第110話 魔獣グラットン3
人だかりのほうから、走りこんでくる人影があった。
倒れこむほどの前傾姿勢。手を大きく振り、異様な速度でこちらへ近づいて来る。【疾走】のスキルだろうか。走るフォームは無茶苦茶だが速い。異様な速さだ。
まだ若い小柄な少年だ。獣耳と毛量の豊かな尾を持つ獣人族のようだ。
速度を維持したまま、魔獣の眼前へと迫る。そのまま激突してしまうのではないのかという勢いだった。
だがそうは成らなかった。彼は魔獣の口へ至る目前で、地面に片手を突いた。そしてそれを起点に体を回転させた。片手でやる前方倒立回転だ。
そしてそのまま魔獣の鼻先へ踵落としを放った。走りこむ速度、回転の遠心力を加えた一撃。
「ギャンッ」
ドガッという鈍い音と、魔獣の短い悲鳴が同時に聞こえた。
鼻先は弱点なのか、魔獣はよろめき痛みに悶えているようであった。
「目立ちたがりか……」
派手な技を決めたロムルスが、こちらへ向き直り笑顔で親指を立てる。
彼を追いかけるように、獣狼族の戦士と思われる数名がこちらへ走り寄ってきた。
「君たち、大丈夫か?」
革の軽鎧に身を包み、手に槍を持った獣狼族の戦士だ。
レベル38、42、43
皆総じてレベルが高い。一番歳が行っている者でも30代前半。戦士として脂ののった頃合いか。鍛え上げられた体付きと、身のこなしから精鋭の戦士たちだとわかった。
俺は救援の礼を言い、手短に状況を説明した。
「わかった。コイツは我々で処理して良いのだな?」
「はい。お願いします」
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「おおっ、固い!」
魔獣の爪を掻い潜り肉薄する。そして腰の入った拳を叩き込んだ。彼は攻撃の瞬間だけ【闘気】を発動させているようだ。それも全身に発動させるのではなく攻撃する箇所、つまり腕だけに限定して発動させているようだ。そんなやり方もあるのか。初めて知った。
ロムルスの拳が魔獣の腹にめり込んだ。
ダメージはあるようだが、致命傷には至っていない。
「ロム。いつまでも遊んでいないで、さっさとケリをつけろ。作戦まで時間がないぞ」
一番年長と思われる獣狼族の戦士が叱咤を送る。
皆それぞれに戦士としての凄みがある。レベルだけではない迫力のようなものを感じる。それに手に持つ武器は、それなりに業物のような雰囲気があった。もっと近くで見てみないと調べられないが、近づいてジロジロ見つめるのも怪しげなので自重している。そういった視線に敏感な者もいるようだし、あらぬ疑いを掛けられるような真似は避けたい。
「はーい。わかってますよー」
ロムルスは気軽な感じで答えた。
軽い身のこなしで魔獣の攻撃を避け【闘気】を乗せた攻撃を放つ。
攻撃の瞬間に黄金のオーラがブワッと燃え上がるようなエフェクトが見えるのだ。アレちょっとかっこいいな。俺も出来るようになりたい。
俺の視線に気がついた戦士が声を掛けてきた。
「もしかして君も闘気が扱えるのか?」
あの【闘気】のエフェクトというのは普通は目に見えないらしい。だが【闘気】の修得者同士だと、見えたり感じたりするそうだ。たぶん俺は魔眼があるので見えているんだと思う。
「……ええ。一応使えます」
返答に困ったが、あまり嘘は付きたくない。助けてもらったしな。
「そうか。いや、詮索するつもりはないのだが、人族で扱えるものは珍しいのでな。そうか君も戦士なのだな」
獣人族では闘気のスキルを修得して一人前の戦士と認められるらしい。
何となく感心されてる様子だ。
まぁ、それはともかく。
「手伝わないのですか?」
いまロムルスは1人で魔獣と戦っている。
その周辺には彼を見守る獣狼族の戦士たち。
全員で囲んでボコボコにするのかと思いきや、他の戦士たちは静観を決め込んでいる。なぜだ?
「いや、奴が1人でやると言ってな。アレの皮が欲しいらしい」
ロムの装備は普通の革のジャケットといった装いだ。戦士の装備といった感じではない。
「私達がこれで手伝うと穴だらけになるからと言ってな……」
確かに【闘気】で強化された槍で貫けばそうなるのかな。しかし随分と余裕だな。
ロムルスに視線を送ると、そこまで余裕があるようには見えない。
多少疲れが見え始めている。手伝ったほうがいいんじゃないか?
「リザ。マスターへの報告、頼んでもいいか?」
「はい。どうするおつもりですか?」
「時間かかりそうだから、手伝ってくる」
鞄に手を差し込み、中を探る。
「ロム。これを使え!」
魔獣と一進一退の攻防を続けるロムルスに、鞄から取り出したものを投げて送った。
弧を描いて投げられたそれを空中で掴む。
それは一振りの魔剣。
「これは?」
ロムの手に収まった魔剣は、魔力を受けて音もなく伸びた。
「投げろ!」
内臓を蹴り上げられて蹌踉めいた魔獣は、再び覚醒してロムルスに迫った。
咄嗟に理解したのか、彼はやり投げの要領で魔剣を放つ。
【闘気】のスキルが発動する。【投擲】のスキルがその動きを補正した。
放たれた魔剣、鎧通しは【貫通】の効果を発揮して魔獣の眉間に深々と突き刺さる。
「グギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッッ!!?」
頭蓋を剣が突き抜けても、まだ息があるとはすごい生命力だ。
荒れ狂う魔獣は奇声を発しながら、暴れている。激しい動きにロムルスも手が出せないようだ。
「止めさしちゃっていいか?」
気軽な感じでロムに聞くと「毛皮を出来るだけ傷つけないようにお願い!」と頼まれたので了承した。
コイツの毛皮を使えば、良い防具が作れそうだという話だ。
残された僅かな魔力でも、手負いの獣に止めを刺すくらいはできるだろう。
手のひらに魔力を集める。
紫の閃光が生まれ、輝きを増していく。
雷魔術【雷撃】S級
一瞬の隙を見極め、眉間に刺さった魔剣目掛けて【雷撃】を放った。
巨大な稲妻が解き放たれ、魔獣を襲う。
バリバリという空気を引き裂く轟音と、周囲を照らす閃光がその魔術の破壊力を物語っていた。
一瞬の出来事だった。
魔獣は最後の瞬間の姿のまま硬直し、体中から白煙を上げている。ぐらりと巨体が地面に伏した。高熱と衝撃が魔剣を通して、体内を破壊したのだ。もう起き上がることはないだろう。
魔力を使い果たした俺は、膝から崩れ落ちる。
見計らっていたのか、リザが背後から抱きかかえるようにして受け止めた。
「リザ、ごめん。後は頼む」
「お疲れ様ですジン様」
疲労と魔力の消耗により限界を迎えた俺は、そのまま意識を手放すことにした。
今回で2章終了です(`・ω・´)ゞ
閑話を挟みつつ後日3章へ移行します。
少々時間があくかもしれませんが、今後共お付き合いよろしくお願い致しますm(_ _)m




