第219話 ミスラ最強の戦士
黒き魔眼のストレンジャー 精霊の導きと覚醒するブラッドオーブ (2巻) 発売中です。何卒よろしくお願いしますm(_ _)m
「レイシ様の農場に隠れているとは、ずいぶんと探しましたよ」
「無礼者ッ! 姫様の部屋に武器を携帯して押し入るとは何事ですか、恥を知りなさいッッ!!」
若い女の怒号が部屋に響く。
「我々は姫の護衛のため、こうして参上している次第です。これも護衛のための武装。無礼者と呼ばれるのは心外ですな。訂正してもらおう」
槍を手にした男が悠然と答えた。
「何が護衛ですか。このように無断で部屋に押し入る輩が聞いて呆れますね。そのような蛮行、あなたの方が賊だと言われても反論はできませんよ」
「はははっ、我々は女王の意思で動いています。それを蛮行と呼ぶなら、それは女王の意思に反する行為だとわかっているのでしょうね」
男の声に女は驚いた表情を見せる。
「女王様が? まさか、そんなこと――」
「本当にお母様が許したのですか?」
椅子に座ったままの少女が口を開いた。
「ええ、まぁ、そうですね。どのみち了承するしかありませんでしょうよ。今は人手がありませんからね。まさか女王も他民族である帝国の手を借りるなどと馬鹿なことは言い出しますまい。それこそ蛮行というものだ」
「……そうですか」
「心配されるな。私はミスラ戦士団でも最強の戦士だと自負しております。この島で私の傍ほど安全な場所はありませんよ」
「わかりました。着替えますので、一時部屋を出て貰えますか?」
少女は身を震わせながらも努めて冷静に答えた。
「ひ、姫様?」
女は驚きの声をあげる。
「着替えなど無用。砦に戻ってから好きなだけされるがよろしい。すぐに出立します。時間稼ぎなど無駄ですので」
「この筋肉馬鹿が――」
女がぼそりと呟く。
「……はぁ、わかりました」
少女は諦めたように答えた。
俺はメイドの着替え部屋を後にし、レイシに言われるがまま再移動を開始した。別の部屋の窓辺にと移動すると、その先にあった光景が言い争う男女の姿である。
海人族の男に屋敷の侍女、それに髪の長い白髪の少女。
槍を持った海人族の男は発達した筋肉に覆われた大男だ。海人族は細身で身長も俺と変わらない者が多いが、このように巨躯の者は初めて見た。青い肌に白髪と海人族の特徴を有しているが、その髪型はモヒカンというかなりファンキーな奴である。
『クオン君のいない隙を見て乗り込んできたか。いや、そこまで要領のよい輩ではないだろうからな。たぶん偶然だろう』
「取り込み中のようですね」
『そうだな。カシマ君、悪いが君の手で救い出してくれんかな?』
「え? どういうことですか?」
海人族の内輪揉めに付き合うつもりはない。面倒ごとに関わって調査隊にまで迷惑を掛けるのは忍びないしな。俺はあくまで仕事で来ているわけだし、余計な行動は慎むべきである。
『嫌がる女性が大男に連れ去られようとしているのだ。この蛮行を、まさか黙って見過ごすつもりかね?』
よく見ると白髪の少女、あれフルールか。そうだな、彼女の表情を見れば困っている様子なのは明白だし、少なからず縁はある。ここで見逃すのは目覚めが悪いか――
『頼みついでに申し訳ないが、相手の大男は殺さないようにしてくれないか。あれでも同胞でね』
「わかりました」
言われるまでもない。俺はそんな血の気の多い奴じゃないんだけど。まぁ、いいか。
「部屋が多少傷ついてもいいですよね?」
『……多少ならな』
侵入するため雷撃を放ち窓を破壊した。ベイルでは高価とされる硝子窓だ。たぶん帝国でも高額と思われる。輸入品だと思うが、後で弁償しろなんて言わないよな。
「何だっ、襲撃かっ!?」
破壊音が部屋に響き渡り、男は異常事態に油断なく槍を構えた。咄嗟に侍女は少女を守るように覆いかぶさる。
「ちょっと失礼しますよ」
窓の乗り越え部屋と侵入を果たす。三又の矛先が突き付けられた。その鋭い眼光は獲物を見定める獰猛な野獣のようである。
「ははは、まさかこうも堂々と現れるとは思ってもみなかったぞ」
争いを好んでいるのか、男から笑みがこぼれる。
ギラン・ミスラ 戦士Lv43
海人族 32歳 男性
特性:流動 皮膚感知
スキル:槍術B級 耐性C級 剛腕C級 体術D級
ミスラ戦士団、最強の戦士か。なるほど、なかなか強そうだ。脳筋ぽい。
侍女はフルールを抱きしめ大人しくしていてくれているようだ。その方が助かる。
「不意打ちをしかけなかったということは、腕に覚えがあるのだろう。面白い相手になってやる」
いやいや、全然そんなつもりないんで。盛り上がってるとこ悪いけどのんびり話し相手になるつもりもない。フードで顔を隠しているとはいえ、声でバレるのも嫌だしな。そこまでしなくても大丈夫そうだけど。
やる気満々のギランには申し訳ないが、不意打ち同然予備動作ナシの雷魔術 麻痺を放った。しかし、野生の本能か、特製の皮膚感知か、槍で防がれ弾かれた。おっと脳筋ってワケでもないのか。
「何だ貴様、魔術師か? つまらんな、魔術師なんぞ弱くて相手にもならん。まったく拍子抜けではないか」
雷魔術を避けるとはやるな。まぁ、それならそれでいい。こちらに襲いかかってくる様子も見せずに余裕を見せるギランを放置し闇魔術 黒煙を発動させる。これはクラーケンから入手した視界を奪う魔術。いわばイカ墨みたいなものか。陸上水中問わず使用できるうえに、探知を妨害する働きがあるので強力な目眩ましになる術だ。
「むっ!?」
黒煙が一瞬にして部屋を闇に染め上げる。部屋を一杯にするのに1秒も掛からない。部屋から溢れ出る黒煙は窓から外へとあふれ出している。等級と注ぎ込んだ魔力によって濃度と範囲を調節できるようだな。それほど魔力を消費していないが、効果範囲が広い。なかなかに有能なスキルだ。
ギランの視覚を奪いつつ、同時に俺を含めた侍女とフルールに隠蔽を付与する。
「小癪な。これが魔術師の戦い方か」
ギランの気を反らすため、扉を蹴り開けてから侍女とフルールを連れて窓から脱出した。
「何だ、逃げるつもりか。つまらん、俺から逃げられると思っているのか」
ギランが大声を上げて仲間を呼ぶ。この場にはいないが、近くで待機しているのだろう。そのせいもあって余裕だったのか。
「こ、これは? 何も見えない。何事ですか。襲撃者――」
「落ち着きなさい。姿は見えませんが、この声はジンですよね? どうしてここに?」
一瞬声がしただけで俺だと確信したのか。
「レイシ様に呼び出されてね。まぁ、成り行きでこんなことに」
黒煙を出し過ぎたようで、屋敷の半分くらいが闇に包まれてしまった。俺は魔眼のお陰なのか視界には問題ないが、連れ立ってる彼女たちは完全に盲目状態となっているらしい。
『見事な手際だ。フルールの言っていた通り、相当な実力者のようだな』
「もしかして試したんですか?」
『そんな怖い声を出さんでも良いだろう。とりあえず話は私の部屋についてからにするとしよう』
怖い声を出したつもりは無いけど。ともかくミスラ戦士団の連中に見つかると面倒だと、レイシの声に従い俺たちは彼の指定する部屋へと急いだ。
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