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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第143話 魔杖と魔弾

「兄様、この後はどうされるのですか?」


 元の服装に着換え、俺の後を追従するシアンが歩みを遅らせながら聞いてきた。


 彼女との歩幅の違いに気付いた俺は、迂闊だったと歩みを止めてシアンの腕を取る。


 恋人の様に腕を組むと、シアンは嬉しそうに頬を赤らめた。


「後はリザ用にと作らせている魔杖の受け取り、シアン用の魔弾の受け取り、魔石屋に寄ってC級があれば買って、あとは……ああ、ギルドへ行って昨日発見した毒草の栽培所についての報告だな」


 今日はそんなところかなと、シアンの動きを見て歩みを再開させた。


 ギルドの報告は単に忘れていただけだ。色々あったからな……


「まずは品物を受け取りに行く。どちらの店も職人街にある。近いからそれほど時間は掛からないだろう」




 職人街の片隅にある年季の入った工房を尋ねた。


 見た限りでは屋根は傾きあちこち歪みが生じていて、精錬とは程遠い様相の建造物だ。


 だがこの工房の職人は腕だけは信用できるとヴィムの勧めもあり、シアンの石弓の制作を依頼した店でもあった。


 無理を言って特注で制作してもらったにも関わらず、その高い完成度は信頼のできる職人だと感じている。


「すいませーん!」


 取り敢えず、店の奥へと大声で呼びかける。


 見たところ人影はないようだし、ここに住む職員は老人なので耳が遠い可能性が高い。


「誰かいませんかー?」


 返事はない。


 しかし魔力探知の反応から奥に人がいるのはわかっている。


 寝ているのかもしれないが、せっかく来たのだし起こして品を貰っていこうとしよう。




「んがががががッ……んがががががッ……」


 特徴的な寝息を起てて、1人の老人がベンチで眠りこけていた。


 白髪のモヒカンのような髪型に、体の前面を多い隠すほどの豊かな髭を持つドワーフ。


 顔にある深い皺を見れば老人とわかるが、その全身に備える筋肉には衰えた様子が全くと言っていいほど無かった。


 この強固な肉体こそが、ドワーフの特徴の1つだと言える。


「おーい。ビッケル、起きてくれー」


 取り敢えず優しく呼びかけてみる。


 まぁ、起きないことは知っているのだが念のためだ。この爺さんは、ほとんどの時間をこうして昼寝に費やしているのだ。


「んがががががッ……んがががががッ……」


「起きる気配はないな……」


 今日はこの後も予定があるのだ。のんびりと時間を掛けている暇はない。


 雷撃 F級


「うおッっふぅうッ!?」


 指先から放たれた小さな光が、老人の尻に刺さる。


 その衝撃で眠気が吹き飛んだのか、彼は勢い良く飛び起きた。


「おはよう、ビッケル」


 

 

「スマンが坊主、もう少し優しく起こしてくれんかのう……」


 老人はがっくりと肩を落とし、疲れた様子で項垂れていた。


「いやあ、そう思ったんだけど、起き無さそうだったんでついな」


 ドワーフという種族は丈夫な連中で、特に魔術に対する抵抗力が非常に高いらしい。


 つまりF級程度の威力では、大したダメージにはならないのだ。

 

「それで今日は何のようじゃ?また新しい石弓が欲しくなったんか?」


「いや、そうじゃないよ。かなり前から魔杖を頼んでおいただろう。忘れたのか?」


「……ああ、忘れておったわ。ははは、すまん、すまん。勿論できているとも、待っておれ」



 赤霊木の戦杖 魔杖 D級   魔術効果:火球



 前にリザと一緒に採取したレッドトレントの枝。根のほうは薬に変わったが、枝や幹は杖の材料に最適だと聞いたので、いくらか回収していたのだ。


「坊主の指示通り、打撃にも耐えられるように補強しておいたぞ。まぁ、余程無茶な使い方をしないかぎりは、実戦でも耐えられるじゃろう」


 一般的に魔術師の持つ魔杖というのは、近接戦闘に対応していない。


 魔術師は魔術の行使、維持に神経を集中させているものなので、杖で殴りあうという事はまずしないのだ。


 万が一、敵に接近されたら腰の短剣などで応戦するといった具合である。まぁ、普通の魔術師ならその前に逃げるのだろうが。


「ありがとうございます。これ、約束の代金です」


「うむ、金貨10枚、確かに受け取った。殴打仕様の魔杖なんて仕事は初めてじゃったが、なかなか面白い経験じゃったぞ。また面白いもんを作ろうって言うなら、声を掛けるがいい」


「ええ、そのときは」




>>>>>




「次はシアン用の魔弾だな」

 

 ドワーフの工房を後にした俺達は、次の目的地へと歩みを進める。


「あの兄様、魔弾というのは何ですか?」


 魔弾というのは何らかの魔術付与を施された矢や、銃弾類を指すものだ。


 話によるとこの世界にも銃は存在し、極一部で使われているらしい。


 石弓と同じように銃術というスキルがないようなので、あまり一般的ではないようだが。


 銃本体も弾丸も非常に高価だというのも、一般的ではない理由なのかもしれない。


「シアンは魔術が使えないが、石弓という強力な武器がある。もし矢に魔術を付与することが出来るなら、強力な攻撃手段になるはずだ」


 魔力を宿した装備品は、大量に身に着けると肉体から魔力を奪ってしまうので、不必要に身につけるのは良くない。と言われているらしい。


 だがハーフエルフの彼女なら、その辺りは問題にならない筈だ。




 目的の店に辿り着くと、俺は中に居た店主に声を掛けた。


「久しぶりだな、ラドミナ。約束の品は出来てるか?」


 灰色の髪に褐色の肌。


 深い緑色の瞳を備えた長身の美女。


 彼女はベイルではあまり見かけないダークエルフと言われる種族である。


「勿論だ。見てくれ」



 ショックボルト 魔弾 D級   魔術効果:麻痺


  

 俺が編み出した雷魔術、麻痺を付与した魔弾である。


 ラドミナ曰く付与術師を長年やってきたが、このような術は聞いたことがないそうだ。なので今のところ俺のオリジナル魔術ということになっている。


 この術は何かと便利なので、シアンの石弓で扱えるサイズの太矢に付与して貰ったという訳だ。 


「取り敢えず200本用意した。足りなければ言ってくれ」


「わかった。助かる」

 

 それだけあれば当座は十分だろう。


 この矢は主武装と言うよりも、獲物の動きを止めるための補助として使う予定だ。


 取り敢えず使い心地を試してみて、追々他の術も付与してもらうことにしようと思っている。


「ラドミナが付与術を教えてくれるなら、俺が自前で作ってやれるのにな……金は払うから術のやり方を教えてくれないか?」


 そう言われた彼女は、明白に表情を曇らせる。


「そう言われて、はいそうですか。と教えると思うのか?勘弁してくれ、私の食い扶持が無くなってしまう。それに人族に我々の術が扱えるとは思えん」


 ダークエルフでなければ使えないのか?と問いてみるが、答えを濁したのでそう言う訳でもないらしい。


「そうか、残念だな。まぁ、ラドミナから仕事を奪うつもりはないから心配しないでくれ。ただ興味が在っただけだ」


 そう言うと彼女はホッとしたように、安堵の表情を浮かべるのだった。


「ど、どうしても我らの術の秘密が知りたければ、ダークエルフの奴隷でも探すことだな。まぁ、そこらに居るとは思えんが」


 50年ほど前に起こったルタリア王国と獣人国との戦争。


 その混乱の中、当時獣人国に住んでいた多くのダークエルフが保護という形でルタリアに連れてこられ、戦争の有耶無耶のなかで奴隷とされたものが居たらしい。


「聖女様がかなりの数の同胞を助けたと聞いたが、未だ多くのダークエルフが奴隷に身をやつしていると聞く……」


「聖女様?同胞?」


「なんだ、知らんのか?女神教の聖女様はダークエルフなんだよ」


 

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