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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第241話 氷の門

 白煙の上がる泉の中心に何か建築物が見える。


 石の柱に石の屋根。何か古代の神殿のような、自然の洞穴の中にぽつんとあるそれは、否応無しに特別な雰囲気を醸し出していた。


 石の神殿へと導くのは泉に沈めらた飛び石だ。泉自体はあまり深くは無いらしい。手を入れると心地よい温かさを感じる。冷えた身体を温めるには丁度いいかもしれない。


「ギラン様ー、こっち来てくださいっ、すごいっ、温泉ですよここ」


 彼の仲間の1人である海人族の少女が、泉の温かさに驚き子供のようにはしゃいでいる。


「ほう、いい温度だ。これは傷にも良さそうだな。どれどれ……」


 リザの魔法薬が利いたのか調子を取り戻したギランが、少女の呼びかけに答えて泉の具合を確かめた。


「ちょっと、ギラン様なんで服脱いでるんですかッ!?」


 おもむろに衣服を脱ぎ、全裸になる巨漢の男。鍛え上げれた大胸筋が弾けるように脈動する。 


「フネよ、貴様は温泉の入り方も知らんのか。服を着て湯に浸かる馬鹿がどこにいる?」


 アブドミナル アンド サイ


 自慢の筋肉を見せつけるように少女の問いに答える。


「ギラン様、こっち向かないでッ、そっち行ってくださいよー」


 少女の悲鳴は冗談でなく、本気の抵抗のようだった。


「やれやれ、煩い奴だな。ウタリも一緒に湯に浸かるがいい。なかなか気持ちがいいぞ」


 そういってもう一人の仲間の少年に声を掛けた。


「あっ、はい。ギラン様、それでいいんですか。先ほどまで槍を向けていた者たちに交じって、のんきに湯に浸かるなどと……」


 少年は彼の行動に困惑しているようだった。


「ん、何か言ったか?」


 ギランの緊張感のない様子に、少年はわざとらしくため息を吐いた。


「……いえ、もういいです」


 少年の視線がギランから、こちらへと移る。俺を見ている、というよりは俺の手の中を見ているのか。


 ギランが手にしていたA級の魔槍。暴れられては困るので、念のため取り上げておいたものだ。同じ等級のトライデントは海人族が代々受け継いできた稀少品だというし、等級だけで見れば稀少度は違いない。


 だがこの魔槍、どうやら海人族の所有する品ではないようだ。少なくともフルールは覚えがないという。まぁ、彼女が知らないだけかもしれないので、ギラン本人に出所を聞くのが早いか。


 国宝級ともいわれるA級の武具が、そこらにほいほいあるとは思えないし。素直に教えてくれるかはわからんけど、大抵の嘘はリザが見抜いてしまう。リザによると真実を話さないようだったら、話したくなる薬があるというので、場合によってはそれを使ってもいいかもしれない。改良中とのことだったが、効果は十分期待できるそうだ。


「ん? あぁ、その槍か。いい槍だよな。俺が普段使ってる奴とは雲泥の差だよ」


 ギランはのんびりと湯に浸かりながら、タオルで顔を洗いつつ答えた。


「それで、そのいい槍って奴は、どこで手に入れたんだ? 海人族の宝物庫か? 帝国の露天か?」


「うははははっ、馬鹿をいうな。それほどの槍が、そこらで手に入るものかよ。貰ったんだよ。女にな。いつだったかな……もう、何週間も前になると思うが……」


 日課であるミューズの酒場巡りの途中で、海人族でもない帝国人でもない女から貰ったのだという。


「そんな稀少な品を貰ったっていうのか?」


 リザは無反応。嘘は言ってないようだ。


「俺が良い男だったからかもな」


 がはははと豪快に笑うギラン。リザの無表情の圧力が凄い。ギランはぜんぜん気が付いていないけど。


「顔を隠してあったからな、種族はわからねぇな。魔力の質からして、この辺じゃみない種族だろう」


「顔を隠すなんて怪しくないか?」


 どう考えても怪しいだろ。そんな高価な物くれるとか、俺だったら絶対断るわ。怖すぎる。


「そうか? 別にそういうこともあるだろう。宗教上の理由だとか言っていたが……まぁ、種族差別は人族の特権だからな。そういうのも気になるのか?」


 種族差別か。人族至上主義などもそうなのだろうが、そういうのは人族に多いらしい。弱くて臆病だから、自分と違うものを排除しようとしている。なんて話も聞いたことはあるが……まぁ、海人族も昔は他種族との繋がりが希薄で、妖魔の一種と迫害されていた時期もあったというし、そのあたりの問題には寛容なのかもしれない。


 ギランの話によると、その日も蒸留酒を大量に飲んでいたので記憶も曖昧らしいのだが、女が言うには自分は遠方から来た者で、人族に故郷を奪われたのだと話していたそうだ。


 帝国に蹂躙されるレヴィア諸島の現状を、自分の故郷と重なると話す女と意気投合し2人でしばらく酒を酌み交わしたという。


「自分の故郷の戦士はみんな死んじまったから使い手が居ない。できれば戦士の手向けに受け取ってほしいと言われてな」


 強力な槍なので、強い戦士に使って貰えれば槍も本望だろうという話だったそうだ。


「一目見て、これは家に飾って置くもんじゃねぇ、使ってこそ価値のある槍だと思ったぜ」


 槍と一緒に魔力回復薬を始めとした魔法薬をいくつかと、魔物避けの魔導具をいつくか貰ったようだ。


 魔物避けがオーグルには効いて、ダゴンやクラーケンには効かなかったのは単純に等級の差だろう。ダゴン級の強力な魔物に対抗するには、相応に強力なアイテムが必要になるということだ。

 

「それで、遺跡の結界を破壊したのは何でだ?」


「レヴィア諸島を帝国が領地にしようと狙ってるのは知ってるんだろ。この辺の海流は入り組んで、大きな船で行き来するのは難しいからな。遺跡が自由に使えれば何かと都合がいいはずだ」


 遺跡の結界を破壊すれば、魔物が遺跡を行き来するようになって帝国冒険者の活動を阻害できる。ようは妨害工作か。上層にいる魔物は、そこまで強力ではないし、あまり意味はなさそうだが。

 

「まぁ、やりたいことはわかったけど、自分たちで遺跡に危害を加えてどうするんだよ」


「結界は後々にでも修復できる。今は時間稼ぎができればそれでいいと思ってな。女王は海神祭の後にレヴィア諸島を帝国に引き渡すつもりなのだろうから、その前に他の部族を説得して決起する必要があった」

 

「その説得てのは進んでいるのか?」


「……まぁ、ぼちぼちな」


 あまり上手くは行っていないらしい。


 レヴィア諸島で一番人口が多い部族がミスラ。そのミスラで戦える若者を集めたのがミスラ戦士団。戦士団の全容を知ってるわけではないが、戦闘力という意味ではあまり高くはないと思う。

 

 他の部族の若者を集めても帝国と戦える戦力が確保できるとは思えない。戦力差があり過ぎてゲリラ戦も無理そうだ。




「それにしても、地下の魔素濃度が上がると人間には苦痛なはずだよな。大丈夫なのかな?」


「そうですね、これほどの濃度であれば異常を感じてもおかしくは無いはずですが……」


 今のところ問題はなさそうか。まぁ、森人族であるミラさんやダリアさんは問題ないだろうし、同様にリザも大丈夫のようだ。冒険者はベテラン揃いなので俺から敢えて指摘することもないだろう。


 巫女様の儀式はあの神殿で行われるらしい。神殿とはいっても、納屋くらいのサイズだろうか。遺跡は所々が崩れ、時の流れを感じさせる。


「皆様、ここまでありがとうございました。お陰様でここまで辿り着くことができました」


 フルールが皆に頭を下げる。危険のある遺跡を数日共に行動したことで、多少なりと仲間意識も芽生えたのかもしれない。


 その表情は柔らかく、当初の強張った様子はないようだ。


「巫女様もお疲れでしょう。少し休まれた方がいいのでは」


「いえ、私は大丈夫です。それよりも皆様方には帰還の護衛もお願いしたいので、今のうち十分に休んで頂きたいと思います」


 巫女の儀式というのは、ざっくり言えばあの遺跡で1人で温泉に浸かるというものらしい。休みながら何時間も掛かるようだ。この場には魔物はいないようだし、その間は調査隊は休息となるだろう。


 土魔術で衝立を作り、その背後に陣を張った。魔物の危険がないとはいえ、人里から遠く離れた地下空間、実際には何が起こるかわからない。何かあればすぐ動けるように近くにはいた方が良いだろう。


 フルールが離れたところでアルドラに声を掛けた。


「巫女様を頼む」


「うむ。お主の方こそ、何かあればすぐ呼ぶのじゃぞ」


「わかってるって」


「ジン様、私もご一緒に」


「いや、リザは巫女についてやってくれ。年の近いリザが傍入れば何かと心強いだろ」


 俺の言葉に納得しないリザが、ぐいと服の裾を掴む。


「ジン様、まだ回復されてませんよね」


 そういって彼女は俺の胸に飛び込み、唇を重ねた。そのまま抱き寄せ、しばしの抱擁を楽しむ。


 名残惜しいが唇を離すと、リザが切なそうな表情を見せる。


「ありがとう。助かるよ」


「お気を付けて」


 隣にいたアルドラが呆れた顔を浮かべていたが、気が付かなかったことにした。

 

 リディルには先の状況を確認してくると告げ、俺は調査隊の陣を後にした。


 先へと進んでしまった賢者様を急いで追いかける。


 水晶の泉は奥へ進んでいくと、次第に先細りになっていった。


 そうして辿り着いた先にあったのは、岩壁に埋め込まれた氷の門だった。

  

『氷の精霊と水の精霊が作った扉だよ』


 扉の傍にいた賢者様が説明してくれた。ここで待っていてくれたらしい。


 氷の門は、その名の通り氷で作られた門である。巨人でも余裕で通過できそうなくらいに巨大な門で、青白い輝きを放ちながら細部に渡る装飾の施された美術品のようでもあった。

 

『精霊の加護があれば問題なく通れるのだけどね』


 歴代の巫女には、不思議と氷か水の精霊の加護が与えられる。


 それが門を通る条件になっているようだ。加護を持たない者が無理に押し通ろうとすると、体の芯から氷漬けにされるという。


「俺が持っているのは雷精霊の加護なんですけど、それでも大丈夫なんですか?」


『精霊たちに退く様に指示をだせばいい。精霊使いならば精霊語は使えるのだろう』


 精霊語って何ですか。初めて聞きましたけど。


 

お読みいただき、ありがとうございます!

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