第144話 検証
床下の食料貯蔵庫から隠し階段を降りて、ベイル地下遺跡の1室へと辿り着いた。
アルドラと共に盗賊の地図、ベイル地下遺跡編の完成を目指して探索したのだが、まだまだ完成には程遠い。
それというのも、ベイル市街の下にベイル地下水道があり、更にその下に地下遺跡が広がっている。
そして、どうやら地下水道の水の一部が遺跡の方にも流れ込んでいるらしく、遺跡を広範囲に渡って水没させているのだ。
水道に出没する魔物、ウォーターリザードが地下遺跡でも活動していることから、彼らも流れ込んできているらしい。
おそらく複数箇所で繋がっているのだと予想している。
そういうこともあって、地下遺跡の地図完成は遅れていた。
まぁ、地図の空白埋めは趣味半分、好奇心のようなものだし、仕事ではないので急いではいない。
なので特別問題は無かったのだが――
「人魚の舞踏という魔法薬、これを使えば約2時間ほど自由に水中で活動が出来るようです。ジン様の探索のお力になれるよう頑張って作りますね!」
と言ってリザが張り切ってくれているので、彼女の魔法薬が完成次第探索を再開させようかと思っている。
「それにしても1本100シリル、200本で金貨2枚か……結構高くついたな」
付与術師がよく使う魔導具に転写板というものがある。
見た目は石版のようだが内部に魔晶石が組み込まれており、魔術師が石版に手を当て魔晶石に術を記憶させるという道具だ。
記憶された術は付与術の触媒の1つとされ、それを使って別のもの、今回は矢に付与を施したと言うわけだ。
できれば切り札となり得るような術は秘匿としておきたいところだが、彼女にはこれからも仕事を依頼するつもりなので致し方あるまい。
それほど生産スキルB級の所持者は数が少ないのだ。
「まぁ、いいや。次はリザを連れて行って値切らせよう」
ラドミナの店の後はギルドに寄ってあの毒草の報告をし、その後ベイルに何店舗かある魔石屋を巡った。
C級の魔石を探していた訳だが、買えたのは2つ。あわせて金貨5枚だった。
わかってはいたが、かなりの高額だ。
「あっという間に金が無くなっていく……まぁ、装備品は仕方ない。必要経費だ」
やはり貿易で一気に稼ぐしか無いか。
レヴィア諸島とは僅かだが貿易の航路があるらしく、いくらかやり取りがあるらしい。
通常は船代が掛かる所を、今回は転移装置で一気に移動するのだ。
しかも俺にはアルドラという無限収納箱がある。
レヴィア諸島で高く売れそうなものをベイルで買えるだけ買って、向こうで売りさばき差額で儲ける作戦だ。
「あー、そういうのって密輸とかになるのかな……後でリザに相談するか」
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地下遺跡の壁面に向かって、新たに修得した火魔術 火球を放つ。
火球の大きさは握り拳ほどで、まるで溶岩の如き赤々としたエネルギーの塊。それが炎をまとって発射されるのだ。
速度は100キロも出ていない。風球よりは速くはないようで、射程は20メートルほどといったところか。しかし、20メートル先の的に当てるというのは、かなり難度が高そうだ。10メートルくらいを実用距離と思ったほうが良いかもしれない。
壁に着弾すると爆裂し、その場を炎上させる。
魔術の火だからなのか、石の壁も燃えている。火はやがて消えたが、石壁が溶けたり変化した様子は見られない。そこまでのパワーは無いのだろうか。
F~B級と段階的に等級を上げると、単純に威力が向上するようだ。火球の大きさには、それほど変化はない。
実戦で使ってみないと威力の程度はわからないが、爆音や炎上を見てみると相応に威力は高いように思えた。
壁面に向かって火球を撃ち続ける。
やはりA級、S級となると迫力が違うな。巨大化した火球が轟音と爆炎を生み出し、着弾点の周囲を炎で飲み込む。
大きくなることで的には当てやすくなるだろうが、その代わり発射速度は落ちているような気がする……この辺りは微妙な所だな。実戦での検証が必用だろう。
「兄様~、そろそろお昼ですよ~」
地下遺跡で1人検証作業を続けていると、シアンから声が掛かった。
「新しい魔術の検証ですか?」
「ああ、そうだ。火球は中々使い勝手が良さそうな魔術だな」
火球の扱いを熟知すれば、雷球も出来そうだ。イメージ的には似たようなものだし、リザに助言を貰っても良いだろう。
「兄様は良いですね……魔術が色々使えて……そうやって簡単に覚えてしまうし」
まぁ、長い期間修練して身に付けるのが普通らしいからな……そういう人から見れば、俺の能力はチート以外の何物でもない。
魔石からスキルを得られるのは、どうも俺だけのようだし。シアンにもそういった修得が出来るのならば、覚えさせてやりたい所だが……
「シアンも魔術が使えるようになるさ」
「そうでしょうか……」
少し落ち込んだように、目を伏せる。
「それに今は魔術が使えなくとも、シアンにしか無い能力もあるだろう」
俺も同調というスキルは修得しているのだ。それを使えば俺だけのペットを手に入れることも可能な筈。
ただ魔物には相性があるらしく、俺と相性の良い相手は未だ見つかってはいない。
俺は猫より犬派なので、犬系の魔物などを下僕にできると良いのだが……ワイルドドックは死にかけた痩せた犬という見た目が微妙なので、直接見たことはないが黒狼などが良いかなと思う。
奴らは大森林の奥地に生息しているらしいので、未だ接触する予定は無いが。
「そう、ですね……」
「俺も同調スキルの使い方をもう少し熟知すれば、何か下僕を得られるだろうか」
シアンは俺の手を取り、指を絡める。互いの手のひらを重ねるように。
「ん?」
「兄様も同調を使ってみて下さい。私の同調に重ね合わせるように」
感覚を共有して、スキル使用のコツを教えてくれるそうだ。
「おお、そうか」
鋭敏のスキルを併用し、シアンの感覚に侵入し共有していく。
「あっ……」
「大丈夫か?」
彼女は喘ぎ声にも似た小さな吐息をこぼす。
それに合わせるように、ビクリと身を震わせ背を仰け反らせた。
「はい、大丈夫です……」




