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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第221話 巫女の役割

黒き魔眼のストレンジャー 精霊の導きと覚醒するブラッドオーブ (2巻) 発売中です。何卒よろしくお願いしますm(_ _)m

 レイシが言うには彼女を連れて、今すぐ自分の国に帰れということだった。


 海神祭まで後10日あまり。それが始まる前にだ。


「巫女は海神祭で無くてはならない存在なのではなかったでしたっけ? それに俺も一応仕事でここまで来ているので、勝手に帰るわけにも行きませんよ」


 それに俺にはもう妻がいるので、嫁にやると言っても困ってしまう。まぁ、ベイルでは複数の妻を迎えても問題ないそうだし、現に俺もリザとシアンという2人の妻を娶っているわけだが。


 ああ、いや、そういう話ではないな。やるとか貰うとか、物じゃないんだからそういった気軽な感覚には俺自身ついていけないということだ。


「そうか。しかし君ほどの実力者ならば3、4人くらい妻がいても不思議ではない。それにまだ若いのだし、それくらいいても困らぬだろう?」


「まぁ、困らないですけど……いや、そうではなくてですね」

 

 一瞬悩んだが、気を取り直した。危ない危ない。欲望のままに生きていたら身の破滅だ。周りの者を不幸にしないためにも軽率な行動は控えなければ。


「何なら愛人でも良いのだぞ? 島から連れて帰ってくれるだけでもいい」


 食い下がるレイシに違和感を覚える。その嫁にやるって言う話、単にフルールを島から脱出させたいってことなんじゃないか。 


 回りくどい話は無しだと言っていたではないか。


 レイシに今日の本題を話してくれるよう促すと、彼は大きくため息を吐いてから話始めた。



「もしかしたら既に気が付いているかもしれないが、海神祭というのはレヴィア諸島を縄張りとする巨大な魔獣レヴィアタンに巫女と呼ばれる海人族の少女を生贄に捧げる儀式なのだ」


「生贄……」

 

 もちろん、そんな話は初耳だ。海人族の巫女にそんな役割があったとは。


 海神と称されるレヴィアタンは、青の回廊の最下層にあるとされる氷壁の神殿に住む。魔物とはいえ長い年月を生きると知恵をつけ、それは神とも呼べるほどに強力な力を身につけた。


 強力な魔力で領域を支配し、眷属に領域内の特定の魔物を貪り食わせることで異常発生を抑えているらしい。


「海神に巫女を捧げる際にはミスラ戦士団が護衛として神殿まで同行する。普段は地下で眠っている奴は海神祭にて目を覚ます。巫女を食らうためにな」


 巫女は幼い娘たちの中でも魔力総量が多いと思われる者が選ばれるそうだ。 

 

 そこから成人までの正式な巫女になるまで特殊な方法で育てられる。それは魔力量を増加させるためだけを目的とした生活だ。


 どうやら海人族では男よりも女のほうが魔力量は僅かに多いらしい。そして魔物というのは魔力を多分に内包した者を好んで襲う傾向がある。


「魔物の生贄となる運命を与えられた者を君はどう思う? フルールは今年で15になったばかりだ。海人族の寿命は人族とそれほど変わらないらしいな。君は後何十年も生きられるかもしれないが、あの子は後10日ほどで人生を終えるように決めつけられている。まわりの環境が、大人たちが、彼女にそうあるべきだと、運命だと、決めつけている。あまりに酷い話ではないか」 

  

 レイシの表情が苦痛に歪む。しかし、それは悲哀というよりも、怒り、もしくは決意のようなものに感じた。


「私はミスラ戦士団に同行して一度だけ海神を見たことがある。あれは神などではない。ただの化物だよ」


 レイシは高ぶる感情を抑えながら話した。俺は余計な口は挟まず、彼の話を静かに聞いた。


「誰が私の愛しい孫娘を化物なんぞに食わせてやるものかよ」


 巫女を生贄にすることで、レヴィア諸島は魔物の異常発生もなく平和な海域を約束されていた。レイシはそれを破ろうとしていた。


 巫女を島外に逃がす。フルールだけを助けたいならば、それも1つの手段だ。彼女は巫女の役割を理解しているし、納得もしている。巫女が犠牲になることで海人族全体の安全が約束されるならばと、強い使命感さえ感じている。


 しかし、フルールがいなくなっても海神祭は止まらないという。巫女には必ず代役が用意されているのだ。海神祭を前にして不慮の事故、万が一のことを考えていつしか始まった制度だという。


 フルールを守りたいというのが最優先だが、レイシは海神祭自体が潰れれば幸いだと考えているようだ。


「帝国が冒険者を大量に島に寄越しているだろう? あれは近々ミスラ島を帝国海軍の軍港にしようっていう思惑からだ。今までは必要以上に他人が入り込むのを拒んできたミスラだったが、年々圧力が強くなってきている。そしてここにきて、今までにないほどの船が島に入ってくるようになった。帝国が本気になった証拠だろう。それほどまでの価値がレヴィア諸島にあるということだ」


 確かそんなような話をロゼリアが話していたな。帝国がミューズを拠点にするとかどうとか。


 レヴィア諸島は海流が特殊で、なおかつ遠浅の海域が多い。帝国の艦隊が危険視しているのは魔物よりも暗礁らしくて、島間を移動するのに場所によっては船で移動するより海底を張り巡らされている遺跡を利用した方が早いという場合もあるそうだ。小型船で移動する場面もあるそうだが、そうなると魔物の警戒もあるし海上よりも陸上での対処のほうが楽だという。まぁ、遺跡には転移装置もあるしな。


 とはいえ、帝国冒険者には遺跡への侵入は許可していないそうなので、そのあたりも揉めている理由の1つなのかもしれない。


 レヴィア諸島はもうすぐ海人族だけの海域ではなくなる。隣人だった帝国が我が家同然とばかりに居座る日も遠くはない。いや、すでに半ばそうなっている。これからの未来に同胞である巫女を犠牲にしてまで、我が身の安全を守る必要は感じられない。レイシはそう考えているようだ。


 レヴィア諸島に住みたければ勝手に住むがいいという。そして魔物問題は住み着いた帝国にやらせればいいという考えなのだ。


「それで俺に何をさせようっていうんですか」


「君の実力を見込んで、護衛任務をお願いしたい」 


 フルールの襲った人物はミスラの同胞で間違いない。現在置かれているミスラの状況を不満に思っている者は少なからずいるという。それを過剰に焚きつけた存在がいるのだ。


 その存在は未だ特定はできていないが、実行犯の仲間と目される連中は既に拘束したという。


 フルールはただえさえ息苦しい生活を強いられているので、これ以上の束縛は嫌だと護衛を拒んできたが、この件を機会にそれも拒めない状況になっているのだ。彼女の身の安全はミスラ全体に関わること。これ以上、彼女の勝手な言い分は通らない可能性が高い。


「君ならルーも心を許しているようだし納得するだろう。もしギランが護衛に付けば動き辛くなる。それは避けたい。巫女は海神祭に赴く前に、自らの穢れを清めるために聖なる泉で身を清める。それに同行してもらいたいのだ」


 確かあの夜も、沐浴していたな。今にして思えば1人だったというのも、護衛を嫌ってということだったのか。常に監視された生活なんて誰だって嫌だろうけど。


 まぁ、レイシに言わせれば聖なる泉というのも、別に何の変哲もないただの泉で、身を清めるというのも心を落ち着かせる儀式という意味合いらしい。


 生贄になる運命を知れば、大抵は取り乱したり逃げ出したり自暴自棄になったりと、心を乱すことになりやすい。それを儀式というていで落ち着かせるのだ。いわば暗示のようなものなのだろう。


「泉に使われる場所にはいくつも候補がある。それを決めるのは島の運営に携わる老人たちだ。無論、私もその1人なのだが、私自身の権力を使って普段は使われない、青の回廊にある泉を指定する」


「ちょっと待ってください、護衛っていってもギランはいいんですか? また絡んで来たら――」


「大丈夫だ。私が正式に君に巫女の護衛役を依頼する。そのうえでギランが絡んで来たら、実力で排除してくれ。女王の父親でる私の発言力をそこまで無視することはできないはずだし、無視したとしてもカシマ君が実力で排除すればいい。そのときは正当防衛になるだろう? それに弱い者が護衛になっても仕方がないからな」


「あー、いや、さっきも言いましたけど、ここには仕事で来てますので護衛任務と言われても、今すぐ返答はできないですね。俺が勝手に受けると不味いでしょうし」


「そうか。ならば君個人にではなくベイル調査隊に護衛任務を頼むことにしよう。それならば問題はあるまい」


 ん? いや、それなら問題ないのかな。まぁ、シフォンさんが判断すればいいのか。


「もちろん護衛任務の報酬は出す。制限していた青の回廊を自由に行動、調査する権利。もちろんミスラ戦士団の監視ナシでだ。私が所有している遺跡の情報も付属させよう。君らが行動していた場所から更に下層の情報もある。きっと役に立つはずだ」


 おお、それならシフォンさんも納得するかな? 行動が制限されないというのは魅力的のようだし、レイシ様の所有する情報と言うのも気になる。


「遺跡で入手したミスラ鉱石も自由にしていいぞ。あれはより下層に行けば、純度の高いものが見つかるはずだ」


 ぎくりとした表情が見破られたのか、思わずレイシは笑いをこらえる。


「まぁ、持ち去ったからといって罪には問わんよ。派手に遺跡を破壊されるのは困るが、我らが持っていても価値のある物ではないしな。君は気付いているのだろう? ミスラ鉱石にはミスリルが含まれていることを」


 ミスリルには産地によって、複数の名称があるらしい。ミスラ鉱石はその1つなのだ。


 稀少金属であるミスリルだが、海人族は精製技術も加工技術も所有していないため、宝の持ち腐れなのだ。もちろん必要がないとはいわないが、今すぐ必要な物でもないというのも確かだ。


「護衛任務の報酬は遺跡の調査権、遺跡の情報、鉱石の採掘権でどうだ?」


 どうだと言われても俺では判断できない。持ち帰ってシフォンさんに判断してもらおう。ただ魅力的な話ではあると思うが。


「わかりました。検討させていただきます。でもそれだけではないんですよね?」


 海神祭を潰す。とは言っても具体的な方法はどうするのか。


「泉に向かって行けば氷壁の神殿の付近まで行ける。そこまで行ったら、フルールを何とか騙して神殿に侵入するのだ。神殿への扉は巫女にしか開けられないからな。内部に侵入したら隙を見て眠っている海神を殺してくれ」


「ああ、なるほど。海神の討伐ですか」

お読みいただき、ありがとうございます!

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