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悠々異世界漫遊譚 〜おっさん旅すりゃ、世界がさざめく〜  作者: かたか那由他
第5章

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第51話「見送りの朝」

 昼下がりの食堂。


 城詰めの兵士の人たちに混じって、列に並ぶ。


 厨房の中では、厨房長のおじいさんとユキオさんが、言い争いながら、また何かを作っているみたいだ。


「本当に卵の黄身入れるだけで、酢と油が混ざるってのか?」


「ホントだって!美味しいからさ。頼むよ」


 ユキオさんは、時折厨房に入って厨房長さんと料理をする。


「ユキオさんは、相変わらずですね」


 ノルさんが、席についたわたしの前に座った。


「この間、ユキオさんの故郷の料理食べさせてもらったけど、すごく美味しかったです」


 わたしがそう言って、その後はしばらく二人でユキオさんの考案したメニューの話で盛り上がった。


「ユキオさんは……本当に不思議な人です。誰も知らないような事を知ってるかと思えば、当たり前のことを知らなかったり」


 ひとしきり話をしたあと、ユキオさんの方を見ながらノルさんが言った。


 それを聞いて、わたしも前から思ってたことがあった。


「そういえば、前に本で読んだんです。来訪者のお話」


「来訪者?」


 聞き慣れない言葉にノルさんが首を傾げる。


「はい。昔の石碑に、異世界から来た何者かの姿が描かれていたそうです。その石碑を読み解いた学者さんによると、その何者かは別の世界からやってきて、この世界にない知識を授けてくれた『来訪者』なんじゃないかって書いてありました」


 興味深げに聞いていたノルさんが笑みを浮かべる。


「確かにユキオさんなら、別の世界から来ててもおかしくはないかもしれませんね」


「ですよね」


 二人で顔を見合わせて笑った。


 少し間があいて、ノルさんが改まって言った。


「リンドさん。わたしは、一旦エルフの里に戻ることになりました」


「そう……ですか」


 ノルさんは特使としてここに来た。だから、その報告を里にする必要がある。


 わかってはいたけど、いざとなると……寂しい。


「明朝には出立の予定です」


「あの……お見送りに、行かせて下さい」


「勿論」


 ノルさんは微笑みながら優しく頷いた。


 ──


 翌朝。


 早朝の澄み渡った空気に朝靄が残っている。


 王宮の門の前、王都へと下る緩やかな坂道には、出発の準備を進める魔族の男女が数名。


 ユキオさんはシェルダさんと話しており、ノルさんはそれを見守るように少し離れて立っている。


「ノルさん、おはようございます」


 ノルさんの元へと向かう。


「おはようございます」


 ノルさんは変わらず穏やかに微笑んでいる。


 わたしの顔をじっと見ると、優しく手をわたしの頬に当てる。仄かに温かい。


「よく眠れなかったんですか?」


「……はい」


「色々考えてたんでしょう?」


「……」


「エルフの諺に『考える兎は考えない狼より手強い』というものがあります。あなたが一所懸命に考えて出した答えは、きっとあなたを強くしてくれます」


 頬に伝わる温かな感触に目頭が熱くなる。


「考えても答えが出ない時には、迷わずユキオさんやシェルダ、それにわたしにも相談してくださいね。離れててもお話はできます。そうでしょ? アノンさん」


 呼びかけられて、アノンさんが他の人達に見えないよう、わたしとノルさんの間にぽんと姿を現す。


「ああ、つながってるからな。よべ」


 頭の葉を揺らしながら答える。


「ありがとうございます」


 話の済んだらしいユキオさん達がノルさんを呼ぶ。


 アノンさんは、わたしの胸元に潜り込んで、顔だけをのぞかせた。


 ひんやりとした感触に少し驚いたけど、不思議と心地よい。


 ノルさんがわたしに顔を寄せて耳打ちをする。


「ユキオさんのこと、しっかり見ててあげてくださいね。あの人はこっちの世界のことに疎い『来訪者』さんですから」


「ふふ……わかりました」


 二人でくすくすと笑う。


 その後、ノルさんは外交官の人達と一緒に馬上の人となって出発した。


 朝日に照らされるその背中を見送りながら、昨晩ずっと考えていたことを思い出す。


 ──わたしはこれからどこで、どう生きればいいんだろう。


 それを思うと頭の中に不安が押し寄せてきて、ベッドの上でいくら考えても答えは出なかった。


 漠然とした不安が胸を締め付け、気付けば朝になっていた。


 どうすればいいのか、どうしたいのかはまだわからない。けれど、考えられるうちは考えよう。


 迷ったら相談しよう。


 ユキオさん達との出会いは、母様がくれた大事な贈り物だから。それに──


「アノンさんも相談に乗ってくれますよね?」


「そうだん? のるぞ。ユキオの『そうだん』に、いつものってやってるからな。なれてる」


「ふふ」


 少し気持ちが楽になる。


 徐々に遠くなるノルさんの姿を見ながら、次に会える時がまた来ることを信じて、残してくれた頬の温もりに手を添えた。

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