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悠々異世界漫遊譚 〜おっさん旅すりゃ、世界がさざめく〜【旧題:LV99のゆるっと最強異世界漫遊記 〜スローライフは世界の安寧の後で〜】  作者: かたか那由他
第2章

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第14話「待望の散策」

 エルフの里フェニルド、木々と建物が融合した興味深い街並を窓から眺めながら、俺は溜息をついた。


 ガルフェルド討伐から四日間、エルフの上層部は事後処理に追われ、俺への処遇は棚上げ状態だ。


 シェルダは事情聴取のために、時折呼ばれているようだが、俺のことはノルに話を聞いているのか、まだお呼びはかからない。


 或いは、俺に話させるとろくなことにならないと、ノルが考えているのかもしれない。


「いかん、気が滅入ってきたぞ」


 ひとりごちて、いつもの棒を収納空間から取り出す。


「おーい、アノン」


「なんだ?」


 名前を呼ぶと棒の精霊? である、アノンが姿を現した。


「暇だから、話し相手になってくれ」


「またか」


「そんなこと言うなよ」


「きのうが七じかん、おとといが四じかんだ」


「そんなに喋ってた?」


「きのうは、しゃべりながら寝てた」


「それは悪かったよ」


 アノンは腕組みしてこちらを見ている。


「でもさ、こんなにヒマなんだからしょうがないだろ?」


「なにが『しょうがない』?」


「お前に沢山喋ってしまうことだよ。あの熊倒してから、この兵舎に案内されて、外出も禁止されてもう四日だぞ。そりゃ、日に一回は浴場に行けるけどそれもこの建物内だし。フラストレーション溜まるぞ」


「ふらすとれーしょん?」


「ええと、欲求不満、だな」


 アノンと話すときに、つい出てしまう現代語を解説するやりとりも、この四日間、何度も繰り返した。


「ユキオはなにがしたい」


「そうだな。とりあえず、街を歩いてみたいな。見ろよ。あの街並み」


「ギルドがあったまちとはちがう」


「ああ、木が多くて建物と融合してる。お店も変わったのがありそうだし……お前も見に行きたいよな?」


「みたい」


「収納空間からでも見たり聞いたりできるのか?」


「できる」


 それは良かった。危うく棒を片手に街を歩き回る怪しげなおじさんが誕生するところだった。


 そんな話をしていると、扉を叩く音がした。


「はい」


「失礼」


 ドアを開けて入ってきたのは、どこかで見覚えのある壮年のエルフの男性だった。


「ユキオ殿、改めてお会いできて光栄です。私はサルドと申します。ガルフェルド討伐の折は、広場への誘導の任に当たっておりました」


「ああ、あの時の!」


 ガルフェルドが里に侵入した時に、対応に当たっていた部隊の隊長さんだ。


「いや、おかげで道に迷わなくてすみました。ありがとうございました」


 彼らの誘導が無かったら、別の場所に連れて行ってしまっていた可能性もある。本当に助かった。


「本日ここへ来たのは、里長から貴方の案内を仰せつかって参りました」


「案内?」


 なんだか、いい予感がする。


「はい。この四日間、宿舎に留めておいて申し訳なかったと里長が申しておりました」


 忘れられてなかっただけで嬉しい限りだ。


「それで、ご迷惑でなければ街をご案内差し上げようと……」


 渡りに船とはこのことだ。


「それはもう! 是非お願いします!」


 返事にも力がこもる。


「それは良かった。昼食も外でいかがですか?」


 こんなに嬉しいことはない。この宿舎で頂いた料理も悪く無かったが、開放感が最高の調味料になるに違いない。


「では、参りましょう」


「はい!」


 ようやくエルフの里に来た目的を果たせそうだ。


 ◆


 里の目抜き通りを連れ立って歩きながら、フェニルドの歴史や店舗の話を聞く。


 サルドはエルフと思えないほど武人然とした雰囲気だが、なかなか説明上手で聞き飽きない。


 興味深く相槌を打ちながら歩いているのだが、ちらちらとこちらを窺う視線が気になる。


「やっぱり、人間って里だと目立つんですかね」


 小声でサルドに尋ねると、サルドは一瞬きょとんとした顔をして、苦笑した。


「人間だからではありませんな。ユキオ殿の働きは、兵達の口から里の皆へと伝わっております。あのガルフェルドを倒した里の救世主ですから」


「まいったな……」


 狼狽する俺を気にせず、サルドはあの日の事を思い出しているようだ。


「あのガルフェルドを手玉にとり、仕留める技量。目にした兵士の口を封じることは難しいでしょう」


 ──なんともむず痒い。


 その後もいくつかの店を見せてもらったが、道行く兵士から敬礼されるわ、遊んでいた子どもらには囲まれるわで、今更ながら柄にもないことをしたものだと思った。


 しかし、エルフの里は風も穏やかで過ごしやすい。


 季節のせいもあるのか、サルドに聞いてみると、エルフの里は森の働きのおかげで夏と冬の温度差が少なく、穏やかな気候なのだそうだ。


 畑などの作物についても実りが多く新鮮な野菜が食べられるのだと言う。


 確かに、宿舎の食事も野菜が豊富だった。代わりに肉類が寂しかった印象はあるが。その事を聞くと、


「肉類はあまり食べないのです。代わりに豆類を良く食べますね。私は若い頃外で冒険者をしてたこともあるので、肉類も嫌いではないですが、年配のエルフは肉を一切食べないこともあります」


 なるほど、野菜も嫌いではないが、やっぱり肉や魚は自分の食事には取り入れたい。ちょっと悩ましいところだ。


「もっとも、最近は獣人やドワーフの移民も増えましたから、肉類も多少は手に入りやすくはなったかもしれません」


「なるほど」


 食べ物の話をしていると、段々腹が減ってきた。太陽も間もなく直上にさしかかる。


「昼食ですが、我が家でご馳走させていただけませんか? ノル嬢からできるだけ普段の生活を見せてやってほしいとも言われていますし」


 嬉しいお誘いだ。俺の本来の目的を知っているのはノルだけだから、気遣ってくれたらしい。


「是非お願いします」


 サルドの奥さんと二人の息子とテーブルを囲み、久々に家族団欒の雰囲気を味わわせていただいた。


 ねだられて俺とガルフェルドの戦いを熱く語るサルドさんと、キラキラした瞳で俺を見る子供たちには少し参ったが、俺の最終目標が引退と悠々自適なスローライフであることを話した時の、なんとも言えない表情が親子そっくりでなんとも印象的だった。


 ◆


 翌日は、一人での街の散策が許され、のんびりと散歩することができた。


 思うさま街を見て回り、どの辺りが住みやすいだろうとか、畑を借りられるだろうかとか、色々考えつつ宿舎に戻ると、門衛の兵士から案内があった。


 なんでも、里長がささやかな祝宴を開くので、来てほしいとのことだった。断る理由もない。


 宿舎を出て執務舎へ向かう。


 途中、エルフの老婆から手を取り、礼を言われた。気にしなくて良いと言ったのだが、


「ひ孫の代まで語り継がれるでしょう」


 とまで、言われる始末。長命のエルフのひ孫なんて、何百年語られるのか。


 礼を言われるのは悪い気はしないが、なんだか照れくさくっていけない。


 執務舎に到着し、案内に従う。


 宴席は執務舎の広間を会場にして行われるようだ。柱や梁に蔦や葉の意匠が施され、室内を柔らかい光が満たしている。堅苦しいのを想像していたが、立食形式で行われるようでほっとする。


 皆の手には漆器のような木製のグラスが握られており、芳醇な葡萄酒の香りがあたりには漂っている。


 既に大勢が集まっており、俺が会場入ると一斉に集まり、握手されたり、ガルフェルドと対峙した時の話をせがんできたりとちょっとした騒ぎだ。


 困惑していると、広場の奥に設えられた壇上に里長ミエラが立った。


 一瞬にして静寂が広がり、皆姿勢を正す。


「先のガルフェルドの襲撃において、里の民に死者が出なかったことは幸いでした……。職責を担って勇敢に戦った兵士の皆さんに、まずは感謝とねぎらいを申し上げます」


 先の戦いは、ガルフェルドへの対応だけでなく、吸い上げられた瘴気の放出先で、エルフの精鋭達とモンスターとの激戦が繰り広げられたという。まさに総力戦だったのだ。


「これから、二度とこのような事態が起こることがないよう、適切な結界を維持、管理するために尽力しなければなりません。ここにいる皆さんと里の人々が長きに亘る安寧を実現すべく、協力してくれることを願います」


 厳粛な雰囲気で話が続き、功労者として自分の名前が挙げられて、恐縮する。


 目立つのは苦手だ。


 挨拶が終わり、めいめい寛ぎながらの歓談中。


 また人に囲まれていると、シェルダがテラスへと向かうのが見えた。


 何やら、ピリついた表情をしているのが気になり、後を追って夜の闇の滲むテラスへと出た。

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