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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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それはそれとして書きだめがない

 誰かに背中を押された。

 それはユダも同じらしいから、たぶん同じように押されたのだろう。誰が、と思うより早く、ドクトルが背後で微笑んでいることに気付く。

「命令。ぼこぼこにしてやって」

 ゾッとする笑顔だが、そこは言わないでおこう。

 戦っていいと言うなら願ったり。

 視線を前に。

 そこに佇む、人影一つ。

 黒の軍服。

 フードは無い。

 立ち姿から力みを感じないところから察するに、やはり手練なのだろう。

 腰に佩いた鞘に目がいった。

 妙に長い鞘。

 変哲のない柄。

 その長さで抜けるのか、どうしたってそこに隙が出来そうだ。

 精悍な……傷跡の目立つ顔。

 遠目では目の色が判断しづらい。だが、こちらを睨んでいるのは間違いなかった。

「ドクトル」

「なに?」

「分からない。尾行は一人きりか?」

「んー……まぁ気配を感じたのは一人分。もしかしたら他にもいるかもね」

 なら。

「ユダ、俺とお前で奴を抑える。ドクトルは――」

「言われなくても、斥候に出るよ」

 良しだ。これで集中できる。

 ふっとドクトルが掻き消えた。

 鞘の具合を確かめる。

 固定は済んでいる。紐の垂れもない。

 可動は充分。

 続いて体の具合を。

 脚で床を踏みしめる。

 問題無いな。

「さて……」

「どちらから行きますか」

「お前は見てろ」

 自分から行く気がないなら席を譲ってもらおう。

 特等席は僕のものだ。

 睨み合う。

 歩み出すのは同時。

 ゆっくりと、部屋の中央に近付いていく。

 この感覚が好きだ。

 今から果し合いが始まるのだと思うと心の底からワクワクする。

 

 部屋の中央。

 ど真ん中を挟んで睨み合う。

 なにか合図が必要か。

「階級無し、無所属。政世出身、名はスサノオ」

「特殊暗殺部隊、少尉。戦世出身。名はアロベナ」

 いざ尋常に。

「「勝負!!」」



 遠い。

 柄に手を置いてからそう思った。

 たとえどんなに抜刀が遅くとも、太刀と打刀ではリーチが違う。もしも一息に抜くことができるというなら、この距離で不利なのは僕か。

 ならば。

 腰を低く落とし肩を前に。

 全身で魔力の管を編む。

 循環を早め――

「まぁ待て」

 発砲が先とはせっかちだな。

 一秒後を予見して射線から外れる。

 魔力が編めない。

 仕方がない、単純な形を想像しよう。

 円を描く一本のパイプ。

 循環を早め。

「そう急くな!」

 一歩で距離を潰す。

 懐に飛び込んだ。この距離で太刀は使えまい。ここは僕の間合いだ。

 足を踏みしめ。

 柄を軽く握り。

 力の伝導がつながる。

「しっ……!」

 刀を抜き放つ。

 アロベナの脚に撥条が宿った。

 そう形容できるほど高密度の魔力。

 それが一息で縮んだかと思うと、刃が届くより早く、勢いよく解放される。

 宙に飛び上がった。

 高い。

 上方。

 この距離は――

「――接続」

 アロベナが小さく呟く。

 中空で正座するように脚を畳み。

 流れるように柄に手を掛けた。

 ――まずい。

 今度は両の腕に撥条ができる。

 時間がやけにゆっくりと。

 僕はその中でまともに動くことすらできず、ただその、 うんざりするほど精錬された抜刀を眺めていた。

 鯉口を斬り。

 その太刀が、抜き放たれる――

 充分だ。

 魔力の管を編む。そのための時間は充分に取れた。

 未来を予見。

 あの太刀……。

 下がる必要はどこにもない。そう判断して前に出る。警戒して下がると思っていたのだろう。実際予見する直前まではそう考えていた。

 そして、だからこそ。

 それがまずかったらしい。

 アロベナの体制が少し崩れる。焦ってタイミングが遅れたようだ。

 そして、だからこそ。

 ドンピシャり、そこに「完璧な居合」が完成した。

 中空でだ。

 美しい剣技を見ている時はいつもそうだ。そこに視線が釘付けになる。僕はアロベナの足元を抜けながら、どこかゆったりとしたその所作を眺めていた。

 刃が鞘走る。

 中空を。

 鈍色が切り裂き。

 この広い実験場に、粉塵の帯が巻き起こる。

 風が吹いた。

 時間の流れが不意に元通りになった。

 アロベナが落ちてくる。その着地に合わせて切り上げる。

 脚に撥条。切り裂くはずの靴底が、僕の刀を蹴って、背後へと跳んだ。

 なんという脚力のバランスか。刃を引くより早く、地に叩き付けるほど強いとは。

 背後を振り向く。

 アロベナの構えは変わらない。再び抜刀の構え。

 ド直球、疑う余地のないほどの自信。

 背後の壁をチラと見る。

 長く――深い切創の跡。あの刃の長さでは、とても付けられそうにない跡。

 あの鞘に何かあるな。

 仕掛けは何か分からないが、もう一度抜かせるのは得策とは言えない。

 素手で止めるのは難しいか。ならば。

 身体中の力を抜く。

 崩れ落ちるほどに脱力し。

 そこから一気に魔力を循環させる。

 一歩。距離を潰して。

 今度こそは逃がさないと刃を突き出す。

 予備動作はもう学んだ。あの撥条の発動には一秒以上かかるのだ。ならば、その出足を斬るだけのこと。


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