表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
98/166

やっぱりもう書き溜めがない

『首謀者の足取り未だ掴めず

 〇月◇日、極東日本地区K県某高等学校で、生徒全員が殺害される事件が発生。首謀者と見られる男女は警察の包囲から脱出した。

世界警察本部は二人の行方を追っているが、未だに足取りは掴めず事件に進展はない。某高等学校周辺では、事件から数日経った今も警戒を怠らず、近隣住民に大事不審人物への注意を呼びかけている』――――


「アッハー、コレ見てよこれ、私新聞乗っちゃった!」

「……」

「いやー即売会での記念撮影は数あれど、こんなに写真映り悪いのは初めて! 文句言ってやろ!」

「……」

「ほら、スサノオもばっちり写ってるよ。ヘルメットで顔見えないけどさ」

「ミカエル」

「なーに?」

「なぜ俺の部屋に菓子を持ってくる」


 僕の部屋で僕よりくつろぐミカエルを傍目に、広めにとったスペースで素振りを行う。二時間ほど続けたあたりで、ミカエルも見るのに飽きたのか、持参したらしいスナック菓子を貪り始めた。

 そこまではまだいい。


「いいじゃーん。スサノオってばトレーニングばっかりでつまんないんだもん」

「菓子食った手で新聞見るな!!」


 ゼウスから渡された新聞を、ミカエルはあろうことか油まみれの手で捲っているのだ。しばらくは我慢したが、もはや限界というもの。


「表へ出ろ! 喝入れてやる!」


 しかもこの女、自分で出したゴミを片付ける気配すらないのだ。

 部屋にくるや否や、数枚置いていた座布団を全て占拠し、だらけた格好で寝そべって……しかも下着同然で。だらしないったらない。


「おっ! またボコボコにされたいわけね!」

「調子に乗るなよ……!」


 とにかく服を着ろと言いたかった。

 言って聞かないから困っているのだが。


 ノアから部屋を宛てがわれてからこっち、ミカエルはよく僕の部屋を散らかしに来ていた。皺の寄ったセーラー服を直すのはだいたい僕だし、来訪の度持ってくる、食べもしない菓子や飲みたくもないジュースで冷蔵庫を占領され始めている。良くない傾向だった。


「というか貴様、俺のプロテインをどこにやった! まだ残ってただろう!」

「ああ、あの金ピカの袋の奴? あんま美味しくなかったんだよね」

「食ったのか……!? 俺以外の奴が……!」


 なんとしてでもミカエルを追い出さなければ修練もままならない。ここ数日集中できていないのは確実に、ミカエルが原因だった。


「スサノオさぁせっかく部屋貰ったのにトレーニングと食べて寝るだけじゃ勿体ないって」

「風呂とトイレもある」

「そうじゃなくってさ」


 呆れたように言って、ミカエルが寝返りを打った。


「こんなんじゃ疲れちゃうよ」

「人によるだろ」

「いや、これはさすがにおかしいって。布団もないし」

「寝ないからいらない」

「マジで言ってんの?」

「ああとも」


 眠れないのだ。

 後悔など微塵もないはずなのに。

 目を瞑って眠りに落ちると、あの日殺した人の影が夢に出て、足元に絡みついてくる。

 どこか暗くて深い場所に引きずり込まれそうになって、決まって汗だくで目を覚ます。

 眠れない。

 けど、別に問題は無かった。眠れないなら寝なければいい。その分刀を握る時間が増えたから。

 充実はしている。そのはずだ。


「目の下」

「なに」

「クマだよ。濃いと思ってた」


 相変わらずよく見ている。

 部屋には鏡を置いていないから気付かなかった。……そういえば、大きめの鏡がいるな。フォームの矯正も必要だろう。


「いや、だからさ。トレーニングもいいけど、遊ぼって言いたいの」

「いらん」

「ゲームとかさー、漫画とかさー」

「いらんと言ったら、いらん」

 不満げな表情をしても無駄だ。遊びなどしている暇はない。

 今は少しでも強くならなければ。

「しばらく大きな作戦もないし楽しもうよスサノオ」

「楽しんでるさ」


 せっかく広めの部屋を貰ったのに、客人がいてはろくに鍛錬も出来ない。

 大きくため息をついた。

 なんだか今日は、ミカエルと試合いたい気分でもない。


「少し見回りに行ってくる」

「りょーかーい」

「さっさと帰れと言ってるんだ」



◆ ◆ ◆ ◆



 方舟には時たま人間が『渡って』来ることがある。

 ドクトル曰く死に際にしか発揮されない才能と、ゼウス曰く鬱陶しい侵入者と、人によって意見は分かれるが、とにかく。

 最初、ここに来た時の僕のように、人間は決して方舟で歓迎されない。ノアが神官も含めたNSに命じる通常業務の中に警邏がある理由は、人間を方舟に存在させないため、ただそれだけだ。

 方舟に入った人間の末路は決まっている。

 問題はどう死ぬかだ。


「……いるな」


 そんなわけで、今日も今日とて警邏中。

 人間の気配を一人掴んだ。

 魔力に触れ、扱いになれていく内、なんとなくだがNSと人間の気配を感じ取れる様になってきた。おかげで仕事も捗るというもの。

 特に人間は分かりやすい。性別まで分かる。

 いい感じの気配は男。それ以外は女だ。

 今感じている気配は男。

 珍しい事もあるものだ。警邏中、渡ってきた人間に出くわすのは初めてになる。

 しかも男とは。運がいいのか悪いのか。


 意志力で一気に距離を縮める。

 その小さな影が見えてきた。

 朧気だが分かる。

 囲まれているな。前の僕のように、異形に囲われている。

 仕方ない。放って置いてもいいが、どんな人間か見ておきたい。場合によっては方舟に引き入れるのもいい。


 何度でも言うが、気配は男だ。

 助けるに越したことはない。


 さてどうするか。異形は三体。こちらに意識は向いていない。殺すのは簡単な事だが、一人庇いながらと考えると……

 うむ、面倒だな。処理しよう。


 刀を振るって異形の堅い肉体を切り裂く。サトリを使えば傷一つもつかない。

 頬についた返り血を拭って、血振りした刀を鞘に収めた。

 さて、侵入者のご尊顔を拝むとしよう。

 表情を崩さないよう力を入れて。


「大丈夫か――」

「あ……ありがとう……」


 ふむ、小さいな。

 へたりこんでいるから正確な身長は分からないが、僕より小さいかもしれない。

 華奢な体格になで肩。大きな目に、目の下のクマ。深緑の髪の毛は、先端でくすんだ赤に変わっている。

 肉付きのよくない脚に、筋肉ではない膨らみ方をした、不自然な胸――


「お前女かよ!?」

「ぼくは男だ!!」


 ――方舟での拾い物は、女の体をした男だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ