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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第81話 合流

※前回のあらすじ


なんやかんやあって盗賊団壊滅。シアンを無事救出した。

 どれほどの時間が経っただろうか。


 事を終えた俺は、子供たちを洞窟の入り口まで連れて来た。

 もうすぐ捜索隊が到着するはずである。


 アルドラとは主人と眷属という関係で繋がっている為、彼がどのあたりにいるか大体把握できるのだ。

 どうやらギルドマスターをうまく説得して、人を派遣してもらうことができたようだ。


 洞窟内にはいまだ息のある盗賊も多数いる。


 逃げ出せるほど元気な奴はいないようなので、今は放置している。

 捜索隊がきたらそのまま引き渡すことになるだろう。


 だいぶ怪我のひどいやつもいるが放置だ。自業自得だしな。情けをかけるような気分にもなれない。それに貴重なリザ謹製のポーションをあいつらに使うのも勿体無い。


それにしても威力を削がれたとはいえ、S級に生き残れた者が複数いることには驚いた。


範囲攻撃というのは場所によって威力にムラがあるのだろうか。まぁ、仲間を盾にして防いだ可能性もあるか。


魔力の消費も激しいため、範囲攻撃という手段は有りだがダメージ効率を考えると疑問が残る。




 シアンは俺にしがみ付く様に身を寄せてぐったりしている。

 魔法薬の効果か、怪我の具合は良いようだが疲れがでたのだろう。精神的な疲労が大きいのかもしれない。医者でもない俺にはどうすることもできないため、今はそっとしておこう。


ネロは主人が戻ってきて安心したのか、もしくは彼女の護衛のためか、膝の上で丸くなっている。

 

 他のエルフの子供たちはというと、少し離れたところで互いに身を寄せて縮こまっていた。

 

 近からず遠からず。俺のことを警戒しているのかもしれないし、周囲に魔物の気配も無くとりあえずは安全といえるため、目のつくところにいる限り放って置いて良いだろう。




>>>>>




 しばらくするとギルドの捜索隊を引き連れたアルドラが姿を現した。


「事は終わったようじゃの」


「あぁ、とりあえずは」


 俺は疲れた声で答えた。


 アルドラの視線が俺の傍らで眠るシアンに移る。


「俺のせいで攫われたようなもんだ」


 俺は盗賊たちの話をアルドラに聞かせた。




 静かに話を聞いていたアルドラだが、全てを聞き終わるとニカッと笑った。


「だがシアンを救ったのは事実だ。その娘はお主に救われた。それ以上もそれ以下もない」


「……」


「不満か?」


 未だに手に残る人を切った感触。


 正直もやもやしたものは残っている。


 自分がしたことは正しかったのか。もっと上手くやれる方法があったのではないか。


 捜索隊と共に行動するべきだったのでは?人質を救出したらそのまま洞窟を脱出すればよかったのでは?結局自分は身勝手な殺戮を楽しんだだけでは?


 俺は傍らで眠るシアンに目を向ける。


 だけど……おそらく……


 俺はまた俺の家族に危害が及ぶようなら、躊躇わずに刃を振るうだろう。


 必要なら何処までも残酷になれるだろう。


 俺は家族を失うのが怖いのだ。


「正直わからん。だけどシアンを救えてよかったとは思っている」


「そうか」


 アルドラはそう短く言うと、俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。


「ッ!?」


「がはははは、悩め悩め!悩むのは若者の特権じゃぞ!」


 アルドラは声を上げて笑った。


「まったく……」


「まぁなんにせよ」


 アルドラは俺の眼前に拳を突き出す。


 一瞬意味がわからなかったが、少しして気がついた俺は、それに自身の拳を合わせた。


 二人の拳がぶつかる。


「わしの身内の者を助けてくれたことに感謝する」


 アルドラはそう真面目な顔で語った。


「俺にとっても大事な人さ」

  

 俺は笑顔で答えた。




>>>>>




「盗賊討伐の協力に感謝する」


 俺の前に現れた年配の男が、握手を求めつつそう礼を言ってきた。


 俺がアルドラを通してギルドマスターに要請した冒険者ギルドの捜索隊、その代表のようだ。


 60を超える年代は現役の冒険者としては珍しい。


 冒険者は肉体的にも過酷な職業であるため、40を過ぎれば引退を考えるのが一般的であるという。


 実力の知られた者なら、技術指導官やギルド職員などに誘われるなどの道もあるようだが。


 俺は立ち上がり、握手に応えた。


「いや身内の為だ。それよりもこんなに早くギルドが動いてくれるとは思わなかった感謝する」


 俺がそういうと年配の男は首を振った。


「街の近くで大きな盗賊団が動いているともなれば放っておくわけにもいかない。それにエルフの村からの協力要請も来ていたのだ」


 ルタリア王国の国民ではないが、エルフはいわば良き隣人である。


 彼らの要請には出来る限り応えたい事情もある。


 そもそも盗賊団は他国からの流れ者。ベイルとしてもそのようなものが、街や街の近くで悪さをしているとあっては、放っておくわけにもいかないのだ。


「それに彼の存在も大きかった」


 そう言って親指を立てて指し示す先にはアルドラがいた。何やら若い隊員と揉めている。


「わしに借しを作っておくと得だぞ……ってね。ギルドマスターは元々捜索隊をすぐ動かす予定だったようだが、エリーナさんを動かしたのはその言葉かもしれない」


「そうでしたか」


 俺は男に聞かれるままに事の経緯を話した。


「わかった。後日また話を聞くこともあるかもしれないが、今日のところはこれで帰っていいよ」


「え?いいんですか?」


 もっと事情聴取というか、どっか施設的な所に連れて行かれて根掘り葉掘り聞かれたりするもんだと。


 盗賊とはいえ、けっこうな数殺してるんですけどね?いいのかな……そういや盗賊じゃない奴も1人いたし。


「うん?いや、なんかやましいことがあるなら聞くけど?まぁ相手は盗賊だし、君がその娘の身内で助けに来たってことは確認とれているしね。その武道家の男も盗賊と共に行動していたなら職業は違えど、盗賊として扱われるだろう。つまり君に何の落ち度もないということだ。それとも我々と共にギルドへの帰還報告に付き合うというなら止めはしないが」


 そうだな。帰っていいなら帰ろうみんなの元へ。シアンもいることだし、みんな心配しているだろう。

 



 人質となっていたエルフの子供たちは捜索隊によって保護された。


 洞窟内に残っていた盗賊たちも同様に、捜索隊の手に渡った。ギルドに戻った後に色々調べられることになるだろう。その辺りは彼らの仕事だ。


 盗賊たちが残した物資はアルドラの【収納】で片付けた。


 当初は若い隊員が「闇ギルドの重要な手がかりになるかもしれない。勝手に持ちだされては困る」と食って掛かっていたのだが、結局生き残った盗賊も連れて帰らなきゃならないし、物資はけっこうな量があるしでアルドラの【収納】に頼らざるを得なくなったのだ。


 この手の物資の処遇というのは、討伐を行ったものの手に委ねられる。つまり俺が処分(売却)して良いということになるのだが、盗賊の足取りを掴むためにもギルドに処分を任せて欲しいという話になった。


 勿論それ相応の報酬は支払われるということなので、俺はそれに了承した。




「こんなどこの馬の骨ともわからない者に、手を借りることになるとは……」


 若い捜索隊の男は項垂れるように呟いた。


 次の瞬間、若者の頭に拳が落とされる。鈍い音がした。


「痛いですね!?何ですか?」


 予期せぬ行動をされ若者は狼狽した。


「馬鹿者。あの方が誰か知らんのか?」


 殴られた若者が不貞腐れたようにアルドラを見つめる。


「まぁエルフのようですが……あの人質の子供の身内か何かですか?あんな立派な体躯のエルフは珍しいといえば珍しいですが……」


 それが何か?とでも言いたそうな若者の表情に、年配の男は溜め息を吐いた。


「まぁあのお方がベイルの英雄と言われたのは30年以上前の事だから無理も無いか……私も若造だったしな」


 男は語った。


 嘗てベイルに存在していた英雄の話を。


 悪鬼羅刹と恐れられ、エルフでありながら大剣を振るい、森の巨大な魔獣を1対1で仕留める怪物が居たことを。


「まぁ恐れていたのは人道に反した悪人どもだったがな」


 年配の男はそう言って笑った。


「若い頃に憧れた英雄をこうして拝めるとは、俺も幸運だ」


 何か巷では死亡説などもあったが、やはり英雄は死なずか……と男は誰に聴かせることもなく呟いた。




 そんな話を傍らで聞いていた俺は、アルドラに不可解な顔を向けた。


 そういや元英雄なんだよな。あんまりそんな感じしないけど。

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