第114話 姉妹の奉仕3
「シアン上手く出来ましたか?」
「はい。姉様」
戻ってきたリザがシアンに声を掛ける。
「ジン様。シアンが粗相いたしませんでしたか?」
「ああ。シアンはよくやってくれたよ」
シアンは大きなバスタオルのような布で、濡れた体を拭くのを手伝ってくれている。
それにリザも加わり、着替えも手伝ってもらう。
リザはよく気が利くし、頭もよく、何でもそつなくこなすので貴族の屋敷とかでもメイドなどでも働けそうだ。
まぁ優秀な薬師で、戦闘もこなすのだから、完璧超人過ぎとも言えるが。
それを思うとシアンが少し可哀想な気もするが、リザはリザで幼いころから無理を押して頑張ってきたのだというし、今の彼女はその結果なのだろう。
食事の用意ができたと声がかかったので、ミラさんの手料理を皆で頂く。
いつもとは席順が違う。リザが隣に座るのは同じだが、逆隣にはシアンが座った。両手に花である。対面にはミラさんだ。
「あらあら、ジンさんモテますね」
ミラさんは微笑ましいといった様子で、くすくすと笑顔が溢れた。
「こんな美女に囲まれての食事だなんて、俺には贅沢すぎますよね」
「それには私も入ってるんですか?」
「勿論ですよ」
「ふふふ。ありがとうございます」
ミラさんはいつもどおり露出の少ない体のラインの目立たない服装だが、その豊かな双丘は隠しようがない。
両腕に挟まれたそれが、その迫力をもう一段押し上げているようだ。
テーブルの上で存在感をみせるそれ目を奪われるのは、男としては仕方ないことなのだと弁明したい。
「はい。ジン様こちらもどうぞ」
薄切りにされた生ハムを口に運ばれる。
森から得られる魔獣の肉を加工した食材だ。王国の気候風土に適した保存食らしく、ベイルでも様々な種類が作られている。
所謂塩漬け肉なのだが、王国では甘みのある果実を巻いて一緒に食べるのが流行りらしい。
王国の特産は葡萄と小麦。また森からは魔獣の肉が大量に得られるため、王国人の血はワインから、体はパンと塩漬け肉から作られるとされている。
その言葉通りに王国のワインと生ハムは相性が良い。
「兄様、こちらはどうですか?」
シアンのスプーンが口元に運ばれる。
乾燥させた果実と、塩漬け肉、すり潰した豆、根菜類を蜂蜜と香草で味付けした謎の調理だ。
見た目は悪いが味はいい。それほど甘みも強くなく食べやすい。どうもエルフ族の家庭料理らしい。
シアンの好物らしく「なかなか旨いな」と評すると「良かった。私も好きなんです」と嬉しそうに語った。
美しい姉妹に囲まれ、まるで王様にでもなったかのように尽くされる。
そのせいもあってか些か食べ過ぎてしまったようだ。ひさしぶりのまともな食事。ミラさんの手料理である。それも仕方ないだろう。
酒も進み少し飲み過ぎた。
毒耐性のスキルはアルコールにも効果があるようだが、飲んだあとに設定を変更しても無意味らしい。
かと言って耐性をつけて酒を呑むのも、無粋というものだろう。気持よく酔えなければ飲む意味もない。
「寝床の用意はしてあります。そろそろ休まれては」
そういうリザの言葉に甘える事にした。ミラさんは後片付けを終えてから休むそうだ。リザとシアンは俺と共に来るらしい。
「宜しいでしょうか?三人だと少し狭いかもしれません。ジン様がゆっくり休めないかも……」
そう言って押し黙るリザとシアンの肩を抱いて「一緒に寝ようか」と耳元で囁く。
何言ってんだ、俺調子乗ってんなぁ。と心のなかで自分にツッコミをいれるが、酔っているので気にしない。なにせ――
「「……はい」」
美しい姉妹がその言葉に頬を染めて、小さく頷くのだ。あまりに可愛らしい反応を見せる2人に、俺は肩を抱いたまま自室へと急いだ。
とは言え、2人同時に頂いてしまおう。といったような下衆な感情を持っているわけではない。いや、無いわけではないが……あまり無茶をやらかして、嫌われないようにしたいという考えはある。
3人で川の字になって眠る。
いろいろ期待しないわけではないが、俺も疲れた。2人も疲れただろう。
ともあれリザはともかく、シアンに手を出していいものかという自問自答ある。
まぁリザは知識もあるようだし、ある意味理解している。理解したうえでの行動をしている。おそらくそうだろう。
だがシアンは理解していない。たぶん。
ある意味で純粋だ。無垢なのである。それを汚していいものかという自責の念もある。まぁ既に少しやらかした感はあるが……
リザに手を出しておいて何を言ってるんだという気もする。なので気にしなくてもいいのか。まぁ考え過ぎか。
シアンはリザに遠慮というか、一歩引いた、劣等感のようなものを持っているようだし、特別扱いというか別に扱うと傷つくおそれがある。
たぶんどう取り繕っても、落ち込むのは間違いないだろう。
2人を妻にすると決めたのは俺だ。
平等に愛せばいいのだ。2人とも大事に、幸せだと言ってもらえるようにすればいいのだ。
考えるまでもなく、当たり前のことだった。悩むまでもなかった。
隣へ視線を送ると、既に寝息を立てているシアンの横顔があった。
とても可愛らしい寝顔だ。天使だ。スマホが壊れて無かったら待受にするところだ。この姿を永遠に止めておくようなスキルがあれば良いのにと切に願うところである。
スースーと微かな寝息を立てている。起きる様子はない。そっとしておこう、彼女も張り切って尽くしてくれたので疲れたのだろう。いろいろ心配も掛けたかもしれない。
反対側へと首を傾ける。
リザも既に寝息を立てていた。胸元がゆるく開いたワンピースみたいな寝間着だ。ブラジャーは付けていないようだ。豊かな胸が押しつぶされて変形している。
谷間だ。秘境である。まだ俺も数えるほどしか踏破していない、神秘の谷である。
冒険者であれば挑戦するしか無い。そうだ冒険だ。俺は冒険者なのだ。
谷に顔を近づける。かすかに香る花のような匂い。
リザは特別香水のようなもを付けていないと言っていたが、たぶん扱っている薬草の匂いではないかと言うことだった。
それと彼女の体臭だろう。
香水のように添加された感じではない。内側から滲み出しているような感じだ。フェロモンかもしれない。とにかくいい匂いなのだ。
とりあえず我が分身である人差し指を秘境へと送り込む。
ズブズブと肉の壁を押しのけ、暗き谷を踏破するために。
柔らかいし暖かい。そしていい匂いだ。
指先で秘境の感触を楽しんでいると、秘境の主と目があった。
「……ジン様、何してるんですか?」
若干冷めた視線が、俺の精神を射抜いた。そう感じたのは俺の気のせいかもしれないが。
「ぼ、冒険かな……」
俺は口ごもりながら答え、毛布の中を移動して彼女の上に覆いかぶさった。
「疲れているのではないですか?」
彼女の囁くような声が耳を刺激する。
「疲れている時ほど、そういう気分になるというのもあってだな……」
リザはフッとはにかみながら、視線をシアンへと移す。
「シアンが起きてしまいます」
俺もシアンへと視線を送るが、彼女は毛布を深めに被って寝息を立てている。起きる様子はない。
「大丈夫だろう。よく寝ている。起きると問題が?」
リザは少し考えて答えた。
「彼女は男女のそういったことを理解していないので……予め色々教えておいたほうが、良いかもしれません」
予備知識か。保健体育の授業的な。
「リザは理解していると?」
「多少なりとは。タマさんにいつか良い男と出会った時のためにと、前に色々教わりました」
色々教わったかー。何教わってるのか、すげー気になる。
「なるほどな。親切なご近所さんで良かったな」
「ええ。このあたりの人たちは、みんないい人ばかりですよ」
「そうか」
リザが笑顔で答える。彼女がそういうのなら、そうなのだろう。人との縁というのは金では買えない財産なのだ。
「まぁ、それはともかく」
徐ろに体を密着させる。
リザの口から「ひゃぁん」という変な声が聞こえた。
「ジン様?」
「あまり大きな声だすとシアンが起きるから静かにな。それとも今夜はやめておくか?」
リザの耳元で囁くように語りかける。
吐息が耳にかかるたびに、彼女の小さな声が漏れた。
「ジン様、意地悪です。私だって……」
抱きしめあう腕に互いに力が入る。きつく締め付けるように、離れぬように離さぬように。
そのまま2人は熱情に身を任せ、時を忘れて互いに貪りあった。