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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第85話 挨拶

 翌日アルドラと俺はギルドへと足を伸ばした。


 例の件の報告である。 


 結果から言うと例の盗賊たちは、とある盗賊団の下っ端であった。


 既に本隊と言えるべき集団は国境を越え、国内を脱出しているようである。


「それについては動きを掴めなかった我々の落ち度だ」


 ゼストはやれやれと天を仰いだ。


「しかしながらそれに繋がる手掛かりは手に入った。結果的にだがジン君の動きが我々の利になったのだ」


 ベイルの冒険者ギルドが国境を越えて盗賊団を追うことはしない。


 誰かが盗賊団に懸賞金を掛け、その依頼を受ければその者が追うだろうが、今のところその動きはない。


 だが情報は他のギルド、もしくは国に売れる。


 ベイルを去っても別の地で活動を続けるだろうからな。


 協力の依頼を受ければ、それに答えることも出来るだろう。


 アルドラは盗賊のアジトで【収納】した物品をギルドに預けた。


 盗賊を討伐すると盗賊の所有していた盗品の類は、討伐者の所有となる。しかし今回は盗賊団を追う手掛かりになる情報が含まれているかもしれないということである。


 何か欲しいものがあれば情報を整理した後、引き渡して貰えるとのことだったが、それも何時になるか不明である。


 何時になるか分からない物を待つのも面倒なので、まるごとギルドに物品の権利を譲渡した次第だ。


 特にめぼしい物もなかったので、ギルドで整理した後、適正価格での買い取りという形になり、その分の貨幣を支払ってくれるそうだ。


 払ってもらえるのは少し先の話になりそうだが、急いでるわけでもないので良いだろう。




「それはそうと何かあったのか?」


 アルドラは訝しげにゼストに問う。


 ギルドに漂うまるでお通夜のような雰囲気をさしてのことだろう。


 いつもの喧騒はなりを潜め、人はいるもののいつものギルドに比べると異様な静かさである。

 

「森の彼方此方で高濃度の瘴気が発生しているからな。若いランクの奴は仕事にでれんのだ」


 高濃度の瘴気は毒である。


 毒とは言ってもゲームの様に体力を徐々に奪うといった物ではないらしいが、大量に吸い込めば気分を害したり意識が朦朧としたりと危険なのだ。


 無論それだけで死に直結するということでもないのだが、ことは森のなかである。魔獣が闊歩するその領域で意識を失うことがどんなことか、今更考えるまでもないだろう。


「それに濃度の高い瘴気は魔力を散らすからな。放った斥候もあぐねてるよ」


 このところの森の不穏な気配に、通常よりも多くの斥候を森に放っているらしい。


 しかし瘴気は様々な力を阻害する効果があるようだ。


 魔術やスキルもいつもの様な勝手には行かないのだろう。


「まぁ何事も無く瘴気が収まってくれれば良いのだが……」




>>>>>




 瘴気が濃いとはいっても森に入るなとは言っていない。


 冒険者たるもの自己責任で行動するのが基本なのだ。


 しかしながら瘴気の危険性はみな熟知しているのか、各々ギルドでだらだらと時間を潰して瘴気が収束するのを待っている様子であった。


 俺はアルドラを先に返し、一人で寄り道して帰ることにした。


 この所、色々とあった手前長い時間女性たちだけを家に置いておくのも忍びない。


 本屋や魔石屋、魔導具屋などを覗いてから家路へと足を向けた。


「収穫は新しい魔物図鑑1冊か。まぁいいだろう」


 徐々に薄暗くなる石畳の道を行く。


 この街にもだいぶ慣れたような気もする。


 道も詳しくなったし、こうして路地裏の近道も知れるようにもなったのだ。


 歩きながらパラパラと本を捲り、中身を確認する。

 

 この巻は海の魔物に関するものが多く記載されているようだ。


 人気のない道を進むと、不意に何かの視線を感じる。


 勢い良く振り向くも其処には誰もいない。


 場所は路地裏。道幅は狭く、道に様々な物が置かれているので身を隠す場所には困らないだろうが【警戒】【探知】には既にポイントを振っている。


 近くには人の魔力反応はなかった。


 だが嫌な感覚が抜けないので、警戒する意味でもポイントの設定を見なおしておく。


 俺が再び歩き出すと、その時背後から僅かな風が吹いた様な気がした。


「……ッ!?」


 俺は後ろを振り返らずに、手を脇に回しそこから背後へ向けて【粘糸】を放った。


 魔力で織られた粘度の高い糸のシャワー。


 効果時間は十数秒と短いが、一度絡まれば抜け出すことは難しい。


 粘度の高い糸は、動けば動くほど互いに絡まり合い、粘着しあって対象の動きを封じるのだ。


「……誰だ?」


 振り向いた先に居たのは、深くフードを被り布で口元を覆った人物だった。


 俺の不意打ちに反応したのか、素早く背後へ飛び【粘糸】を回避したらしい。


状態:認識阻害


自身の情報を守る魔導具か。 魔眼の力が弾かれた。


 崩れた体勢を整え、その者はゆっくりと立ち上がりこちらへ向き直る。


 背はあまり高くない。見た目では男か女はわからなかった。


 腰に曲刀を差しているが、抜く気配はないようだ。

 

 だが俺を狙っているのは疑いようがない。


 その者は何かの武術のような構えをとる。まるで中国拳法のようだ。


 不意打ちの【粘糸】で距離をとった為に、二人の間合いは遠いがこの距離で構えをとるのは攻撃手段があるからなのだろう。 



【雷撃】



 俺は距離が離れているうちにA級の攻撃魔術を放つ。


 俺が持つ攻撃手段のうち、最速、最高威力の術だ。


 とにかく何かヤバイ感じがすると、俺の中の何かが警笛を鳴らすのだ。


 様子を見ている場合では無さそうだ。


 壁内で魔術を使うのはご法度らしいが、それで衛兵が駆けつけてくれるなら良しだ。


 なにせ俺には正当防衛という大義名分があるのだから。




 放たれた稲妻はまるで意思があるかのように獲物へ向かって一直線に飛んだ。


 そこから生まれて引き起こされる余波が周囲を容赦なく破壊した。


 しかし致し方あるまい。非常事態なのだ。


 轟音と閃光が目標に向かって殺到する。


 一瞬にしてそこは凄まじいエネルギーに包まれた。


  

 

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