第239話 崩壊
放たれたトライデントは一条の光となってダゴンを貫いた。
同時に起こる炸裂音。全身を駆け巡る雷撃に魔物の巨体は動きを制止させる。
攻撃の余波が周囲にも拡散し、広場を覆っていた霧を一瞬にして消し飛ばした。雷の性質を持った魔力の波が引き起こされたのだ。
着弾地点となったダゴンの付近を浮遊していた浮遊烏賊が、突如意識を失ったかのようにバラバラと落ちてくる。
それは地上にいたクラーケンも同様だったようで、近くにいた者は即死ないし瀕死の状態となっていた。
「……動かないな。死んだか?」
微かに魔力の気配を感じるが、万全とは言い難い弱々しいものだった。
石橋を見上げると、遠くに手を振るリザの姿が見えた。俺がいた場所はダゴンの攻撃により無残に崩れ去ったが、石橋の全てが崩れたわけではないようで、彼女たちは咄嗟に退避して難を逃れた様だ。
それにしても、予想を上回る攻撃力となったな。思い返してみると魔術を含め、おそらく今までで最大量の魔力を込めた攻撃だったと思う。
上級の武器を使用したというのもあるだろうが、魔力量を十分に込めるとこれほどの破壊力を生み出せるのか。これがより上位の、S級となるとどうなることか……
その後、仲間たちと合流し、魔物の魔石や素材の回収を行うことに。
「てめえ、おい、ジンっ、やり過ぎだろうがよッ」
レドが疲れた様子で声を荒げた。大事には至らなかったが、どうやら石橋の所まで攻撃の余波は届いていたらしい。まともに浴びたレドは、少しの間だが、全身に麻痺を受けていたようだ。
「えっと、うん。ごめんな」
まぁ、ちょっとやり過ぎた感はある。とはいえ、余裕を見せるほどの状況でもなかったと思うので勘弁してほしい。何にせよ、人体に影響がある威力でなくて良かった。
俺は加護があるので問題ないが、仲間がダゴンの付近にいたらと思うと背筋が凍るな……今度似たような状況になった場合には注意しなくてはならない。
「お前、何なんだよ……」
少し前まで元気だったギランが、ずいぶんとやつれたように見える。俺がぶん殴った怪我が響いているのだろうか。死なれても目覚めが悪いのでリザの魔法薬を渡しておくか。
「ジン様に掛かれば、伝説の魔獣といえど造作もないですね!」
ぐったりするギランの横で、リザが我がことのように喜んでいる。
「まぁな。計算通りだ」
さっきまでリザも不安な表情を浮かべていたが、万事うまく過ぎれば何の問題もない。ギランの仲間も救出したし、伝説の魔獣相手に被害ゼロ。
むしろ魔石と素材がおいしいくらいだ。ギランに礼を言わないといけないかもしれないな。
「クラーケンは魔法薬の素材になりますし、錬金術にも利用できます。高価ですので、売却するにしても全身回収したいところですね……」
リザがクラーケンの亡骸を前にして、むむむと悩んでいる。これだけの巨体に相当な数。地上からも離れているので、通常であれば全身持ち帰るとなると、かなり難しいところだが、俺たちにはアルドラ先生がいるので問題は無い。
クラーケンが高級素材ならダゴンも利用価値あるんじゃないかと、ダゴンもまるごと回収することに。アルドラは渋っていたが、取り出すときが大変なだけで回収自体は可能らしいのでお願いした。ものはついでとミラージュスクイッドも回収しておいた。こっちは素材としては安価のようだが、まぁ、せっかくなので。
クラーケンの魔石からは岩壁などを自在に登れるようになるという登攀スキルを。更に水魔術の水球を得た。
ダゴンからは1つの魔晶石と、8つの魔石を回収した。おそらく本体と呼べる部位であろう頭部に魔晶石が、更にそれぞれの脚の付け根に魔石が1ずつあったようだ。
流石はレベル60越えとも言うべきか、魔晶石、魔石全てがS級クラスだった。
まぁ、今回は俺一人の手柄という訳ではないので素材自体は、調査隊の戦利品にプールされることになる。その前に内包されたスキルだけは回収させて貰うことにしよう。
“魔力譲渡”は魔力操作系スキルで、自分の持つ魔力を他人に分け与える。
“魔力射出”は自分の魔力を遠くへと飛ばす。
“自然治癒力強化”は身体強化系スキルで、怪我の治りを早める。自然に治らない怪我には影響しない。
“透視”は物を透かして見ることができる。
“柔軟”は体を柔らかくする。
“自切”は体の一部を自らの意思で切り離す。検証するには怖すぎるので保留しておこう。
“破壊”は火魔術系スキル。物を破壊する。
“水流操作”は水魔術系スキル。水の流れを操る。
“氾濫”は古代魔術系スキルという今までにない系統だ。大量の水を出現させ自在に操るらしい。
ダゴンの亡骸から発せられた魔力の気配は、各所の魔石からのものだったようだ。
どれも強力なスキルのようだが、ひとまず検証は後回しだな。
「あー、巫女様、何というか、申し訳ない。海人族の貴重な槍を失ってしまう形になって……」
投げ放ったトライデントはダゴンを貫通して、そのまま消失してしまった。最後に見たトライデントの様子だと、回収できたとしても無事な状態ではないだろう。
フルールは呆然と明後日の方向を見たまま固まっている。俺の軽率な行動にショックを受けてしまったのだろうか。レベルから判断しても、魔晶石に加え魔石を8個も体内に保有するという特異性を見ても、ダゴンが強力な魔物だったのは疑いようもない。
速やかに排除する必要があった。巫女の安全を考えても間違った行動ではなかったハズ。とはいえ環境によっては国宝とも称されるA級の武器。もしかしたら責任問題ともなりかねない。
ギランも理解を超えた状況に戸惑っているようだが、こっちは放置しておいて構わないだろう。説明するのも面倒だし。
「ジン、あれは何でしょう?」
フルールが指し示す場所に視線を移す。
霧が晴れた広場は視界が確保され、隠されていた全貌が顕わとなった。自然の水が侵入し、流れ削り作りだされたような天然の地下空間。遠い天井を見上げれば鍾乳洞のように石の柱が天井から垂れ下がり、乾燥した荒野の大地のようなひび割れた壁面が広がっていた。
遺跡の光源となる設置された魔導具。それ以外にも何か発光する植物が点在するようで、空間内は薄暗いものの視界は確保されていた。
そんな遠い天井付近にキラリと光る何かがあった。
「あれは――」
天井付近に突き刺さって止まったトライデントだ。
それは一瞬の出来事だった。弾ける様な音と同時に、遺跡全体に伝わる激しい振動。未だ残されたトライデントの魔力が、停止した天井付近で爆発した。
天井、岩壁に亀裂が入る。天井からぶら下がっていた柱のような岩が、見る間に落下していった。まるで映画のワンシーンのように、遠くから天井が次々と崩落していく。ドミノ倒しのように亀裂の入った壁が剥がれ落ちた。
粉塵が舞い上がり、破砕した破片が飛散してくる。
石橋は崩れ消滅した。目的地へと続く道は崩落によって閉ざされた。
「……えっと、ごめんなさい」
お読みいただき、ありがとうございます!
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ジン・カシマ 冒険者Lv40精霊使いLv38
人族 17歳 男性
スキルポイント 0/91
特性:魔眼
雷魔術【雷撃 雷扇 雷付与 麻痺 雷蛇 雷球 雷弾】
火魔術【灯火 筋力強化 火球 火弾 破壊】
水魔術【潜水 遊泳 溶解 水刃 洗浄 濃霧 水球 水流操作】
氷魔術【氷付与 氷球】
土魔術【耐久強化 掘削 創造】
闇魔術【魔力吸収 隠蔽 恐怖 黒煙 誘惑 闇付与】
光魔術S級【治癒 幻影】
古代魔術【氾濫】
魔力操作S級【粘糸 伸縮 誘導 制御 射出 譲渡】
探知【嗅覚 聴覚 魔力 鉱石 地形】
耐性F級【打 毒 闇 雷 氷 水】
体術 盾術 剣術 槍術 鞭術 鎚術 斧術 投擲S級 短剣術
闘気 鉄壁 隠密D級 奇襲 登攀 自切 透視 柔軟 警戒 疾走 軽業
解体 窃盗
繁栄 同調 成長促進 光合成 自然治癒力強化
採掘 木工
雷精霊の加護
竜骨兜 魔装具 B級 魔術効果【視界拡大 警戒 魔力探知】
魚鱗竜の戦闘衣 魔装具 B級 魔術効果【遊泳 潜水 盾鱗】
魚鱗竜のガントレット 魔装具 B級 魔術効果【筋力強化 闘気 体術】
魚鱗竜のレガース 魔装具 B級 魔術効果【脚力強化 軽業 疾走】
魚鱗竜の棘牙剣 魔剣 B級 魔術効果【鋭刃 貫通 猛毒】
妨害の指輪 魔装具 C級 魔術効果【妨害】