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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
33/166

僕はドクトルだ

「ルシフェルが?」

「そうとも」と、ドクトルが言い。「彼は黒い服を着てたろう?」

 ずっとそう言ってるじゃないか。

「彼のいる国……帝国は、普通は白い軍服を使うんだよ。なんたって雪国だ……白の方が都合いいことが多くてね」

「なのに、黒」

「そう。特殊部隊は全員黒」

 特殊暗殺部隊所属。

 彼はたしかに言っていた。

「目立つんだよね。昼間の戦場だと特に。だから滅多に表には出てこない」

 暗殺部隊。夜に乗じて暗躍する。それがやつの本職なのだろうか。

「でも、彼一人が出てしまえば戦局が変わる。ガラリと変わるんだ。たった一人で変えてしまう。だから、彼には渾名が付いた」

「……帝国の武神」

 ぽつりと呟く。

 何か引っかかる。

 僕がアイツの前に立った時、恐怖があった。確かに、明確な恐怖があった。

 だけどそれだけではない。


 どこか懐かしかった。

 まるで、ずっと前から知っているかのような。

 あの焦燥と恐怖が、何処か何故か、懐かしかったのだ。


「しかし、ルシフェルがねぇ」興味が失せたと言いたげに。「アイツ、まだ諦めてなかったんだ」

「何を?」

「色々さ。色々。方舟長しと言えど、彼にとっての十数年は長かったろうしね」

 また濁すつもりだ。話してはくれないだろう。

 つまり、自分で探すしかない。

 こればかりは、力を借りたかったのだが。

 ドクトルが顎を撫ぜる。

「しっかしまぁ。いいや。んじゃ、利用させてもらおう」

 ドクトルは立ち上がって、「方向は決まりだね」数歩、歩き。「進捗五割か」そして、続き、機械の箱を撫でた。「思ったよりも上々だ、うん」

 コンピュータが起動するような音。

「悪くない」

 珈琲を半分ほど飲んでから、今度も僕から切り出すことにした。

「…………聞きたいことがたくさんある」

「いいよ。今回は話してあげる」

 あっさりと許可が出た。

 ならば、まずは……そうだな。

「俺の刀に何をしたんだ」

 そこから始めよう。

「魔力を通した時、刀の中を見た。……気がしたんだ」

 あれはなんだったのか。それは答えてもらわねば。

「ああ、あれか」

 ドクトルはなおも機械の箱に触れながら。

「あれはね……魔力の記憶、及び貯蔵を行う空間」

「なんでそんなものを」

「何かと要り用かと思ってね。これから方舟で生きていくには、あった方が便利だって」

 納得がいかない。

「ちゃんと言っておいてくれ。これは俺の生命線だ。不調があってはたまらんぞ」

「悪かった。何も聞かずに出てこうとするもんだから」

 それを言われると弱い。

「使い方はそのうち分かるよ。期待してくれていい」

「自信があるのか?」

「僕は科学者(ドクトル)だ。発明品には誇りを持ってる」

 改造品の間違いでは?

「そういうことなら、いいんだ」

「おや? 食ってかかると思ったのに」

「実際何も支障はなかった。差し引き無しだろう」

「いい子だ」

「Good boy」

「ユダ、俺は英語出来ないんだ」

 ここでは共通言語で話せ。

「さて。……他には?」


「神官は何人いる?」

「一つの世界につき四人。そこに大神官をプラスだから……関わるとして、十人と少しかな」

「そんなにいるのか?」というか僕の世界にもいるのか!?「知らなかったぞそんなの……」

「隠されてるしねぇ。でもま、基本的に、世界のお偉いさんは皆神官だと思っといていいよ」

 意外な事実だ。そんな相手と関わる機会は無かったが、これから会うことになるかもしれない。

 日本の総理がNSか。

「次だ。ルシフェルについて訊きたい」

 まぁ、誰が人間かそうでないかなど、些細なことだ。会ったとしても関わらないだろうから。

 だから、今は興味のあることを聞こう。


「奴の獲物。銀剣には魔力を打ち消す力があると言ってた。本当か?」

「それは本当。神官は、銀製の小物を持ってるやつが多いね」

 厄介なことだ。

 これでは魔力を身に付けてもあまり意味が無い。攻撃のその瞬間に有効なカウンターを持っているとは予想していなかった。

「ルシフェルの能力について……知っていることはあるか?」

「それは、さてね。詳しくは把握してない。ただ、血液にまつわる能力だとは聞いたことあるよ」

 血液か。

 傷付くほどに強くなる、ということか。だとしたら、攻撃を避ける理由がまず無いが。


 目に付いたのは奴の防御。どんな攻撃が来ても落ち着いて対処出来ていたように見える。

 経験の賜物か。それとも、防御を磨く理由があったのか。

 いずれにせよ、勝負を長引かせるのは得策ではなさそうだ。


「…………ルシフェルの、出自については?」

「ルシフェルのことばっかだね今日は」

「それは、まぁ、そうだろ。やっと尻尾を掴んだんだぞ」逃す理由がない。「このまま追い付くつもりでいる」

 ドクトルは「おお」と言って破顔した。

「不可能だ」

 そう返したのはユダだ。

「何が不可能だと?」

「ルシフェルには追い付けませんよ。貴方こそ、彼を甘く見ている」

「そんなことはない」

「果たしてそうでしょうか? 彼を前にほとんど動けなかったのに?」

「それは……これからだ」

「そろそろ学んでいただきたい。戦うべきでない相手もいます」

 やたらと突っかかる。何か気に食わないことがあるのか。

「そうやって戦いから逃げても強くはなれない」

「それしか頭にないのですか?」

「…………悪いか?」

「強くなって、その先は? 貴方はその強さで何をしたいのです?」

 強さの果て、か。

 特に興味はない。

 まだ果てなど見たことが無い。あのルシフェルにしてもそうだ。強さの極地などきっと存在しない。本人が諦めなければ、きっと人間もNSも、どこまでだって強くなれるはずだ。

「ただ強くなる。今はそれだけしか考えてない」

「命を捨てることになっても?」

「遥かな強者に全てをぶつけられるなら本望だ」

「何も見えていない。本当に、何も……」

「おい」はっきりと言えばいい。「気に入らないなら、そう言え」

 僕の言葉に、ユダが肩を震わせる。

 ドクトルを一瞥して、彼が両手を広げたのを見ると、ユダは大きくため息をついた。

「あなたの事が気に入りません」

 ユダはゆっくりと話し始めた。


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