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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第259話 完全掌握

 強烈な閃光に視界を奪われた。


 身体の制御権は未だメルキオールにあり、俺はというと自身に起こった現状さえ把握できていないでいる。というのもメルキオールが呼びかけに全く応じなくなってしまい、体の自由もきかず情報も得られずどうすることもできないのだ。


 どれくらい時間が経過したのだろうか。とても長い時間だったようにも思えるし、一瞬だったような気もする。メルキオールの反応が無くなり不安も覚えたが、その不安も視界が回復したことで解消された。


 生物の内臓を思わせる混沌の世界から景色は一変し、周囲には何も無い荒野が広がっていた。


 そう、全く何も無い。ただ、平らな岩の地面が広がっているのだ。見上げると空があり、ここが屋外なのだと理解できた。どういうわけか地上に戻ってきたようだ。長いこと地下にいたせいか時間感覚がおかしいが、今の時刻は夜で間違いないらしい。


 ただ、妙な光源の存在もある。


 視界の先のそれは、火の玉とも呼べるような巨大な物体。あれが光源か。ここからでは正確な大きさはわからないが、少なくとも数百mは離れている。遮る物がないので、ここからでもよく見える。随分と印象が変わったが、魔力の質は変わっていない間違いなくあれは――


『混沌は相手を取り込み、その能力や性質、または感情や記憶を自分の糧とする存在のようですね』


 いつの間にか隣に並び立つメルキオールが応えた。


 巨大な熱量を生み出すスキルか。いや、それが魔導具だとすれば――


「……プロメテウスの火を取り込んでしまったということでしょうか?」


『ええ、間違いなさそうです。不完全だったとはいえ、僕が作った魔導石の威力はそれなりのものがあるようですね』


 彼は確信したように答えた。


 メルキオールは混沌を消滅させるために、爆弾――プロメテウスの火を開発していた。


 しかし、彼はそれを完成させることなく命を落としてしまったという。その後、アルメリアを心配するあまり亡霊として青の回廊を彷徨うことになったようだ。


 そういえば、いつの間にメルキオールは憑依を解除したのか。いや、解除したこと事態は良いのだけど、未だ自分自身の体が自由に動かせない。声は出せるし、動かそうと思えば動かせるんだけど、何というか完全なマニュアル操作じゃなくて、オートマ限定みたいな変な感じになっている。まるで誰かが俺の体を動かすことを背後から補助しているような奇妙な感覚。


 俺がその奇妙な疑問をメルキオールに応えてもらおうとすると、目の前を遮る者が出現した。


 少女の上半身と尾ひれのある下半身。水棲生物、鱗がないので魚よりもイルカのほうがより近い。それが1人、2人、3人、いや、まだまだいる――気がつくと無数の人魚たちに包囲されていた。


 半透明の体、魔眼で確認すれば正体はすぐに判明した。彼女たちは水精霊だ。魔物でなら人魚マーメイドという化け物はいたけど、俺にしてみれば人魚マーメイドのイメージはこちらのほうが近い。まぁ、あえて言うなら姫魚メローとでも言ったところか。 


『彼女たちが混沌の爆発攻撃から、身を挺してジンを守ったのだ』


 そういえば混沌に取り込まれた時も助けられたんだっけ。これで助けられたのは2回目か。


 何というか彼女たちは身にまとう衣服の類いがないので、生まれたままの姿をさらけ出している。人魚とは言え上半身は人のそれと変わらない。なかなか目のやり場に困る光景で少々困るな。


 よく見れば少女たちの顔体つきは人族ではなく海人族の特徴がある。海人族特有のものなのか、豊満な娘はいないようでルーのようなささやかな感じのようだ。


 にこにこと笑顔を振りまく少女たちに助けてもらった礼を言うと、そのうちの1人が傍に寄ってきた。


『精霊使いのお兄さん。私たちの妹を助けてあげて』


 耳元で囁く人魚の少女。メルキオールから譲り受けた言語理解のスキルで彼女たちの言葉が理解できた。


『彼女たちは海人族の歴代の巫女なのだよ』


 巫女というのは魔力総量が生まれつき高く、もしくは高くなるよう成長させられた海人族の少女。


 海神の元に捧げられた彼女たちは精霊に転生、混沌を封じる役目の助力をしていた。それが巫女の役割であり、海人族とアルメリアの間で交わされた盟約。


 その盟約も混沌がいなくなれば解除されるというわけだ。彼女たちは今代の巫女であるフルールのことを心配しているのだ。


「なるほど、わかった。世話になったぶんは返さないとな」


 俺が応えると人魚の精霊たちは嬉しそうに微笑んだ。


『僕は青の回廊に縛られているから、これ以上の憑依は難しい。できないことはないけど、君に負担が掛かってはいけないからね』


 亡霊は縛られた土地から、あまり自由に遠くまで行動できないのだ。


「そうか。それで憑依の解除を――ん、では今の状態は」


 メルキオールとの会話中でも嬉しそうに俺の体にまとわりつく人魚たち。実体はないので触れる感触は無いのだが、目の前に色々なものが曝け出されると少し困る。


『精霊使いのお兄さんって外国人なのね』


『黒髪の人って、私初めて見た』


『肌もすべすべだねー。耳の形がちょっと私たちと違うかもー』


 黄色い声が頭の中で響く。害もないので放置しようと思ったのだが、放置するにはかしましくなってきた。それに妙に懐かれてしまったようだし、どうしようかと思っていたところで俺の体から俺の意識とは無関係に雷光が発生した。


『きゃぁあっ!?』


『痛ぁ!』


『やだぁぁーーっ』


 実際にダメージがあるかどうかは別として、亡霊などでも魔術の衝撃は与えられるらしい。それは精霊も同様のようで、雷光から発生したであろう衝撃が泣き叫ぶ人魚たちを豪快に吹き飛ばした。


 俺はその顛末で理解できた。自身の体に憑依している雷精霊の存在に。


『ジンは私のだから取っちゃダメなの!!』


 キンキンとやたら甲高い声が頭の中に響く。雷精霊の逆鱗が相当恐ろしかったらしく、人魚たちは俺に近づくことをやめ離れて震え始めた。


 更なる雷光がほとばしる。無論、俺の意思とは無関係だ。


『ジンはっ、私のだから、取っちゃダメなのーーーーーーッッ!!』


「まてまて、落ち着け。取るとか取らないとか、よくわからんけど雷撃を無闇に発生させるのだけはやめてくれ」


 何故か暴走気味の雷精霊に、とりあえず雷光の暴走を止めさせることには成功した。


 精霊は気に入った人間に加護を与える。精霊の加護は1人の人間に1つだけ。精霊には人間のような複雑な感情はないとされているけど、人間ぽく言えば加護を与えた人間に余所の精霊を近づけさせたくない嫉妬のようなものだろうか。精霊に問いただしても、まるで幼子と話しているよに要領を掴めない。まぁ、正確なところはよくわからなかった。


 とりあえず人魚たちには謝罪しておこう。何にせよ今までまともな会話のできなかった雷精霊とも少しでも意思疎通ができるのはありがたい。言語理解は十分に有効なスキルだ。


「はぁ、言っておくが俺は誰もの物でも無いからな。……まぁ、いいや、とりあえず大人しくしていろ」


 メルキオールの話によると、精霊使いと呼ばれる存在は自身の体に精霊を憑依させ戦闘を行うものなのだという。初めて聞いた情報だ。


 精霊憑依させた状態で肉体の制御を任せることを自動操縦、付加される精霊の力を含め全てを自分の管理下に置くことを完全掌握というらしい。


 何にせよ、雷精霊には肉体の制御権を返してもらうことにしよう。

  

お読みいただき、ありがとうございます!

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