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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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瞑想

「私の部屋ってこんなに広かったんだ」

「そりゃあ、人が暮らせるスペースはあるだろ」

 片付け初めて概ね一時間。

 洗濯機が無いとは恐れ入った。こいつはどうやって服を洗っているのだろう。

「スサノオはいいお婿さんになるね」

「婿入りの予定はない」

 下着を散乱させているのはどうかと思ったが、言わないでおこう。

 どうやら方舟には虫の類はいないようで、問題になったのは積もりに積もった埃だけだった。そのおかげか、なんとか一時間で終わったのだが。

「さて、と」

「あっお前」

「なに?」

「いきなりペットボトルを捨てるな!」

「えーだってゴミ箱遠いんだもん。拾っといてよ」

「この……」袋にボトルをしまう。「もう少し意識をだな……」

 今から神官を目指そうというのにこれか。気を付けないとこき使われるのが目に見えている。

「これからどうするんだ?」

「んーそうねぇ」

 何度かクリックし。

「うわ、本当に接続切られてる……もういいや、私ちょっと寝るから」

「な――」何もしないというのか。「具体的な案はないのか」

 椅子から立ち上がって、ミカエルがこちらを振り向いた。

「焦ったって仕方ないよ。ルシフェルは用心深い子だもん。まずはスサノオが回復しないと」

 言って、スカーフを外して上を――

「脱ぐなよもう! もう! 向こう見ておくから!」

「そこらへんにあるもの適当に食べていいよ」

 背を向けると、欠伸をするのが聞こえた。余程眠いのか。しかし僕の前で突然脱ぎ出すのはどうかと思うのだが。

「別に見てもいいけど。減るもんじゃないし。私二百年も生きてるんだよ?」

 体は十八の女だろうが。

「シャイだなぁ」

 こういうことに不慣れというのは本当だ。女性とまともに話した経験は少ない。ほとんどが妹との会話だったことも相まって、僕はどちらかと言うと女性を苦手に思うきらいがある。

「スサノオもしっかり休んで。いざって時に動けないのは困るでしょう」

 言うことはもっともだが、ベッドは既にミカエルが占拠している。今しがた掃除したばかりの床に横たわる気にもなれない。

 仕方がないから、冷蔵庫を漁る。

「………………菓子ばっかりだ」

 生前では口にしたこともないような菓子が溢れている。部屋のどこを探しても、まともに食料と呼べるものがない。

 適当に食べていいよとは言われたが、これでは。

 部屋が半端に狭いせいで素振りもできない。

 ミカエルが、修練とは程遠い環境で生きているのが見えた気がした。

 僕も大人しくしているしかないか。

 大きく息を吐いて、床で座禅を組む。

 久しくゆっくりと瞑想をしていなかったことを思い出したのだ。

 目を閉じて呼吸を沈める。

 聞こえるのは、自分の鼓動と呼吸。それから……ミカエルの寝息。寝るのが早いな。

 意識が暗闇に同調していく。矢継ぎ早に浮かんでくる映像を砕いていくイメージ。

 やがて、頭の中が静かになり。

 暗闇が晴れていく。


 景色を見た。

 よく知る景色を。

 それが方舟の空だった。

 僕はこの光景を、ずっと昔から知っていたのだ。

 あの日……そう、何年も前のあの日から。瞑想の度、僕はこの方舟を見ていた。

 今思えば、単に、ルシフェルと繋がるための手段が瞑想だったのだろう。

 あいつは目を閉じるだけで。

 僕は深く瞑想に入り込むことで。

 互いに繋がることが出来るのだと、今になって思い知る。

 僕は瞑想するのが好きだった。

 だって、方舟の空が見えるから。あの時はまだ、これがルシフェルの目を通した景色だとは知らなかった。だからこそ心置き無くこの空を見ることが出来たのだ

 繋がれるのはおそらく、どちらかが方舟にいる時だけ。

 夢にも見たし、なんども空に思いを馳せた。この空が、故郷の空だったらどんなにいいだろうと幾度も――。

 だけど今は違う。

 明確な目的を持って、今なら繋がれる。

 さぁ、僕に見せてくれ。お前が今、どこで何をしているのかを。


◆◆◆◆


 ……。

 ………………。

 ………………確認が必要だ。

 装置は無事かどうか。

 万が一にも、取り返されたら全てが終わる。ドクトルがここに姿を現すことはないにしても、あのユダとか言うNS……あいつが厄介だ。

 どこにも属していないというのが拍車を掛けている。

 あれほどの腕を持っていて、しかも頭のキレもある。もしも誰かに、ユダが見つかったら?

 神官を勧められるのは目に見えている。そしておそらく奴は乗るだろう。

 そうなれば不利になるのは自分だ。企みがバレれば立場を追われ、方舟にいられなくなる。

 そうなれば、ここで積み上げてきた全てが台無しになってしまう。

 ようやく手に入れた仲間も、安寧もだ。

 避けねばならない。守護を固め、悟られないように。

 盗んだ装置に触れる。

 そこには、自分が殺めた三つの命……その魂が収められていた。

 後一歩だ。

 誰にも邪魔はさせない。

 スサノオの命と、もう一つ。

 逃したのならそれを利用するまで。

 誰の元に飛んだのか……検討は着いている。

 きっと向かって来るだろう。

 もう一度、いや今度こそ、俺を殺すために。

 手を打たなければ。

 止まるな。動け。出来うる限り考えず。

 今は仕留めることだけを。確実に仕留めることだけを。

 そしてこの、玉座の裏に隠した装置を、守りきることを。

 画策し、行動しなければ。


◆◆◆◆


 ……。

 …………。

 見えた。

「なるほど……」

 巨大な椅子の裏側か。

 誰も座っていない、玉座の裏側。

 そこに、ドクトルから盗んだものがある。

 まさかわざわざ確認しに戻るとは思っていなかったが、思わぬ収穫だ。

「そこに、目的のものがある……」

 これでドクトルに――ガサガサッ――借りが返せる――バリ……ムシャ……――というもの――ガサッ――

「何独り言してるの?」

「……ベッドの上で菓子を食べるな」

「一時間くらいそうしてたけど、何か分かるの?」

「は?」一時間も?「そんなに……」

「うん。目をつぶってからだいたい一時間。暇だから適当に食べてた」

「それで、仮眠は足りたのか?」

「まぁね。そんなに疲れてるわけでもなかったし」

「……食べるのはやめないんだな」

「お腹は空いてるの」

 振り返ると、そこには広げられた包み紙。菓子はほとんどなくなったようだ。

「黒糖好きなのか?」

「まぁまぁ。あまーいし。すぐ飽きるんだけどね」

 最後の一欠片を口に放り込み、咀嚼する。

「で? どうするか決まったわけ?」

「ああ」その点は問題ない。「玉座に向かう」

「…………なんで?」

「なんでも何も。あいつは今そこにいる。繋がっていたから確かな情報だ」

「え、本当に行くわけ?」

「だから、そう言ったろう」

「えー……」

「嫌なのか?」

「嫌ですけど。すごく嫌ですけど」

「なぜ」

「いや……あのね……ちょっとね……こないだ会議サボったからさ……」

「……?」

 会話が噛み合っていない。

 何かを勘違いしているようだ。ここは、手に入れた情報を共有していこう。

「玉座には誰もいなかったぞ」

「ホントォ!? じゃあ行く! ササーっと済ませよ!」

「決まりだな。さっさと服を着ろ」

「了解!」


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