第220話 農場の主
黒き魔眼のストレンジャー 精霊の導きと覚醒するブラッドオーブ (2巻) 発売中です。何卒よろしくお願いしますm(_ _)m
「ここは何処なんでしょう……姫様、本当に彼を信用しても大丈夫なのですか?」
不安の色を見せる侍女の声。ミスラ戦士団の連中から逃れるため黒煙が作りだす闇の中を進んでいるのだが、光が一切になく見通せない状態にあるらしく不安になるのも無理はない。
しかも連れ出したのは、何処の誰ともわからない他人だ。魔眼の力で視界は確保されているので、俺が先頭にフルールの手を引き彼女がさらに侍女の手を引く手筈となった。
先ほどギランが近い所まで迫ってきたが、やはり他の者には視界が利かないのか声を押し殺すことで簡単にやり過ごすことができた。
「ジンなら大丈夫。それにお爺様のお客様ですよ」
「姫様、闇魔術の類は死霊などが好んで扱う魔術なんです。それを扱う者は闇に傾倒する日陰者が多いと聞きました」
「そうなの? ジンはそんな雰囲気なかったと思うけど……」
こそこそ話してるけど、2人の会話は全部聞こえてる。闇魔術は昔は偏見あったけど、今は使い手が増えて気にされなくなったってギルドでも言ってたし問題ないって話だ。とはいえ偏見ある人ってのは、どこにでも多少はいるものなのだろう。
「右手すぐに壁があります。壁に手を付けたまま壁伝いに進みます。少し進んで右に曲がり、更に進んで右に曲がり、小さな扉を潜ります。その先が目的地になります」
レイシから指示を彼女たちに伝える。レイシの伝達の魔術は当然フルールたちにも伝えることはできるのだが、対象を増やすことは魔力消費の増加に繋がるので今は俺1人に制限しているそうだ。
これは聴覚探知のようにチャンネルを繋げる感覚に近いようだな。複数の対象に繋げる。もしくは長距離、長時間に渡り情報を飛ばすことで消耗が大きくなるのだ。
勝手口のような扉を抜けると、中庭のような場所に辿り着く。
扉で黒煙は遮断されているので、ここから視界が明るくなった。やっと解放されたのかと2人も安堵している。
ここはフルールも訪れたことのない場所のようだ。彼女の侍女も知らない場所なのか、きょろきょろと落ち着きなく周囲の様子を窺っている。
見渡すと中庭には案内役として待機していた使用人がいた。彼の存在もレイシによって確認済みである。使用人の案内に従い、レイシの待つ部屋へと通された。
「お爺様!」
部屋へと入るなり感情を抑えきれなくなったフルールは、椅子に座る初老の男へと駆け寄り跪いた。
「おお、ルー。元気そうで何よりだ。お前の言った通りの働きだったようだな」
「はい。ジンに助けられたのはこれで3回目になりました」
「そうかそうか。それでは4回目をこれから頼むことにしよう」
フルールの侍女は扉近くで直立不動。俺も声が掛かるまでそれに同調する。
何かじいさんと孫娘の密談を聞いたような気がするが聞かなかったことにした。面倒ごとに巻き込まれそうな予感しかしない。
レイシは老人というほど老けてはいない。若々しさの残る初老の男だ。全盛期は過ぎたが、未だ衰えずといった感じだろうか。
レイシ・ミスラ 魔術師Lv37
海人族 57歳 男性
特性:流動 皮膚感知
スキル:風魔術B級 水魔術C級 光魔術F級 探知F級 魔力操作C級
「先ずは初めましてだな。私がフルールの祖父のレイシだ」
肌の色素が薄いのだろう。青みは薄く白肌に近い。そのため海人族だが雰囲気は人族に近いな。海人族特有の衣装に白髪のオールバック。耳には金輪が輝いている。ミスラの首飾りに、腕や指にもいくつかの装飾品。そのうちのいくつかは魔装具のようだ。
「ジン・カシマです。よろしくお願いします」
「孫が世話になった。改めて礼を言わせてもらうよ」
扉から麻袋を抱えた使用人が入ってきた。先ほどお願いした種子の件、早速用意してくれたのか。
「これだけでは礼にならないだろうが受け取ってくれ」
「ありがとうございます。有り難く頂戴します」
「ルー、奥の部屋で着替えを済ませたらどうだ? いくら気心が知れた中とはいえ、その恰好で客を迎えるのは失礼だろう」
そういってレイシは彼女に退席を促す。フルールの姿はちょっと透けてる薄手のドレス、というか布を巻き付けてあるようなもので、今更ではあるが少々刺激的だ。
気心の知れた仲なんてものではなく、単に知り合いというだけだがそれを否定するほど不粋ではない。
「あ、はい。わかりました。では少しの間、失礼致します。ジン、また後でね」
「ああ、また」
こちらへ向けて小さく手を振る彼女に、手を上げて答える。一緒についてきた侍女も彼女に追従し一礼をして退室した。
「彼女を排して本題ですか?」
「話が早くて助かる。では今回呼び出した要件について話そうか。とはいえ回りくどいやり方は私も好きではないので、単刀直入に話すことにしよう」
十分回りくどいんじゃないかなと一瞬思ったが口には出さなかった。ギランのことも俺の能力を確認するためにといったところか。まぁ、全力でぶっ殺すより、手加減をして相手するほうが難しいので、ギランが脳筋タイプで助かったけど。からめ手を使うようなタイプだと面倒だからな。
考え事をしていると思われたのか、レイシが口を開いた。
「心配せずとも大丈夫だ。ここには簡易的だがいくつかの結界が張ってある。優秀な魔術師には無力だろうが、興奮した奴がここまで辿り着くには半日以上かかるだろう。君には無力だったようだがな」
レイシはにやりと口角を歪ませる。やれやれ、いやらしい爺さんだな。
「なかなか美人だろう? 身内びいきと言われるかもしれんが、海人族の中でも五指に入る容姿だと思うぞ。性格は父親似、容姿は母親に似たのだろう。籠の中で育ったせいで常識には疎いが、それは追々学べば良いことだ。学ぶことも人生の楽しみの一つだからな。カシマ君の目から見てどうだ? 人族の価値観ではまた違った見方になるかもしれん」
何の話だ? 孫自慢?
「そうですね。私の目から見ても美人だと思いますよ。性格も良さそうだし」
凛とした佇まいのクール系美人とでもいったところか。見た目だけではない中に芯のある強さのようなものも感じる。
「そうかそうか。少々頑固で融通の利かない部分もあるが、それも彼女の魅力だと受け取ってくれれば幸いだ」
「えっと、何の話ですか?」
「率直に言おう。私の孫娘フルールを君の嫁にしないか? 彼女をこのまま君の国まで連れて帰ってほしい」
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