第128話 ゴブリン盗賊団6
「やれやれ、ようやく片付いたようじゃの」
地下洞窟の広場は血と汚物の混じった匂いが充満し、元魔物だった物体がバラバラに地面へ転がる酷い有様となっていた。
「はぁ、まったく多すぎだろ。まさかここまで大規模な群れだとは。群れっていうのはある程度の規模になると分裂するんじゃなかったのか?」
火魔術の灯火を複数作り出すことで、広場に明かりを生み出す。灯火は術者を自動追尾するようにも出来るし、ある空間に留めておくようにも設定できる便利な魔術だ。
その御蔭で惨状が顕となってしまっているのだが。
「まぁ、何事にも例外はあるものじゃ」
俺達が話している間も、リザとシアンは黙々とゴブリンの耳を集めている。
左耳を集めるのは最初にゴブリンを金銭目当てに狩った冒険者を踏襲としているらしい。
何でも左耳だけは戦利品として持ち帰っても良いが、別の部位を持ち帰るとゴブリンに呪われるとか言われているんだとか。
迷信の類らしいが信じているものは多く、ギルドでも討伐証明としては左耳しか受け取らないんだそうだ。
ちなみにゴブリンの左耳は討伐証明として回収されたのち、獣使いギルドに回され魔獣たちの餌になるようだ。そういった訳で無駄になることはないのだという。
「まぁいいや。アルドラも手を動かせよ、娘たちばかりに働かせていないで」
「お主もな」
死体の山をあさり耳を切り取る作業は、なんとも言えない感慨があったが今は何も考えるまい。
それに群れのボスであるリーダーの姿はまだ見つかっていないのだ。
正直もう街に帰って風呂にでも浸かりたい所だが、ボスを退治するまでは帰れそうにないだろう。
下手に手を出してボスを放置すれば、余計にややこしい自体を招きかねない。それを考えれば逃がさないよう出来るだけ急いだほうが良さそうだ。
戦利品
ゴブリンの左耳 素材 E級 ×128
ゴブリンの左耳 素材 D級 ×32
魔石 素材 E級 ×14
魔石 素材 D級 ×3
魔石【窃盗】
魔石【槍術】
魔石【鎚術】
魔石【投擲】
クレイモア 両手剣 F級
チェインメイル 防具 F級
バックラー 小盾 F級
ハンドアクス 片手斧 F級
バトルアクス 両手斧 F級
ダガー 短剣 F級
ショートボウ 短弓 F級
木の矢 矢弾 F級 ×8
新たなスキルを手に入れた。
窃盗は相手に気づかれないように掠め取る盗賊スキル。槍術は槍を鎚術は鈍器、投擲は投擲武器を扱うスキルのようだ。
戦闘で破壊されたゴブリンの装備類は捨てていくことにした。素人の俺が見ても価値がないと思えたものだからだ。
まだ利用価値がありそうなものだけを選んで回収する。収納場所はアルドラの時空魔術だ。
無限に収納できる時空魔術S級は非常に便利だが、細々とした物を大量に保管しておくと再び取り出すのに非常に手間らしくアルドラは不満気であった。
まぁ、俺の鞄もリザの鞄も空きがないので妥協してもらうしかない。
リザやシアン、ミラさんを冒険者ギルドに加入させて冒険者の鞄を買うという案も考えたが(冒険者の鞄は通常D級以上の冒険者にしか販売していない)
冒険者になると異常発生や、緊急の指令があった場合、状況によっては拒否できない場合もある。
自己防衛の観点から考えても、彼女たちをギルドに入れるのは賛成できかねなかった。
過保護かも知れないが加入すれば彼女たちの情報をギルドに渡すことにもなるし、特別必要でなければ個人情報は守りたいと考えている。
まぁ、急ぐ話ではないしギルドに加入の件は現状保留ということでいいだろう。
汚れた装備に水魔術、洗浄を施し先へと移動を開始した。
大きな怪我こそ無かったものの、それぞれに小さな傷は受けていたようなので、ミラさんは万全の状態を保つためみんなに治癒を施してまわった。
魔力には十分に余力があるようなので問題ないようだ。
無理をさせるつもりはないので、自身の判断で体力が厳しくなったら申告してもらおう。
「ジン様、魔力の方は大丈夫でしょうか?かなり魔術を使っていたように見えましたが……」
リザが体を寄せて心配してくれる。必要があれば自身の魔力を提供する考えなのだ。
「まだ余裕があるから大丈夫だ。魔晶石に保管されていたものを使ったしな」
新たに手に入れたF級では大した回復はできないが、俺はB級を2つ所持している。これを使えば3割強は回復出来そうだ。
「……そうですか」
リザが気のせいか残念そうな表情を見せる。
「兄様、もし魔力が必要なら私のをお使いください。姉様は魔術のために温存しておいたほうが良いかと思います。私なら必要以上の魔力は必要ありませんから」
「ちょっ……シアン?」
「……そうだな。必要になったら頼む」
「えぇ……ジン様ぁ」
目に見えて落ち込むリザ。
「ん?ダメだったか?」
「いえ……ダメじゃないんですけど……」
リザは何故かあまり納得していない様子であったが、シアンの言い分も最もなので断る理由も思いつかなかったのだ。
奥へと進む道中、多数の鼠を発見する。
スモールラット 魔獣Lv4
手のひら程の大きさの鼠の魔物だ。ラットの上位種だろうか?むしろ弱くなっていそうなので、亜種といえばいいのかも知れない。まぁ、どっちでもいいか。
魔力探知で探るとかなりの数がいるようなので、希少種ではないのだろう。
特に襲ってくる様子もないので放置することにした。何かしらのスキルは持っているだろうが、珍しい魔物でもないようだしスキルの回収は後回しでいいだろう。
入り口で見かけたような魔術的な仕掛けも幾つか発見した。
やはり人為的なものを感じる。ただの魔物の巣ではないことは確かだ。
「ここにもあるな」
魔石を組み込んだ魔術罠。燃える水と言う気化しやすい可燃性の液体を噴出し、発火させ対象を炎上させる罠らしい。
地形探知で罠の仕組みを探り、解体する。
構造は単純なものなので、解体はさほど難しくはない。
念のためにと設定した解体スキルが機能しているのかもしれない。
「ジン、瘴気が濃くなってきたようじゃ。薬を飲んでおいたほうが良いやもしれん」
光苔の量が増え光量は悪くないが、それに比例して魔素の濃度は上がっているようだ。
高濃度の魔素が瘴気と言えるほどに地下に溜まり渦巻いている。
「そうだな。まだ先は長そうだし、中和ポーションを飲んでおこう」
魔法薬は効果が強力であるため、複数使用が制限されている。仮に使ったとしても正常な効力を発揮しない可能性が高いらしい。
薬師ギルドでは2時間の待機時間を推奨しているという。
「念のためリザとシアンも飲んでおいたほうが良いじゃろう。傷の治療はミラに任せるが良い」
エルフであるミラさんはハーフの彼女たちよりも耐性があるため問題ないようだ。
洞窟を更に奥へと進む。
かなり深くまで来ている気がするが、空気は問題なく存在しているようで酸素が薄いといった感覚はない。
やがて俺たちは広い空間に辿り着いた。今まで通ってきた場所よりも、遥かに天井が高く空間の広い場所だ。
その場所は大きな屋敷がすっぽり収まりそうなほどには広い。しかし岩が無造作に迷宮の如く存在しているため、開けているとは言いがたかった。
光苔が大量に繁殖しているが光量はそれだけではない。空間を照らす光源となる魔導具か何かがあるようだ。
その光源で成長したのか大量の植物が繁茂している。
土壁からは地上の植物の根なのか、太く長い大樹の根のようなものが無数に飛び出していた。
「アルドラ、何かあるぞ」
朽ち果てているが、明らかに木製の扉がある。
ドアノブも既に無く、腐った木製のプレートに何か文字が書かれていた。
【医務室】
ここしばらくこの国の文字を学習していたのが、役に立ったようだ。
俺でも読める単語である。これはルタリア王国で一般的に使われている大陸文字というやつだ。
主に人族の間で広く使われている文字である。
アルドラが勢い良くドアを蹴破る。
「リザ、シアン、ミラさんはここで待機していてくれ」
鬼が出るか蛇が出るか。とりあえず中を調べてみよう。
ジン・カシマ 冒険者Lv25精霊使いLv18
人族 17歳 男性
スキルポイント 0/56
特性:魔眼
雷魔術 C級【雷撃 雷扇 雷付与 麻痺 雷蛇】
火魔術 【灯火 筋力強化】
水魔術 【潜水 溶解 洗浄】
土魔術 【耐久強化 掘削】
闇魔術 【魔力吸収 隠蔽 恐怖】
魔力操作 【粘糸 伸縮】
探知 C級 【嗅覚 魔力 地形】
耐性 C級 【打 毒 闇】
体術
盾術
剣術 C級
槍術
鎚術
鞭術
闘気
隠密 C級
奇襲 D級
投擲
窃盗
警戒
疾走
解体
繁栄
同調
成長促進
雷精霊の加護