第三十七話 隊長会議
スピルが地上に上がった時、サジェスターはまだ逃げきれていなかった
しかし、ブラッドスコーピオンの射程圏外にいて捉えることもできない
せめてもの抵抗で、スピルはサジェスターに向かって叫ぶ
「ピンテアさんに何をした!」
答える義理のない問い 負け犬の遠吠えに近い叫び だが目的の100%を達成できなかったことはサジェスターにとっても同じことだった
その微妙な心の揺らぎが、彼のにやけた薄ら笑いの仮面を一枚剥いだ
「全てはあなたたちの異能を手に入れるための計画に過ぎません 次はあなたもターゲットですよ ブラッドスコーピオン ぜひその時までに異能を高めていなさい!」
ーーーーーーーーーーーー
元警察隊隊長であったサジェスターが生きていること、彼が地下組織で暗躍していること、国家が管理できてない異能持ちと徒党を組んでブラッドスコーピオンを狙ってきたことは、各地の警察隊員や共産党議員を震撼させた
逮捕されたアンブラとギアニは次々と来る聴取に辟易していた
「だから!俺もサジェスターのことは詳しくは知らないんだって!アンブラからあいつは信用するなって言われてたし、あいつ自身もあんまり話そうとしてこなかったからさ!」
「やつがピンテアやブラッドスコーピオンを狙った理由?やつの能力で異能をコピーするつもりだったんだろう 俺とギアニの能力も事前にコピーされたしな 俺は純粋にブラッドスコーピオンとやらと戦ってみたかっただけだ」
「異能をコピーできるのに使わなかった理由?詳しくは知らんな 異能の同時使用はできないとか 自分には使えないとかお前らの方でも大方予想はついてるんじゃないのか?」
「異能を使えるようになった時期?俺もアンブラも昔から使えたけど、ここまではっきりと使えるようになったのは最近だよ きっかけ?あんま覚えてねえな でも強くなって暴れてたらサジェスターがきたことは覚えてるぜ!」
ーーーーーーーーーーーー
「彼らの証言を総合すると、サジェスター元隊長はこちらの把握してないルートで独自に相当数の異能を抱えてる可能性があります」
「まさに国家の危機だねぇ 彼の目的がなんであれ首相や議員様方はこの事態を許さないだろうね」
「ピンテアさん その後能力の調子はいかがですか?」
「まあそこまで違和感とかはないかな 最初奪う能力を警戒してたけど、コピーされただけなら私が能力を使役する分には問題ないんだろうね」
「そこまで含めて異能の縛りなのかもしれんのう」
隊長たちが集まる隊長会議 今回の話題はもっぱらサジェスター関連の話でもちきりであった
「しかしサジェスターの坊やが組織を裏切るなんてね…」
「事実上の戦死として記録されてましたが、死体は確認できてませんでしたからね とはいえ驚きですが…」
「すみません 私はサジェスター元隊長と入れ替わりで隊長になったので詳しく知らないのですが、どんな方だったんですか?」
イヌバナが問いかける
「そうだねぇ…仕事熱心で真面目で特に防衛に役立つ異能だったね」
「今の隊員のレベルが落ちてるのも、あの坊やが全部1人で抱え込んでたのが原因さね ま、それで弱い隊員が死なないならって任せ切ってたあたしたちも良くなかったがね」
総隊長とフィダイルが口々に話し、場の空気が重くなる
サジェスターの“戦死”は組織に暗い影を落とすようなものだった ましてや組織を裏切ったとなれば尚更だ
「もしかして他の隊長格の皆さんがスピルくんに気をかけてるのもその件があったからですか?」
空気に気圧されることなくイヌバナはズバズバと質問していく
元々実力は高いが異能がなくアイドル的な役割で隊長に就任したイヌバナは就任した頃の隊長会議で物怖じすることも多かった
そこで古株の隊長たちを中心に、イヌバナを甘やかすことによって物怖じしない今のイヌバナを作り出したのだ
当時その光景を呆れ半分で見ていたカプラは、「私は彼を甘やかしてませんけどね」と釘を刺した
「そもそもアイザック隊長は自分の部下の素質を見抜けていませんでしたね テイロスくんでしたっけ?異能違和を持った部下を気にかけるのも本来は隊長の仕事では?」
「その件に関しては申し訳ない 俺もどうも血筋ばかりを気にして決めつけていたようだ」
素直な謝罪の言葉にさらに被せるカプラ
「ただでさえ隊長候補に至れる人材が減っているんですから、降格するようなヘマはしないでくださいよ 我々の仕事が増える」
追加の攻め立ての影響で重苦しい空気は晴れないままでいる
そこにピンテアが助け舟を出した
「まあまあそのくらいにしなよカプラくん! 私はスピルくんにもテイロスくんにも助けられているからね!そういえば他のメンバーの調子はどうなんだい?」
「バルボラくんはこちらで預かっていますが仕事を順調にこなしてくれていますよ」
「僕のところでも、ビタさんの知見と能力にだいぶ助けられています」
カプラと科学隊の隊長ストリンタが口々に近況を報告する
その話を聞いてカラパッサが思い出したように口を開く
「そうだった ピンテア殿フィダイル殿 テイロスくんとスピルくんを借り受けてもよろしいかな?」
「あたしゃ同行しただけだからスピルを受け持ったわけじゃないよ」
「一応今の彼らの扱いって懲罰なんだろ?カラパッサ隊長はレキンくんを受け入れてるし、3人も一箇所に集めて大丈夫なのかい?」
「首相には事前に許可をもらった 炭鉱の方が少々面倒なことになっていてな」
カラパッサは炭鉱の状況を語った
--------------
「なるほど それで俺とテイロスにスラニクの炭鉱への出動命令が来たんですね」
本部に戻り、数日体力を回復させていたスピルの下にピンテアが訪れ次の辞令を渡しに来た
「そゆこと どうも炭鉱の周りで吸血獣や吸血怪人が増えてるし、今まで見つかってなかったような特殊な鉱石が発見されたようなんだよね そしてそれが異能を増幅させる力があるらしい」
「異能の増幅…」
「鍛えるついでに警備してきてほしいらしいよ 鉱石、持ち帰れたらお土産にして持ってきてね〜」
ヒラヒラと手を振ってピンテアが部屋から出ていく
(デーバではあと少しのところで取り逃した サジェスターがまた出てくる可能性もある)
『是非その時までに異能を高めていなさい!』
(あの言葉が気になる…ブラッドスコーピオンにはまだまだ隠された力があるってことなんだろうか…利用されるわけじゃないけど、なんにせよ鍛えないといけないことは確かだ…)
スピルは荷造りをして、テイロスと合流し、鉱山のあるスラニクへと向かった
続く
長かったデーバ編が終わりましたね ここまで長くなったのは想定外でした
次の章では吸血怪人に関する事件が起きると思います 楽しみに待っててください
それにしてもイヌバナ、可愛がられてる割に質問を受け流されてる気もする…




