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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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ウィル・ビギン・スーン

「昨日も今日も。こんなところで何してる?」

 なんとなく。だけどほぼ確実に言える。あの山を築いたのはおそらくコイツだろうと。

 刀を持っているし、振るうことに躊躇いが無い。その立ち姿はやけに刃が馴染んでいる。

 それに何より、その薄暗い雰囲気――まるで別人に思えるような切迫した空気――澱んでいるような、そんな気配とでも言うべき、得体の知れない何かがあった。

 やったのだろう、この男は。


 死体の山なんて些細なことだったんだ。

 本当に注目すべき問題は、それを処理できたことでも、誰にも見られず運べたことでもない。


「殺したのか、人を」


 やつは人を殺せるんだ。

 それこそ、何の躊躇もなく。

 事務作業のように。

 慣れ親しんだ仕事のように。

 熟練の職人のように。

 迅速に、正確に、簡単に、人を殺してしまえるんだ。


 武神は猟銃の方を見て、それから藤高を見て。

 ゆっくりボクのことを見て、なぜかふわりと笑った。


「何かおかしなことが?」


 イカレている。疑うべくもなく。

 彼だけでなく、ボクにも出来るはずだと言いたげだ。眼差しには期待すら感じた。

 このうんざりするほど平和な世界で、ボクにそんなことが出来るわけもない。手段がどうのという話ではない。こればかりは理論ではなく感情の話だ。


「おかしいとも。目的がまったく読めないな」

「らしくもないです。先輩はもっと聡明な人だ。そうでしょ?」

「もう先輩でもないだろ、武神」


 挑発などではなかった。なのにこの後輩と来たら、その暗い目に一層濃く影を落として、残念そうにボク見つめる。


「……ああ、そうでした」


 天を仰いで、遠くを見つめていた。それでも一瞬の隙も見せず。

 大きく息を吐いて、後輩がボクを見る。


「なら、もうここに武神 勇志(タケガミ ユウジ)なんて人間はいませんよ」

「なんだって?」

「スサノオ。……俺の新しい名前です。スサノオと呼んでください」


 大層な名前だ。神を名乗るか。ただの人殺しが、神を。

 胸を張れるというのなら、それなりの大義があるのだろう。コイツにとっての大義や正義、そういうものが。

 想像出来ないし、するつもりもないけれど。


「で? ……なんであんな事をやったんだ?」

「魂が要るんですよ。石のために」

「イシ……?」

「ええ。どうしても必要なんです」


 石のために、魂が要る。そのために殺した?

「……同郷の奴らを狙ってか?」

「別にいいでしょう。これからもっと死にますよ」

「そんなことは聞いてない」

 ただそれだけの為に、同級生も、後輩も殺したって? ダメだ、理解出来ない。考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。

「なぜ彼らを狙った」

 はっきり感じ取れる。血を抜くためだけではない。魂がどうとか言うのは分からないけれど。

 少なくとも、死体に向けられていた感情は、そんな綺麗な責務感だとか、崇高な信仰心だとか言うものではなかった。

 もっと。もっとドブのように濁りきって、マグマよりも熱い――


「俺の妹のこと、忘れた訳じゃないでしょう」


 ――ドス黒い怨恨。

 コイツは亡霊だ。神を騙る亡霊だ。復讐に取り憑かれた、居るはずのない亡霊なんだ。


 あの事件はもう終わったことだ。誰も触れようとしない、言ってしまえば黒歴史のようなもの。

 その渦中にいたのは間違いなく過去の武神で、ボクは傍から見ていただけだけど。

 嫌な事件だった。それは確かだ。でもそれに罰を下したのはこの男だったはずだ。それをどうして今になってまた。


「丁度いい機会だったんだ。もう誰も、俺を咎めたりしない。だから」


 目が合った。

 ハンドサイン。


「藤高ッ!!」


 再び銃声が響いた。マズルフラッシュ。合わせてシャッターを切る。

 撮れただろうか。確認している暇はない。


「先行け、先ィ!」


 タタタタッ、とスタンガンが鳴る。スサノオが怯んだ一瞬を突いたのか。


 走る。入口へ。

 外へ。

 銃声がまた響く。

 梯子へしがみついた。上へ上へと登っていく。

 あと少し。あと一段登れば地上に――


「逃がせませんよ」


 ――驚く程の力でまた地下深くへ引っ張られ――強く頭を打った痛みだけが、記憶に残っている。



◆ ◆ ◆ ◆



 …………。

 ………。

 ……。

 ……――夢だ。

 また、あの夢。


 温かな毛布――体の揺れ……黒い空――七色の光――


「ぐ……っ」

「よぉ、起きたな高田」

「あ……?」


 手が動かない。

 足も……縛られている。どこか狭い部屋にいるのか、薄暗い。頭上に灯りを感じて目を向ける。

 誰か、いる。

 声が――

「あのさぁホント……ねぇホント、どうすんの? マジで。シャレになんないよ? ゼウスになんて言い訳すんの?」

「追々考える」

「いやいやいやいや、いや! いやぁ……嫌だかんね私! スサノオの時とは違うじゃん!」

「うるさいぞミカエル。あの人の目覚めが悪くなる」

「なんですとォ!? 向こう優先とか信じらんないんですけど! 私ここ! ここ私! 私の客室!」


 ――騒がしいな。どこなんだここ。

 えっと。確か、梯子を登りきる手前で下へ引きずり戻されて。頭を打って、意識を失ったはず。

 その後、どこかへ連れ出されたらしい。

 見慣れない部屋。周りを見ても、めぼしい手がかりはないらしい。

 なんだか酷く気分が悪い。頭から落ちたんだから当然か、むしろ後遺症が無さそうなことを喜ぼう。

 手足の感覚を確かめようとゴソゴソ動く音を聞きつけたらしい。

 誰か近付いてきて。


「おはようございます。よく眠れたみたいですね」

「お前……」

「少し手荒になったことを許してください。こうするしかなかったんです」


 ――スサノオ。

 亡霊はやはり、目の前にいる。思い切り睨むと、スサノオが悲しそうな表情を作る。

「あのまま帰す訳にはいきませんよ。だからここまで来てもらったんです」

「どこなんだ、ここは」

「ああ……紹介がまだでした」

 照れ臭そうに頭を掻くと、ゆっくりと立ち上がり。

 ボクに向かって、妙なくらい畏まって礼をして。


「歓迎しましょう。ようこそノアの方舟へ」


 そして、知りもしない場所へ来たのだと、重い実感を叩きつけてきた。


 ノアの方舟。

 その響きには、どこか懐かしいものがあった。


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