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瘴気の原因

 ちょっと長いです。

「ふむ、瘴気か」


 目覚めて、ペトリアークさんから話を聞いていたアニエスは顎に指を添えた。


「我々では原因を掴めなかった。適任はお主をおいて他におらん。契約に従い調査して欲しい」


「やるのは構わんが、専門ではない。望んだものが得られるとは思うな」


「構わん」


 ならいいだろう、そこまで案内しておくれ、とアニエスは話を進めていく。え、勝手に行っちゃうの?


「ア、アニエス?」


「なんだい、主様?」


「えっと、俺達はどうすれば?」


 アニエスは不思議そうにこちらを見つめている。


「どうするも何も、先に帰ればいい。事が済んだら連絡を……っと、そういえば繋げていなかったね」


 何を? と俺が聞く前にアニエスがどんどん近付いてきて、俺の頬を両手でしっかりと包み込む。そして顔を近付けて……わぁ、アニエスの瞳ってほんのり赤みがかった黒眼なんだ、綺麗だな。なんだか親近感が……って、近い近い近い!!


 アメルが何かを叫ぶ中、アニエスはお構いなしに俺との距離をほぼゼロにして、唇ーーーーではなく、額と額を合わせてきた。


「……へ?」


 そしてすぐに俺から手を離したアニエス。な、なんだったの? 今の。俺が呆然とする中、頭の中で声が響いた。


(ーー聞こえるだろう? 主様)


 これは……融合した時の感覚に近い。アニエスは眼の前で何も話していない、この声は恐らく俺にだけ聞こえている。


(ア、アニエスだよな? これは?)


(なに、主様と回路を繋げただけさ。意識すれば、私がどこにいても話せるよ)


 回路? なにその便利な機能。


「カイルさん! カイルさん! 大丈夫ですかっ!?」


 アメルが俺達の間に割って入り、身体を揺さぶってきた。大丈夫だから、そんな振り幅大きくしないで。俺は意識をこの場に戻される。その様子を見て、アニエスはフッと笑った。


「なんだい主様、そんなにぼーっとして。もしかして、口づけが欲しかったのかい?」


「は!?」


「言ってくれれば……ふふ、冗談だよ。そんな訳だから、何かあれば召喚してくれたらいい」


「召喚?」


 なにそれ? またも俺のスキルに無い言葉を告げられ、不思議そうな顔をしていたんだろう。そんな俺を見て、アニエスは眼を大きく見開いていた。そして深い息を吐き、こう話す。


「……逐一、主様は私の予想を超えてくれる。予定変更だ、主様も付いて来ておくれ。危険はそうないはずだ」


 含みを持ったアニエスの発言に不安を覚えつつ、俺達は案内の元、川へと向かう。道中、本当に大丈夫なんですか何か変な所はないですか、とアメルに早口でずっと心配の声を掛け続けられた。いや、嬉しいけどおっかないって。



 日もすっかりと暮れ、エルフ達は松明を使わず、光の魔法を用いて光源を作ってくれていた。曰く、整備されていない場所で、松明の使用は禁止されているとのこと。森に住むエルフ達も、工夫して環境と共存してるんだな。


 案内してくれているのは、領地の前で警備をしていた二人。それと、アメルとよく話している女の子、カドリィだ。ペトリアークさんは、集落から離れるわけにはいかないようで、気をつけてと見送ってくれた。


 アメルとカドリィはどうやら相部屋だったようだ。かなり打ち解けている様子だった。


「アメル、昨日の凄かったね! 弓であそこまで飛ばせる人って、ここの男でも難しいんじゃないかな?」


「そ、そうですか? とにかく当てようって、あの時は無我夢中で……なんとか命中したので、良かったです」


「うーん、謙虚! うちの狩人衆として、入ってもらいたい位だったよ!」


 カドリィがグイグイ話し掛けていて、アメルはあ、ありがとうございますと苦笑していた。


 辺りを見回しても一面、森。どの景色も変わり映えしない。俺は、皆とはぐれないように集中した。



「ここです」


 それから大樹を中心に、しばらく歩いた所で結構な大きさの川へ出た。月明かりに照らされていて、ある程度全貌が把握できる。深さは結構ありそう、泳いで何とか向こう岸へ渡れるかな? といった幅だった。


 川の色は夜ということもあって、想像していたより真っ黒に近い。流れは穏やかだけど、なんだか……空気が重たい気がする。


「夜のここ、苦手ー。なんか息苦しいんだよね」


 カドリィも、険しい顔をしていた。アニエスは一人、川岸の方へ出て辺りを見渡していた。あ、そうだ。少し距離があるし、アニエスが繋げてくれた回路で話し掛けてみることに。


(アニエス、聞こえる?)


(……む、主様か。どうしたんだい?)


 お、マジで話せてる。いや、待てよ……これって俺の考えてる事、アニエスに全部筒抜けになるんじゃないか?


(私もそこまで野暮じゃないよ、分別は弁えている)


 ……否定はしないのね。ま、まぁいいか。今重要なのはそこじゃない。


(ごめん、脱線した。どう、何か分かった?)


(そうだね……僅かだが魔力の痕跡がある様だ。炙り出してみるか)


 炙り出す? そう思った次の瞬間、アニエスが川へ手をかざしーーーー川が轟音と共に爆発した。


「きゃあっ!!」


「な、なんだっ!?」


 皆いきなりのことに驚いていた。俺は聞いていたからともかく、驚かなかったのはイッカク位か。多分、いつもこんな感じだったんだろうな。というか、俺は唖然としてただけなんだけど。


「アニエスさん、貴方ですね!? 何かする時は一声頂けると嬉しいのですが!」


 アニエスと面識のあるエルフが、慌てて注意をしていた。が、アニエスは表情を変えること無く話を進める。


「せっかちな上に小心者かい? 男なら堂々と構えていた方が好まれるよ、坊や。まぁいい。見ろ、あれが原因だ」


 アニエスが爆発させた場所で、黒いモヤの様な何かが浮かび上がっている。それは段々と形を成していき、やがて人型へと変容した。数は二体いるっぽい。


「あれは……ニンフ? しかし、なんだか様子がおかしいぞ」


「なんだか、苦しそう……」


 エルフ達は正体を知っている様だ。ニンフと呼ばれた人型の表情は険しく、それが苦しみの表情なのか、アニエスに攻撃されて怒っている顔なのか、分からなかった。


「アニエス、あれは?」


「川にいる精霊、という言い方が分かりやすいか。水属性の精霊という立ち位置だが……何か()()()()いるな」


「混じってる?」


「あぁ。何にせよ、アレはもう駄目だ。一度消滅させて、新しく誕生するのを待った方が賢明だね」


 その場合、酒の品質はしばらく落ちるが、あやつの事だ。怒りながらも、律儀にここを護ってくれるだろうさ。アニエスは笑いながら告げた。


 あやつっていうのは、ペトリアークさんが言っていた鬼神のことか。


「ニンフ? だっけ。元々は悪い精霊じゃなかった、ってことだよね?」


「そうだね」


「じゃあ、何とか助ける方法とかって無いのかな?」


「無い。苦しみ続けるより、これが最善だろう」


 そう言ってアニエスは、ニンフへと手をかざしていく。悪い精霊、いや、精霊に良い悪いがいるか俺には分からないけど。自分に出来ることがあって、助けられるならと思ったが……じゃあ、仕方ないのか。その道の専門家が言うからにはしょうがない。いいかい? 主様、というアニエスの言葉に返事をしようとした時、アメルから声が掛かった。


「待って下さい」


「……なんだい、お嬢。説明は、先の通りなんだけどね」


 アニエスは少し面倒臭そうに言った。アメルは怯むこと無く続ける。


「アプサラスが何とか出来るかも、と言っています」


「……何?」


 出てきてとアメルが言い、精霊憑依を解いたアプサラスがこの場に顕現した。アニエスはアプサラスへ尋ねる。


「ネレイスよ。何とか出来るかもとのことだが、どうするんだい?」


「アニエス様、一度やらせて頂けますか? ご期待に添えるかは分かりませんが」


「……いいだろう。やってごらん」


 アニエスは、川岸から少し下がって俺の元へ。アプサラスはアメルへ目配せし、川岸まで向かいニンフ達へ手をかざした。すると、ニンフ達の様子にゆっくりとだけど、変化が。黒いモヤが収束していき、ニンフ達から離れていく。そのモヤは一つの球体へ姿を変えた。それと同時に、月明かりに照らされていたニンフ達の色も、モヤが掛かっていた黒色から、透き通るような青色へと変化した。


「……見事だね」


 アニエスはアプサラスを称賛していた。これは、アプサラスが言っていた水操作のスキルを使った、って事なんだろうな。


「ア、アメル様! この黒いの、いかが致しましょう!?」


「え!? き、急に言われても!」


 この状態を保っておくことは可能ですが、えっと、えっと! とアプサラスにアメルも、二人して慌てている。似た動きをしており、俺は思わず笑ってしまった。


 アニエスはアプサラスの側に寄り、何かを取り出した。それは、瓶のような物で中身は空だった。どこに入れてあったの?


「アプサラス、といったね。ーー見事だ。それは私が預かろう。ここへそのまま入れれるかい?」


「は、はい。やってみます」


 アプサラスが黒い球体を操作し、ゆっくりとアニエスが持つ瓶へ入れる。アニエスが瓶の中に入ったのを確認し、それに蓋をする。うむ、と頷いて懐へ戻した。な、なんで隠すように入れるんだ?


(調べるだけさ、悪用はしないよ)


 ……ほらぁ、やっぱり考えてること筒抜けじゃん。こちらを見て、アニエスが鼻で笑った気がした。いや、便利なのは間違いないんだけどね。


 感じていた重い空気も無くなったような、どこか清々しい感覚。ニンフ達の表情には笑顔が見られ、アプサラスの元へ向かい何かを言っている様に見えた。


「はい。いえ、気になさらないでください。……はい、はい。ありがとうございます、貴女達もお気をつけて」


 アプサラスは笑顔で応えていた。そして、ニンフ達はこちらへ手を振りながら、ゆっくりと川へ消えていった。


「お、終わったのか?」


「な、何がなんだか……」


 そう言うのはエルフ達。大丈夫、俺も分かってないから。


「瘴気の原因、その一端は取り除けたと思っていいだろう。また発生する様なら報告しておくれ」


 さ、帰るし案内を頼むよ。アニエスはそう言いながら、一足先に森へと進んでいきイッカクもそれに続いていく。エルフは光源を出しながら、慌てて追いかけていった。


「な、なんかあっという間だったね! 凄いよアメル達!」


 そう言いながら、カドリィがこちらへ駆け寄ってきた。


「凄いのはアプサラス、それにアニエスさんです。私は、何も……」


「なーに言ってるの! 皆凄いよ! さ、帰ろ!」


 そう言って、カドリィは光源を出してくれた。


 俺達は集落へ戻り、ペトリアークさんに事の顛末を報告する。感謝と共に、是非! ともう一泊することを余儀なくされた。

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