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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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嘘吐き

「そういえば、体の調子はどう?」

「良くはないが、悪くもない」

 腹を摩る。

 こうして方舟を歩いていても魔力酔いは無いし、体に違和感はない。問題としては腹が減っているというのもあるが……。

 あとは戦いの中で調節するだけだ。

 気を張っているのも悪くは無い。敵に警戒するということは、常に魔力を巡らせるということ。それをしているうちは体が治っていくのだから、一石二鳥というものだ。

「あんまり消耗しすぎないようにねー」

 ミカエルの言うことも最もではあるのだが。

 魔力が回復していく様子は分からない。治癒を繰り返せばそれだけ磨り減っていくのは事実。早くたどり着かなければ、手遅れになるかもしれない。

「そろそろ距離を縮めていく。……離れるなよ」

「こっちの台詞。ちゃんと着いてきてよ?」

 循環を早める。

 隣に立つミカエルを見遣り。

「お前が俺の後ろに着いてこいってことだ。目的地が分かってない気がする」

 上手く伝えられた気はしていない。

 ミカエルの言葉からすると、玉座にはいつも誰かがいると考えているのだ。

 しかし僕が見た玉座には誰もいなかった。僕が目指すのは玉座ではなく、その裏側だ。

 もう一度、鮮明にイメージを浮かべ。

「行くぞ」

 踏み込んで駆け出す。

 関節や筋肉の断裂はない。扱いに慣れてきている。初めて魔力を知った時とは段違いだ。

 ほんの僅かな期間だというのに、ユダといた時間が遥か昔に感じた。

 駆ける。

 どうやらまだまだ、イメージが弱いか。玉座には中々辿り着かない。

 もう一度強く。

 目を閉じてイメージする。

 ルシフェルがいないことを祈りながら。


 方舟の景色はどこまでも果てしない。

 本当に、玉座などあるのだろうか。視界を遮るものは一つもないのだ、もしかするとルシフェルは、方舟でないどこかに装置を隠したのかも。

 思いかけて、捨て去る。

 あれはたしかに方舟の空だ。何度も見てきたのだから間違いない。

 強く思え。あの景色を。あの玉座を。

 ドクトルが、僕らを使って取り戻そうとした機械を。


 ぐるりと視界が回る感覚。

 それに足を取られそうになって、思わず踏み止まる。

「うわぁ! 急に止まんないでよ!」

「は? おっと――」

 背中にミカエルがぶつかった。少しばかり体勢を崩す。

「……小揺るぎもしねぇこいつ」

「口が悪いぞミカエル」

 横に目をやる。

 ミカエルが鼻を抑えて、不満そうに僕を見る。

「どうしたの?」

「層が移った」この感覚には慣れていない。「……ここがどこか分かるか?」

 言われ、ミカエルが辺りを見渡して。

「方舟じゃない?」

「そういうことじゃない。深層以外のどこかってことだ」

「ああそういうこと」

 正面を見据える。

 障害物の無かった方舟に、一つだけ……何かがあることに気付く。

 同時に、そこに誰かがいることも。

「誰かいるな」

「やっぱり誰かいるじゃん……! いるじゃん! 嘘じゃん! そりゃそうだよ表層だもん! 絶対誰かいるって思ったもん!」

「表層」なるほど、知らない場所だ。「ミカエルが最初に俺と会ったのは、表層じゃないのか?」

「え、何言ってんの違うよ? あそこは中層。トビラがあるのは表層。割と、迷いやすいのが中層なんだよね」

 文字通り、僕はあの時迷っていたところを見つかったのか。

 誰かに会いたいと思った結果がミカエルだった。今となってはいい思い出だ。

「で、ここも表層。まぁ、集会所とかになりやすいね……一番人がいる可能性が高いからさぁ」

「ずいぶん嫌がるな」

「だから言ったじゃん、会議サボったんだって……やだなぁ……ノア様いたら絶対……いやあの人はそんなに怒んないか……ああでも会いたくない、できることならあの人の目は見たくない……」

 そこまで嫌がるとは、余程重要な会議をすっぽかしたのか。自業自得、若しくは僕のせい。

「大丈夫だろ……」

「何を根拠に言ってんの!? 他の神官だったら私守んないからね! んもう! 私守んないからね!」

「だから、大丈夫だろ……」まだまだ遠いが、あの孤独なシルエットは。「知ってるやつだ」

 嫌だと言うならここで待っていればいいのだ。

 一歩、距離をぐんと縮める。

 その姿が鮮明になっていく。

 握手を求められるほどの距離になってから確信した。

 間違いない、この筋肉は。

「奇妙なところで会うな、ユダ」

「おや、貴方こそ、珍しい方をお連れですね」

 なんとなくだが、いずれ会う気はしていた。なんせ同じものを追っているのだ。どこかで巡り会ってはいただろうが、まさかこんなに早くとは。

「お前も割り出したか」

「は? ……ああ、そういうことになりますかね。マスターの物を取り戻すのは私の指名だ。それに……」

「それに?」

「この装置をどう使うのか見てみたい。彼はそう言ったでしょう?」

 魔力の循環を感じる。


「こう思ったのですよ。私も、この計画の行く末を見てみたいと」


 背筋が凍った。


 ユダとの距離が離れ――僕が下がったのか? いや、違う。

「ねぇスサノオ、あの子味方じゃなかった?」

「そのはずだ」

 胸に重い衝撃を感じた。

 もう少しズレていれば鳩尾(みぞおち)に入っていた。

 凍てつくようにヒリついた空気は融解し、まるで熱を持ったかのように――全身から汗が噴き出す。

「おや……アバラを砕くつもりだったのですが」

 意味が分からない。

 肌が粟立つ。

 魔力の循環を。

 遅れて柄に手をかける。

「やはり、しぶとい方だ。貴方を殺すのには手を拱くのも仕方がないと納得できます」

「ミカエル、装置を頼む」

 脚に固めていた魔力を全身へ。そして管を撥条(バネ)へと変化させる。

「何があった?」

「言ったはずだ、私は見届けたいのです。貴方とルシフェルの行く末をね」

 対し、ユダは構えない。

 ただ魔力を循環させ、僕に掌を向ける。

「抵抗すると言うならどうぞお好きに。ただし忠告しておきましょう」

 脂汗が止まらない。ルシフェルと戦った姿を見た時から知っている。

 ユダ。この男は――。


「貴方に負ける私では無い」


 ――強い。

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