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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第246話 覚醒

 空間を明るく塗り潰す光球が目の前で氷瀑に着弾する――


 かと思われたが、放たれた光球は氷瀑への軌道上、その半ばで制止していた。


 どういうことかと理解が及ばず、周囲を見渡すも誰しも反応がない。というより、その場にいる全員の動きが止まっている。


 そう、俺を含めて全員の動きが制止しているのだ。


『不意を突かれたようで、後手に回ってしまいましたね。時間がありませんでしたので、勝手ながら貴方の能力を使わせて頂きました』


 脳裏に響く声。同調により繋がりを得たアルメリアが、魔力干渉により俺の魔術の一端を利用したらしい。そんな乱暴なことが可能なのか。


 思考加速。自身の情報処理速度を向上させる雷魔術。


 加速された思考が周囲の時間を停止させているように感じさせる。実際は一瞬の出来事なのだろうが、その一瞬で多くの物事を考えられるという事なのだろう。


 いや、ちょっと待てよ。それ俺の使えない雷魔術なんじゃないか?


『いえ、貴方には使える素養が備わっています。雷精霊の補助があるのですから当然だと思いますが……そんなことよりも、彼らの事です。貴方は何か知っている様子でしたが、何者なのでしょうか?』


 アルメリアの言葉には俺の背景も探るような含みがあった。


『いえ、何か知っているという程の情報でもないのですが』


 俺は知っているだけの魔人についての情報をアルメリアに話した。


『なるほど。魔人ですか……』 


 アルメリアも魔人という存在について知っていることは無いようだ。


『あのように明確に意思を持つ魔人は初めてみましたが、短期間で複数の魔人が発見され、状況から組織化された存在だというのは予測していました。何故この場に姿を見せたまではわかりません』


 それにしても、こんなベイルから遠く離れた土地で再び魔人と遭遇することになるとは。ただの偶然か? 状況から大森林に潜伏していたと思っていたけど、そうではないのだろうか。


 ギランに武器を与えたのも魔人の組織……狙いは封印された混沌なのか。


『混沌を解き放ったところで、何かに利用できるとは思えません。人の世に大きな災いを呼び込むというのが目的ならば、利用価値はあるかもしれませんが。どちらにせよ、阻止すべき事態には変わりません』


『そうですね。俺もアルメリア様の意見に賛成です』


 魔人は何かの組織に属した存在。おそらくそれは間違いない。どうやら何か目的があるようだが、彼らの行動を見ても碌な物ではないだろう。


 特別彼らと敵対しているわけではないけれど、このタイミングで出会ってしまったのなら止めないわけには行かない。 




 思考加速が解除され、時間感覚が通常に戻る。


 放たれた光球は氷瀑へ向けて突き進み、そのまま接触。凄まじい爆裂音と同時に周囲に水蒸気が広がった。視界が遮られているが、普通の水蒸気なら魔力探知は正常に機能する。


 どうやら光球が氷瀑に接触する直前に、アルメリアが氷魔術で防御したようだ。超高温の光球と、氷の塊が接触して瞬時に蒸発、大量の水蒸気を生み出したらしい。


『このような姿になっても、魔術の扱いだけは自信があります』

 

 神の如き強力な魔術を操るアールヴ。そのアールヴであっても滅することのできなかった、恐るべきしぶとさを持つ混沌と呼ばれる化物。


 彼女はその化物を数千年に渡って封印し続けてきたという自負がある。彼女は攻める魔術よりも守る魔術のほうが得意なのだ。 


 突然の強力な攻撃、それに続く巻き起こる水蒸気に仲間たちも混乱するかと思ったが、構成員のほとんどが熟練の冒険者。俺の心配は杞憂だったようだ。


「魔人、あれが魔人か……」


 レドが襲撃者を睨んで呟いた。


 大森林の異常発生以降、ベイルでも魔人の存在と警戒は伝えられていた。とはいえ、情報と呼べるほど有意義なものでもなかったのだが、その存在は若手冒険者にも広く知られることになっていた。


 魔人は魔物とは違った特異な能力があるという。鑑定で相手のレベルが判断できても、その情報は当てにはならない。魔人はそれだけの脅威を秘める存在。それが冒険者に伝えられた数少ない情報の1つだ。


「なんだ、古代魔術と言う割には、大したものでもないのだな」


 水蒸気の煙幕の中、黒いローブの集団が氷瀑へと向けて歩みを進める姿が視界の端に映る。


「ぶしゅるるるるる……うぬぅぅ……まだだぁ、まだ俺の力はこんなものではぁ……」 


 突然の地震。彼らの動きを遮るかのように、辺りの地面が割れ砕け、無差別に崩れた。目の前に出現したのは巨大なクレバス。地面そのものが隆起するかのように、無数の氷柱が行く手を阻む。


 氷柱の中を動く影があった。アルドラとフィールだ。襲撃者を敵と判断したのだろう。彼らを制圧するため、既に行動に移している。


 魔人の動きは速い。アルドラとフィールが先行して行動し、俺はそれに続いた。後方からリザたちが続く。俺は手を上げて距離を取るように促した。


 相手の能力が判明していない以上、迂闊に飛び込むのは危険だ。アルドラとフィールなら大丈夫だろうけど。それにこの空間はアルメリアの腹の中と言ってもいい場所。地の利はこちらにある。


 氷瀑の前に氷山ともいえる巨大な氷塊が築かれた。


 その氷山を前にして、黒いローブの1人が歩み出る。


「俺たちの行動を止めようと言うのか? それは利口な判断じゃないな」


 大げさに手を振りかざすと、黒いローブが大きく開けた。ローブの下は筋肉質の全裸の男。いや、パンツは履いてる。ブーメランパンツみたいなの。


 男は徐に股間へと手を伸ばす。囲い込むように動いていたアルドラとフィールの動きが止まった。男の行動に警戒レベルを引き上げたのだ。


 男がパンツの中から取り出したのは、小さな硝子の小瓶。あれはリザはもちろん、ベイルでも一般的に使われている魔法薬用の薬小瓶――


「止められるものなら、止めて見せろ」


 男の手の中にあった小瓶の情報を魔眼が捉えた。


 巨人の薬(ギガンテス) 魔法薬 A級


 筋力強化ストレングスポーション 魔法薬 A級


 耐久強化フィジカルポーション 魔法薬 A級


 敏捷強化アジリティポーション 魔法薬 A級


 器用強化デクスタリティポーション 魔法薬 A級


 A級の魔法薬が大量に。男は迷いなく全ての魔法薬を口内へと流し込んだ。

お読みいただき、ありがとうございます!

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