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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第137話 ドワーフの鍛冶屋2

 アルドラは収納から魔剣を取り出した。


 自由に異空間へと出し入れ出来るために、鞘は使っていない。


「もっと重くてもいいくらいじゃが……まぁ、悪くはない。使い慣れた道具のようにしっくりくるわ。流石はヴィムじゃな」

 

 アルドラから魔剣を受け取り、しげしげと眺める。


「もっと重くても良いって、手首を痛めるぞ。まったく相変わらずの馬鹿力だな……ずいぶん乱暴に使っているようだが……この魔剣の力か。まさに魔物を食らう魔剣といった所か。乱暴なお前には丁度いい剣に仕上がったようだ」


 アルドラもヴィムも表情には出さないが、互いに剣の出来栄えに満足している様子であった。


 次にヴィムは俺から鎧通しを受け取り、その刀身を丁寧に調べる。


「ひどく焼き付いていたが、なんとか魔剣として生き返ったようだな」


 ヴィムは、フンと鼻息を一つ鳴らした。


「ええ。問題なく使えてますよ」


「だが、何時まで持つかはわからんぞ。寿命はそう長くはないと思って良いだろう。本体がかなり消耗しているからな」


 人よりも遥かに長い寿命を持つ、ドワーフの鍛冶師からの忠告である。


 様々な剣を打ち、様々な剣を見てきた彼には、俺の魔眼でさえ得られない情報でさえも感じ取ることができる。彼が鍛冶師としての生活から得た、経験という力だ。


 本体の消耗はどう足掻いても修復は出来ない。刃こぼれを研ぎ直すようにはいかないのだ。


「わかりました」


「それとコイツもそうだな」

 

 ムーンソードを手に取る。ヴィムは刃を上向きにして、光に透かすようにして調べた。


「見ろ。かなり刃こぼれしているだろう?ミスリル合金製の刃は特別頑丈なもんだが、ここまで消耗してるというのは手入れを怠っているせいでもある」


「うっ……申し訳ない」


「だが、これほど消耗しているということは、それだけ使っていると言うことだ。剣は飾っておくもんじゃねぇ、使ってこその代物だ。そういう意味では正しい使い方だと思うがな。若い奴の中には、腰に差してあるだけの飾りってのも多いからよ」


 ムーンソードはヴィムに渡し、研いでもらうことにした。


 あまり自分の手でやらなかったのは、素人がやっておかしくなるのを心配してのこともある。


 街の研師に依頼すれば良かったのだが、疎かにしていたのは俺の責任だ。


 言い訳をするなら、それほど手入れに気を使わなくとも凄まじい切れ味だったというべきか。


 まぁ、早い話が後回しにしていただけの事なのだが。



 ヴィム自身も研ぎは本職ではないようだが、刀剣に関わることは一通り出来るようなので問題ないようだ。



「ああ、それと森の遺跡で見つけたんですけど」


 アイアンインゴット 素材 C級


「鉄か。なかなかの質のようだな」


 等級が上がると質が向上するらしい。鉄の質が上がるというのは、どういうことだろう?


 不純物が少ないとかだろうか……


戦棍(メイス)を作って欲しいんですけど、出来ますか?」


「俺は剣専門なんだが……ふむ、作ったことはないが、まぁいいだろう」


 鎧を着たゴブリンなどもいるのだ。これから先、重武装した魔物がいつ現れてもおかしくはない。


 武装した魔物を鎧の上から殴り殺せる武器があれば、剣を無駄に消耗させなくて済む。


 素材を提供し、手間代として金貨1枚で引き受けてくれた。



「それと、こういうのも見つけまして」


「ほう、設計図か。どれ見せてみろ」

 

 聖銀のクレイモア


 材料:一角獣(ユニコーン)の血、一角獣の皮 一角獣の角 エリオール鋼 ミスリルインゴット シルバーインゴット アイアンインゴット


「どうですかね。作れますか?」


「材料があればな」


 ミスリルインゴットは精製した霊銀鉱(ミスリル)の塊である。


 ミスリル自体が非常に希少であるため、まず市場に出回ることはないらしい。


「一角獣というのは?」


 北方にあるという針葉樹の森にに生息する希少な魔獣。


 気性が荒く極めて危険な魔獣と言われている。


「数が少ないために市場に出るのは稀だ。オークションでも高値で取引されるからな」


 各部位が素材として利用できるらしい。特に血や角は薬の材料として有名なのだという。


「銀や鉄なら俺でも用意できる。一角獣も金と運があれば手に入るだろう。ミスリルはコネがないと難しいが……だが、もう1つ難しいのがエリオール鋼だ」


 エリオール・ライオネットという高名な魔術師が生み出した魔法金属。


 他の金属との繋の役目を果たし、魔術との相性も良く、魔剣を作る際に使われる最高クラスの素材の1つ。


 作り出せるのは魔術師エリオール本人のみであり、その製法は他者に伝わってはいない。


 エリオール自身が亡くなっているのか存命なのかもわかっておらず、現存するエリオール鋼は数が限られるために値段が付けられないといった状況となっている。


「ただ不思議な事に予期せぬ所から見つかることもある。とある商家の蔵、農家の納屋、安宿の馬小屋、実はエリオール自身が生きていて、気まぐれに鋼をバラ撒いていると言う話もある」


「……何のために?」


「知らん」



 ともあれ希少な素材に間違いないようだ。俺が所持しているのはC級ということもあって、それなりに価値が有るのだろうと予測していたが、もしかしたら等級以上の価値があるのかもしれない。


「そうだ、頼んでおいたもの出来てます?」


 今回ここへ訪れた理由は魔剣の調子を診てもらうのと、もう1つあったのだった。


「ああ、できてるぞ。今持ってこよう」



 鉄蟻の盾 盾 D級


 鉄蟻の胸当て 防具 D級



 ベイル地下水道で繁殖していた、蟻系モンスターの甲殻を加工して作成した防具である。


 俺とアルドラの防具は新調したばかりであったため、試しにとシアンの胸当てと俺の盾を作成してもらった。


 関係者以外立ち入り禁止だった地下水道は、現在C級以上のパーティー限定でダンジョンとして開放している。


 それも調べてみれば魔物の生息数が予想よりも遥かに多かった為であった。


 異常発生後から魔物の活動も活発になっているという報告もあり、ギルドでは地下に冒険者を送り込むことを承諾したのだ。 


「ほんとに無料でいいんですか?」


「ああ、試作品だしな。それに甲殻を利用することを思いついたのは、お前だろう」


 まぁ、思いついたというより甲殻が軽く丈夫であるため、防具などに利用できないかとふと思ったに過ぎない。


 通常の方法では固い甲殻は加工が難しく、大した利用価値はない。


 しかしアシッドスライムの体液を薄めた溶液に浸すことで、甲殻を柔らかくし加工しやすくする技術を開発したのだ。

 

 これは水魔術:溶解を考察しているときに思いついたものである。


「アシッドスライムはゴミ処理場にいくらでもいるからな。体液は無償で分けてもらえる。甲殻は冒険者が蟻の駆除のついでに回収してくるしな。悪くない商売だ」


 ヴィム自身はギルド職員として忙しい身であるため、工房に出入りする時間は殆ど無いらしい。


 だが弟子たちを遊ばせておくわけにもいかず、仕事を考えなければならない。そのため俺が提案した防具の加工術は、職人に仕事を与える意味で価値があった。


「鉄より軽いが革より丈夫だ。これなら体力のない者でも利用できるかもな」


 鉄製の装備は命を守る上で優秀な防具だが、重量や金属の擦れる音などから、機動性、隠密性を重要視する斥候には不人気だった。


 しかし魔物の甲殻を利用した装備であれば、そういった問題も回避できる可能性がある。試す価値はあるだろう。




「ほう、なるほどな。一週間後か、わかったそれまでに仕上げよう。必要な物は揃えたのか?」


「必要な物ですか?」


「ああ、アルドラには収納があるのだろう?だったらそれを活かして借金を返せば良いではないか」


「なるほど、そうじゃのう」


「俺が若い頃に使っていた天幕(テント)をやろう。古いものだし無料でいい、持って行け。特別な魔獣の革で作ってあるから丈夫だぞ」  


 ベイルの市場でも天幕は売っているが、大抵は1人用だ。


 騎士団や商隊が使うような大型のものになると受注生産が普通なのだ。


 ヴィムの用意してくれた物は4~5人用の大きな天幕であった。


「ちょっと重いけど丈夫そうだし、良い品ですね。俺が持ってるのは2人用だし、丁度よかった。ありがたく使わせて貰います」

 

「ほう、2人用ってのも珍しいな」


 そういや使わないから仕舞ったままになっていたが、ビニール素材とか珍しいだろうし、もしかしたら礼になるだろうか。


 俺は分かる範囲で地球から持ち込んだテントの説明をした。


「面白そうだな。ぜひ見てみたい。譲ってくれるのか?」


「いいですよ。明日にも持ってきます」


「おお、頼む」


 ヴィムには随分と世話になっている。彼の好奇心を満たせるなら、喜んで差し出そう。



 なにせアルドラの魔剣も無償で作成して貰ったようなものだ。


 素材は持ち込んだものの、魔剣の材料はそれだけでは及ばす、足りない材料はヴィムが用意したというのに。


 それでもアルドラの魔剣は商売で拵えた物ではなく、自分の趣味で作ったものだから、珍しい素材だったから作ってみたくなっただけだと金を受け取らなかった。


 俺の理解の及ばない二人の友情がそこにあるのだと察して、俺は深く追求することはしなかった。     

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