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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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なぜ、あの女

皆どうやってサブタイトル決めてるんだよ

 状況に頭が追いついていない。

 いつの間にか囲まれていた。僕と女が対峙しているのを中心に、十五のNS(ノアシード)がぐるりと円を組む。

 即席リングのつもりか。

 なぜだ。

 いつから尾行けられていた。そもそもその口振り、僕のことを探していたのか。手こずったとは? 僕に敵意を向ける理由は? 戦う理由は? なぜ?


 なぜ、あの女。

 あの体で僕を吹き飛ばすことができた。


 何が来ても視えたはずだ。呼吸は見逃していない。さっきだって、実際構えるのを予見したからこそ咳き込む程度のダメージで済んだ。

 不可解なのは構えた後だ、が……どうやら考えている暇はないらしい。

 女は再び構える。

「おいお前」

「なーに」

 盾を前に、剣を後ろに。腰を低く、脚を前後に。……なるほど。

「名前は」大体分かった。「なんて名前だ?」

 一度、あの異形と遭遇していなければ危なかったか。

 要は、あれがトドメに使ったのと同じ。凄まじいスピードのタックルだ。ぶつけてきたのは体ではなく盾だが。

 通りで受け止めた僕の骨が軋むはずだ。

 ぶっちゃけ今もすごく痛い。

  異形と戦った時はまだ、攻撃を受け流せるだけの余裕があったが。

 今回はそうはいかないか。

「あー…………そっかそっか。知らないか」

 こっちを睨む視線が緩む。

 構えが甘くなった。時間は稼げるか。

 少しでもダメージを。

「じゃ、自己紹介しとこう! その方が後腐れないしね!」

 脚は踏み込める。指の可動は問題ない。腕もどうやら折れてはいない。呼吸がまだ落ち着かないが、戦えそうだ。

 気になるのは、動くたび鈍痛が付きまとうことか。

 もう一度言うが散々だ。


「私の名前はミカエル! 担当は戦世(せんせ)、階級は神官! よろしくー」


「分かる言葉で頼む、ミカエル」

「いきなり呼び捨て。いい度胸してる」

 今度は見逃さない。

 相手の呼吸を視る。

 構えるのは三秒後か。

 だとして次の攻撃は――

「嫌いじゃないよ!」

 ――やはり当たる瞬間しか見えない。

 だが軌道は読んでいた。下げた左足を軸に回って避ける。

 通り道に吹いた風に少し押されるが、関係ない。

 盾はミカエルが前に構えたまま。――いける。

 右手で柄を軽く握り。

 呼吸を。

 一秒。反撃は視えない。

 右脚を踏み込んで、居合で切りつける。

「……いい狙い方してる」

 刀が到達するより一寸速く、ミカエルの剣が弾いた。

 振り返りざまに振るったか。どうやら勢いを付けないと扱いきれないと見ていい。

 二歩下がる。互い、正面に向き合って。

 盾が鬱陶しいな。

 他のNSが近付いてくる気配は無い。ミカエルに任せるつもりらしい。

 この細い女にか、笑わせる。案外大したことはないのかも。

 盾を前に構えた。

 こっちは刀を八相で構える。

 ミカエルが目を細めるのが見えた。睨み返す。

 相手の動きを抑えなくては。あのスピード、悔しいがついていけない。それに加えてあの剣、軽く弾かれただけでも手が痺れた。恐らく相応の重量を備えている。

 悔しいが、認めざるを得ないだろう。

 ミカエルは強い。それも相当に。

 数度攻撃を受けただけで分かる。これで女、しかもあの細い体か。

 何か秘訣がある。

 ジリジリと距離を詰めていく。

「…………魔力か」

「お。ちゃんと知ってるんだ」

 扱えないがな。言葉は飲み込む。


 ドクトルの話によれば、プラスの作用をもたらす力……だったか。なるほど脅威だ、ミカエルにあれほどの膂力と速度を与えるとは。

 そしてその分心が踊る。


 扱えれば僕はもっと強くなれる。


「余裕だね」

「なに?」

「笑ってるよ。気付いてなかった?」

「……どのくらい前からだ」

「最初から」

 呼吸が落ち着いてきた。

 じっと睨み合う。

「仕方ないことだ」

「そう?」

「ああとも。こんな機会はとんと減った」

 攻めて来ない。ならばこちらから――

「おっと、動かないでね。このままいけば穏便に済むし」

 そうはいかない。視界のチラつきがまた激しくなっている。本当は平衡感覚だって危ういのだ。出来れば早く、決着を付けたい。

「怖いのか?」

「まっさか。魔力も使えない人間なんて」

 踏み出せ。

「怖くもなんともない!」

 これで三度目。やはり盾で突っ込んでくるか、問題なく避け――

「甘い!」

 ――高速で突っ込んだミカエルが急ブレーキをかけた。僕に向け、今度は水平に――

「盾ッ……!?」

「殴るんだよっ」

 振るわれた盾が真っ直ぐ僕の首に向かう。

 すかさず僕は一歩踏み込む。

 右腕を盾代わりに、残った腕で刀を高く振り上げる。

 一瞬だ、相手が離れるまでの一瞬で。

 こちらも首を狙って鋭く刃を振り落ろす。


 嫌な音がした。


「カッ……!」痛みに一瞬呻く。

 右手に力が入らない。……どうやら圧し折られた。

 だが想定内だ。腕一本で済んだのは幸いと言えるだろう。

 さて、相手はと言うと。

「あーあ……言わんこっちゃない」

 首元を押さえ、こちらを睨む。

 襟に血。当たったことは当たったらしい。

 手を離すと、傷跡はない。凄まじい治癒力だ。

 対し、こちらの腕は動かない。

「一応無傷で、って話なんだけどな……」

 だから盾で、か。剣をあまり使わないと思っていたが。

 目を細める。擦っている暇はない。空は明るく、視界はぐらつくが、今ここで倒れてはいけない。

 狙いに行かねば。


 勝ちを。


「……まだやる気?」

「無論」左手一本で構える。「勝つつもりだが」

 ミカエルがニヤリと笑む。

 一瞬盾に頭を隠す――ここだ。

 痛む体。これで最後。次顔を出すまでの一秒で。

 一気に駆けて。

 距離を詰める。

「……!」

 脇を抜けて刀を振るう。相手が視界を無くした瞬間に放った一撃に、既に盾は追い付いていた。

 だがそれは予見済みだ。このまま振れば弾かれるだけ。ならば。

 盾の直前で軌道を変える。

 狙いを脚へ。

 刀の切っ先が脛の薄皮一枚を斬った。

 驚いた表情が覗く。黒い刃が振り上げられた。

 流れのまま上方にいなす。

 左手を返し肩口へ。

「やらせない!」

 咆哮。盾で刃を阻もうとする。

「甘い!」

 狙いは斬ることじゃない。石突で相手の左目を穿つ。

 怯んだ。

 好機。

「せ……っ!」

 短く息を吐く。

 聞こえたのか、盾で堪らず顔を覆った。

 下策、と心の中で罵って。

 がら空きになった右側、腋を狙って刃が滑る。

 刃の中程に当たる。柔い感触――体ごと後ろに、刀を引いて振り上げる。

 血に濡れているのが見えた。

 続き、切っ先から硬い何かが伝わって。

「え……あっ……い……!!」

 ミカエルの腕が真っ赤に染まる。

 鮮やかな赤――恐らく傷は関節まで到達したはずだ。

 呼吸を視る。

 三秒先。腕が動く気配は無い。


 った。


 

 振り上げた刃をそのまま。

「これで!」

 相手の左目に突き刺す――

「終わり――」


 重い金属音がした。

 

 ――ミカエルの瞳が見えた。

 髪と同じく茶の瞳。それが僕を真っ直ぐ見据えて。

 振れるはずのない右腕で。

 黒い刃が、視界の端に踊った――。


そして自分はどうやって決めればいいんだ

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