第139話 混浴でお願いします
「それで、どうしてモクランさんがここに居るんですか?」
リザが憤慨したように抗議の声を上げる。
彼女は既に一糸まとわぬ姿となっていた。
これから風呂に入るのだから当然か。
動くたびに2つの果実がユッサユッサと揺れている。
なるほど、これが眼福というやつか。
「ここ白猫館は私共の店。お客様をおもてなしするのが私の仕事ですから」
当然のことだと、モクランが答えた。
彼女もまた生まれたままの姿であった。
身長180センチはあろうかという大柄な体躯。
豊か過ぎる胸に括れた腰、大きな臀部と迫力の肉体を曝け出している。
ウェーブの掛かった明るい髪、そこから突き出る湾曲した角。
日焼けしたような小麦色の肌が、健康的でもあり艶めかしくもあった。
「ジン様のお世話は、私達がやりますから。モクランさんは必要ないかと。そうですね、シアン?」
「え?あ、はい」
突然話を振られたシアンが慌てて答える。
2人とは対照的にタオルのような布で、体の前面を隠しているので全体は見えない。
だが逆にそれが良かった。
もじもじと気恥ずかしそうに、立ちすくむシアンが愛らしい。
ちなみに白猫館では妓女が客の風呂に同室して、接待をするというのは通常行っていない
頼めば従業員の婆さんが背中を流してくれるくらいはあるだろうが。
「まぁ、もう衣服は脱いでしまったのだし、せっかくだから脱衣所で話してないで皆で一緒に入ればいいじゃないか。ここの風呂は大きいのだし、問題無いだろう。それに俺の故郷には混浴という文化があってだな……」
俺もまた全裸で仁王立ちである。
ここは脱衣所であるから、至極当然のことであった。
彼女たちの視線がある場所に注がれるが、今は気にしないでおく。
それよりも俺の愛する風呂という文化の素晴らしさを、語って聞かせることにした。
おそらく熱意が伝わったのだろう――
「わかりました。ジン様が良いとおっしゃるのなら……」
リザも納得してくれたようだった。
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「どうですか、ジン様痒いとこございませんか?」
「ああ、大丈夫。気持ちいいよ」
洗い場の木椅子に腰掛け、リザに髪を洗ってもらう。
以前から彼女は俺への奉仕を喜びにしていた節がある。
それが腕を失ったあの怪我以降、より顕著になったようだ。
風呂に入る機会があれば、こうして一緒に入り何を言わずとも当然との如く髪や体を洗ってくれるのだ。
俺の眼前から髪を洗ってもらっているので、目の前には揺れる2つの果実が。
まったく素晴らしい光景であった。
「ちゃんと目を瞑ってないと、石鹸が目に入りますよ」
シアンはというと、背後に回り背中を洗ってくれている。
拙い動きで力も弱いが、一生懸命さが伝わってくる。
「兄様、痛くありませんか?」
「ありがとう、もっと強くても良いくらいだな」
「はい、がんばります!」
「可愛らしい奥様が2人も。嫉妬してしまいますね」
跪いて足を洗ってくれているのは、モクランだった。
明るい茶色の髪を、髪留めでまとめている。
目の前に曝け出された豊満な肉体。これでは目を奪われるのも仕方がないだろう。
「そうですね、俺には過ぎた嫁たちです」
モクランの手の動きは絶妙な力加減があり、まるでマッサージのように心地よい。
これは玄人の技なのか、あまりの心地よさにそこまでされるのは悪いと感じつつも、受け入れてしまっている。
「そういえば、さっき中庭で人影を見たのですが」
先ほど見かけた不思議な光景に付いて、モクランに尋ねた。
「なるほど……それはおそらくオーナーでしょう。白猫館の主なのですが普段は自室に篭っていますので、外で見かけるのは珍しいのですが……」
モクランに聞いても光る蝶については知らないようであった。
おそらく精霊を見ることが出来ないから、気づいていないのだろう。
主の自室には側仕えの女性数名とモクランだけが立ち入りを許されているだけで、他の従業員とは顔を会わせる機会も無いのだとか。
「もし精霊のことを知っているのなら、話を聞いてみたかったのだが……難しそうかな」
俺は精霊について知らないことが多すぎる。いや、むしろ何も知らないと言っていいだろう。
初めて見る俺以外の精霊使いだ。接触すれば、何か得られる情報があるかもしれない。
「主と面会したいのですか?」
「そうですね。可能であれば、お話したいです」
モクランがぐっと身を寄せる。
企むような笑みが、直ぐ側にあった。
腕が彼女の谷間に食い込んでいく。
「私からお会いできるか、話してみましょうか」