで、そのプレゼントやらを渡すための隙を見つけ出そうとしているのだろう?」


 と、言った。

 そして、今度は打って変わって、ものわかりの悪い子供にやさしく諭すような口調で返してきた。


「あの子を助けてやるためだと思え」


 ケッ。 何が助けてやるだよ。 そんなの子供に自分の言い分を押し通すための口実に過ぎない。

と、僕は思った。 ときには ひねくれた考えも頭をすり抜けるものさ。 子供っぽい態度を取ったからって、僕が本当に子供なワケじゃない。 それくらい、わかってるくせに。 じらすなよ。


 だいたい、どうしてこんなことをしてまで、ジェシーの記憶を消さなくちゃいけないのか、僕にはわからない。

 世の中の深い道理だなんて、ましてやこの男の考えていることなど、ぼくにはひとつも理解できない。

 記憶を消すことに一体、何の意味があるのか。

 それはこの男、リトル・ビニーだけが知っている。


***


「着いたぞ」


 目の前の扉には、”701”とかかれたプレートが貼り付けられていた。

 ここが、僕達の泊まる部屋だそうだ。

 サービスマンの人が部屋のドアを開けてくれた。


「どうぞ、ごゆっくりとしていってください」


 そう言って部屋の中に僕達を案内すると、彼はリトルに鍵を渡した。

 そして、頭を下げて部屋を出ようとしたそのとき、リトルがサービスマンの足を止めた。


「おい、ちょっとまて。 聞きたいことがある」


「はい、何で……」


 次の瞬間、リトルはサービンマンのえり首をつかみ、顔面に一発こぶしを入れた後、うなじにチョップを加えて、サービスマンを気絶させた。

 僕はその光景を見て、思わず息を飲み、あぜんとした。


「レンディお前も手伝え」


 彼はそう言って、ぐったりとしたサービスマンを抱え上げる。


「ど、どうするんだよ!」


 僕がとっさにそう答えると、彼は落ち着き払った様子で


「いいから、お前はあのクローゼットのトビラを開けろ」


 と、クローゼットを指差す。


 その指の先を見ると、そこには何の飾り気も無い木製の大きな扉があった。 あれがクローゼットだ。

 僕は急いで、クローゼットの扉を開けた。

 防臭剤の匂いがムンと漂う。 まさか、この中に……?


「よし」


 やはり、リトルはサービスマンを抱えたまま、その中に入っていった。

 そして、リトルはクローゼットを閉めろ、と僕に命令する。


「ねえ、何をするつもりなの?」


「いいから閉めろといっているだろうが」


 しかし、リトルに時間が無いとせかされたので、僕はしぶしぶクローゼットの扉を閉めた。

 数分後、僕はとんでもないものを目にする。


「え……もしかして、リトル・ビニー?」


「そうだ」


 まさか! まさか、こんなところでリトルの素顔を見られるだなんて、夢にも思っていなかったよ!

 クローゼットの扉の中から出てきたのは、中性的な顔立ちのサービスマンだった。さっきのとは中身 が違う。もともといたサービスマンは、どちらかといえばヒゲ面のオヤジタイプだ。

 まさか、もう、まさか本当にリトルが仮面をはずして、こんな格好になるだなんて……


「やつの服をはいで変装につかうことにした。 奴には、しばらくの間眠っていてもらう」


「あの……さ。 ひとつ聞きたいことがあるんだけど」


「何だ?」


 僕は、リトルの顔を指差した。


「それって、リトルの素顔なの?」


「いや、違う」


 そんなバカな!


「複願技術を用いて作った、仮の顔だ。 フフ、私が本当に仮面をはずすとでも思うのか?」


「そのまえに、あんたの心の仮面をはずしたら?」


 僕は、冗談のつもりで言ってやったが、


「うるさい、どうせその言葉の意味もしらないくせに」


 リトルはみごとに僕を罵り返した。

 ここまで言われると、頭が上がらない。


「お前には、あの男の番を頼むぞ。 私はジェシーのところへ行ってくる」


 そう言って、リトルは部屋から消えた。

 僕が、あの男の面倒を見るのか。


もし、あの男が起きたらどうするんだ!


その後、リトルが気絶させた男と二人きりになってしまった僕は、もしもあの男が起きてしまった場合のことを考えていた。

時計の針が、嫌というほど、耳障りな時間の刻み方をする。 しずまりかえったこの部屋も、あの男が目を覚ませば、静寂が打ち切られる。


あの男が起きたらどうする?

 あの男が起きたら……


 いや、起こさせないようにすればよいのでは……?

ベットの枕もとに質素な白い電話があった。

 僕はそれを使い、まず、サービスカウンターに電話をかけることにした。


「あの、すみません」


「はい、何でしょうか」


 澄んだ声の女性スタッフが受け答える。


「睡眠薬はどこにありますか? あの、寝つきが悪くて」


「睡眠薬でしたら、歩いて3分のところに薬局が有りますが」


「わかりました、ありがとうございます」


 僕は電話を切った後、すぐさまバックの中をあさった。

 よし、財布はある。 中には、八ポンドと七十二ペンス。少し頼りないが、これなら睡眠薬が買えるハズだ!睡眠薬を飲ませておけば、ニ、三時間はもつだろう。

僕は男に気づかれないよう、そっと部屋を出、速やかに薬局へと向かっていった。

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