第三十五話 裏切り者
「何が天敵だ!同じ海の生き物ならこっちにだって勝機はある!」
ギアニは小瓶を取り出して一気に飲み干し瓶を地面に叩きつけた
(あれは例の小瓶…)
ピンテアはギアニにバレないように慎重に水を触手のようにして伸ばし、小瓶を回収した
その様子に全く気づいてないギアニは高らかに叫ぶ
「アンジェラ!噛みちぎれ!」
巨大ウツボのアンジェラが再び姿を現す
「いいだろう 巨大戦と行こうじゃないか」
テイロスもティロサウルスを召喚し睨み合う構図になった
巨大戦
自身の異能を纏うのではなく力のモチーフになった動物を血を代償に召喚することで戦う手法
召喚をメインにする異能持ちの少なさと、使う血の量の多さ、そもそも異能持ち同士がぶつかることが少ない 街を防衛する任務には不向きなど様々な理由で今ではメジャーな対戦形式ではないが戦い方の研究自体は続いている
巨大ウツボのアンジェラとティロサウルスは彼らの頭上で大きくぶつかり合う
アンブラと戦いながら、その光景にスピルは圧倒されていた
(もしかしてブラッドスコーピオンにもああいう戦い方ができるんじゃないか)
「スピル!ぼーっとしてるんじゃないよ!」
その夢想をフィダイルの檄が吹き飛ばす
「すみません!」
目の前の戦闘に向き合うスピル 例え上の空であっても2対1の構図は圧倒的に有利で、アンブラは追い込まれていた
一朝一夕で培ったと思えない2人の剣撃でアンブラを追い詰めていく
「これで止めだ!ブラッド…」
大きく振りかぶりブラッドストライクを発動させようとするスピル
しかしそこに真っ直ぐな軌道で矢が飛んでくる
矢はギリギリを掠めた後爆発し、スピルの体制が崩れる
「矢!?一体どこから…」
飛んできた方を見るスピルとフィダイル そこには1人の男が立っていた
「チッ もうでてくるのかよ」
「あなたが思いの外苦戦しているようでしたのでね アシストさせてもらいますよ」
「この声…あんたまさか!」
驚愕が隠せないフィダイル その声を聞いてピンテアも視線を向ける
「お久しぶりです フィダイルさん ピンテアさん」
「…本当に久しぶりだねサジェスターくん 裏切り者の君が裏で暗躍していたのか」
「裏切り者だなんて人聞きの悪い 私は私の信念に基づき行動しているだけのこと それがたまたまあなたがた国の犬に都合が悪いというだけの話だ」
フィダイルが思わず口を挟む
「ずいぶんな物言いだねぇ あんたが逃げた時どれだけの隊員が殺されたか忘れるほどあたしは耄碌しちゃいないよ」
「はは あんなものは敵国の言葉で言うところのコラテラル・ダメージ 必要な犠牲ですよ 大義のための…ねっ!」
ノールックで後ろに向かって矢を投げるサジェスター 話を引き延ばしながら後ろに近づいていたフィダイルのジェニスに突き刺さる
「ジェニス!怯むな!」
「シャアアアアア!」
ジェニスは大きな音で威嚇しながらサジェスターを噛もうとする
「全く、あなたも人のことが言えないじゃないですか」
ジェニスの威嚇に怯むことなく、サジェスターは剣に手をかけジェニスに斬りかかり、ジェニスは真っ二つになった…
「射手座の異能だからと言って近接戦闘が苦手なわけではないんですよ…!?」
しかし、そこまでがフィダイルの作戦のうちであった
ジェニスは斬られる直前に口を閉じ、瓶を割っていた
その瓶の中身は…
「毒、真正面から喰らったようだね」
「なっ…!」
皮膚が焼けて溶けるような痛みで思わず膝をつくサジェスター
「あなたにこんな力はないはず…ということはブラッドスコーピオンの…!」
「ジョーイ!ルーシー!そいつを捕まえな!」
フィダイルが近くまで接近していた他のワニに指示を出す
「甘い!」
サジェスターは一本の矢を放つ
矢は無軌道に動きを変えジョーイとルーシー両方を牽制した
「私とてこの5年の間暗躍だけをしていたわけではないのですよ」
膝をついている間、サジェスターは大量の矢を影に送り込んでいた
その矢は影の世界を伝い、空から降り注ぐ
「この矢の全てを受けきれますか!ブラッドスコーピオン!鉄の老女!そして救世の雫!」
「誰か忘れていないか?」
そう言ってテイロスはティロサウルスを大きく動かし、全ての矢を衝撃で払い除けた
「はは…ははは!そうでしたね!あなたも忘れてしまうところでした 申し訳ない ティロサウルスの使い手よ」
攻撃を防がれたサジェスターは高笑いをした
全員の体力がジリジリと削られていく それはこの異能戦の終わりが近づいていることを示していた
続く
サジェスターの能力はもっと面白いことができそうなのですが、なかなかうまくいきませんね…




