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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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抵抗

 ゆっくりと剣が引き抜かれる。

 血溜まりが出来るまでそうかからなかった。

 治癒が始まらない。

 いったいなにが。


「銀は魔力を打ち消す。覚えておくんだな」


 剣を払うと、血が僕とルシフェルの間に線を描いた。


 次は僕の番だ。


 ルシフェルがこちらを向く。

 睨む。

「相変わらず……正確に目を見るなよ」

 僕は、そいつの目の位置が分かった。

 フードで隠されているのに。

 そいつがどんな目をしているのか、何故だか理解出来た。

 魔力のせいでないことくらい、僕でも知っていた。

 なにせ初めて会った時からそうだから。

「まぁ、いい。お前を殺せば念願叶ったり……死んでもらうぞ」

「はっ……」


 死。



「おい頼むぞ。ちょっとは抵抗しろ」

「……っがあああああ!!」

 否、生!

 ルシフェルは一歩も動いていない。

 僕は闇雲に刀を振るった。

 届くはずもない。ただ近付かれるのが怖い。

 吠える以外、そうするしかない。

 ルシフェルが肩を落とすのが分かった。

「ぬあああっ」

 来るな。

 そう思いながら近付くのだからどうしようもない。

 だって足が勝手に前に出る。

 怖いのだ。

 だけど、それと同じくらい戦いたい。

 この男と。

 見たことも、感じたこともないほどに強い、この男と。

 体と心が食い違う。サトリがうまく使えない。相手の呼吸が見えないほどに動揺している。

 一撃入れば終わりだ。そんなことは分かっている。

 だから。その前に。どうにかして。

 どうにか。


 間合いに入った。


 肌が焼けるように思える。脂汗が止まらない。

 よく見るんだ。相手を。その呼吸を。一挙手一投足のすべてを。

 その一瞬に。

「……!」

 勝機はある。


 頭が軽く沈んだ。

 本当に僅かだ。しかしその僅かな変化こそが、今まさに動き出そうとする証拠。

 出鼻を挫いてやる。

 鳩尾に切っ先を突き出す。

 一歩。

 ルシフェルが下がり、軸を微かにずらした。


 かわされた。

 避けられた。

 今度こそ、死んだ。

 だって僕は避けられない。

 この突きに賭けた。だからこれを躱されたということは、僕は隙だらけということだ。

 伸びきった脚を。

 ガラ空きの胴を。

 打てとばかりに差し出した頭を。

 どこを斬られても文句は言えない。

 ゆっくりと、ゆっくり、と、ルシフェルの剣が。

 僕の。

 首へ。

 真っ直ぐ伸びる。


 思考がスパークを起こす。何もかもがゆっくりと迫ってくるように見えた。

 今まで生きてきた中で。

 起こったすべてのことが、過去が、悔しさが、悲しさが、憎しみが、怒りが、波となって僕に押し寄せて背中に当たる。

 突き動かされた。

 終われない。

 まだここで終われない。

 こんなところで、なんの納得も無く。

 ただ殺されるなんて、そんな結末でいいわけが無い。


 右足一本で踏ん張る。

 それを軸にして体を回す。刃から逸れ体が倒れていく。

 倒れるわけにはいかない、魔力をなるだけ早く循環させる。四肢に力が巡った。そのまま。

 回転に乗せて、勢いよく刃を振り上げた。

 ルシフェルがそれを、一歩下がって躱そうとし――

「二人で盛り上がらないで頂きたい」

 ――何かに躓いて足を止めた。


 斬閃がルシフェルの体をなぞる。

 裂いたのは服だけか。悔しさに歯噛みする。

 フードに少しだけ切れ目が入った。

 すると、どうしたことだろう。彼は慌てて切れ目を押さえる。

 次に手を離した時、赤黒い糸で縫合されたことが分かった。


「…………殺したはずだが」

「いやはや全く。死ぬ思いをしましたよ」

「その返答は期待外れだ。なぜ生きてると聞いたんだが」

 ルシフェルの足を掴む手。

 ユダがルシフェルの足を掴んで離さない。

 その足に魔力が籠る。

 爆ぜるような音がしたかと思うと、ルシフェルの足首から先が消える。

 捨てたのか。

 自分から。

「おやおや、乱暴なお方だ」

「こっちのセリフだな。俺の足はデリケートなんだよ筋肉ダルマ」

 剣を杖に数歩下がると、途端に治癒が始まった。流れ出る血が足を象り、それに骨が、肉が、皮膚がついていく。

 凄まじい再生速度。

 なんという使い手か。

「もう一度聞こう。なぜ生きてる?」

「大方予測が付いているのでは? 貴方の上司……ゼウスも似たことが出来るはずだ」

 ルシフェルが目を凝らした――ように思う。


「能力か。それも相当特殊だな」

「正直言って屈辱ですね。こんなところで使う羽目になるとは」


 また、蚊帳の外だ。

 能力、とは何のことだ。

「特殊といえば貴方もそうだ」

 ユダがゆっくりと立ち上がる。

 真っ白いシャツに、べたりと塗られたように赤黒い血が付いていた。

 回復したのか。

 魔力を消され、その上で受けた致命傷から。

「貴方のような、不安定な魂は見たことがありませんねぇ……実に興味深い。いやはやまったく興味深い……」

 傷を庇うような仕草は無い。サトリで予見してもそう。


 治っている。あの僅かな時間で。

 二人とも、相当な手練、か。


「………………理解しました。それであの装置を奪ったと言うことですか」

「困ったな、あれはわざとバレるように盗んだんだが、そこまでお見通しか」

「ドクトルが来るとお考えで?」

「そのつもりだった」

 もはや二人の間にハンデはない。方や二刀流。方や不死身のごとき男。

 勝負は一気に分からなくなった。

「答えないことを前提にお聞きします」

「結構。盗んだものは、誰にでも分かる場所に置いてある。近づかせはしないさ」

 肩で息をしながら、対峙の間に流れる、痺れるような空気に魅入る。

 と。

「……不可能ですね」

「なに……?」

「貴方の目的は果たせない。大事なピースが欠けてますよ。それは手元にあるというのに……残念ですねぇ」

 ユダが不敵に笑う。


「ノアが作った『人間擬き』は同族を殺せない。末路は決まりだ、ご愁傷様」

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