↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/44

暗い希望



 それから数日後、3人は随分と南の町までやってきた。そこは大きな町ではあったが、ドラゴンの襲撃を受けて、ひと気がなかった。

 崩れた櫓、焼かれた家々、誰もいない通りを歩くと、気が滅入りそうになる。

「嫌な臭いね」

 モンが鼻を押さえている。モンは二人よりも匂いに敏感ではあるが、ジェイにもその臭いは感じられた。温かい風の吹くこの町で、水も生き物も朽ちて腐る、その臭いだ。


 通りを抜けて、崩れた広場にひっそりと泉があるのを見つけた時、

「あ」ゴローが何かに気づいて声を出した。

「なに」

 ジェイが小さな声で聞くと、ゴローは崩れた家の陰を目線で追った。ジェイとモンもそちらを見ると、人の影が見えた。1人ではない。数人いる。大人も、子どもも、多分老人もいるだろう。人影は少しずつ増えていた。建物の陰から顔だけを出して、日の当たるところには絶対に姿を見せないように、暗く沈んだ顔だけをのぞかせているのだ。


「ジェイの賢者の印を見てるんですよ」

 こんな陰気な町を歩いているせいで、ジェイの印は日なたでもわかるほどに光りを放っていた。それはジェイの恐れの表れだ。

「話しかけてみる?」

「えっ、いいよ。モン、やめろよ」

 今にも走って行きそうになるモンを、ジェイは止めた。

 物陰から覗き見をしているだけの、あの生気のない人たちに話しかけるなんて、とてもできない。


「だって」

 そう言って、その建物の陰を見ると、もう誰もいなかった。

 モンの動きを察して、怖がって姿を消したのだ。

≪俺と同じだ≫

 彼らは恐れているのだ。

 きっと、ドラゴンに何度も町を焼かれ壊されたのだろう。戦おうにもその術を知らず、ただ殺される。そんなことを繰り返し経験すれば、ドラゴンに対してだけでなく、生きること全てが恐ろしくなる。ジェイにはその気持ちがよくわかった。

≪そっとしておこう≫


「急いでこの町を出よう」

「え、ジェイ?良いの?」

 情報を得たり、食料を買ったりすることはこの町では無理だ。ジェイはその額にムヴュを光らせながら、町を通り抜けた。

 この額の光りにドラゴンが吸い寄せられてくるのなら、この町に居てはいけない。ジェイは物陰から悲しげに見つめる目から逃げるようにその町から去った。町から出ても、まだその暗い視線が追いかけてくるようだ。


 それは、暗い希望なのだろう。

 自分たちはドラゴンから身を守ることすらできない。だけど、賢者は助けてくれるかもしれない。小さな小さな希望を抱いて、彼らは町から遠ざかるジェイを静かに見送っているのだとジェイは気付いていた。



 町から出て、荒れた農地を通っていると、やっとあの視線から解放されるような気がした。

「俺、わかってきたよ」

「何がですか?」

「ドラゴンって夕方になるとやってくるって」

 そう言いながら3人が顔を上げると、空は少し暗くなっていた。そして、もう暗くなり始めている西の方の空に、ドラゴンの飛ぶ金色の光りが見えていた。

「あー、確かに」

「賢者の印がよく見えるからじゃないですか?」

 モンとゴローが冷静に分析している。もう、ドラゴンを見るのも慣れてきたのだろう。それにまだ、ドラゴンがここに来るまでには少し時間がある。


「モン、あっちに俺たちの逃げ道作っといてくれ」

「うん」

 モンをドラゴンの戦いに巻き込みたくない。モンを避難させ、同時にいざという時の逃げ道を作っておく。ジェイの判断は的確だった。

「ゴロー、また乗せてくれるか?」

「あー、はい」

「なにその、気のない返事」

「いえ、こないだ大変だったので」

「まさかまた、筋肉痛になったとか言うなよ?」

「なりました」

「んなんだよー」

≪飛んで筋肉痛になるドラゴンって≫

 これはゴローに乗って戦うのは無理そうだとジェイは少し諦めた。とにかくまずは一度縄を投げてみよう。うまく捕まえられるかもしれないのだから。ゴローに頼るのはそれからでも遅くない。


 ジェイは、荷物から改良型の縄を取り出し、それを握って構えた。

≪落ち着け、落ち着け、落ち着け≫

 自己暗示とは裏腹に、ジェイの呼吸は速くなり、手は冷たく震えていた。何度も何度も縄を握り直す。

 ジェイのムヴュはドラゴンを誘(いざな)うように真っ直ぐに光っている。

≪あの町には行くな。こっちに来い≫

 ジェイの心は今までとは違っていた。

 恐れを抱くドラゴンに、こっちに来いと念じていたのだ。自分なら何とかできると慢心しているわけではない。

 ただ、あの町の人の暗い目を、哀しく感じただけだ。


 それにどっちにしろ、ドラゴンはジェイの光りを見つける。だったら寄り道などしないで、真っ直ぐこっちに飛んで来いとジェイは念じた。覚悟はできたのだ。

 ハッハッと短く息をするジェイを、ゴローが見守っている。

「いいか、ゴロー。火を吹くんじゃないぞ」

「はい」

 二人が短く会話をすると、金色のドラゴンがものすごい勢いで迫ってきた。いつもよりもずっと近づくのが速く感じられる。


 ジェイは間合いを感じ取りながら、ゆっくりと縄の先の錘を揺らした。

≪速い≫

 いつもと違う。それでも、ジェイはその瞬間を見誤らなかった。

≪今だ!≫

 ジェイは縄を放った。無詠唱ではあったが、ちゃんとジェイの魔法はその縄とドラゴンの翼とをくっつけた。

 ビュンと音がして、ドラゴンの翼に縄が絡みつく。

「よし」


 ジェイはすぐさま、もう一本の縄を取り出し、もう一度ドラゴンに向けて放った。

 その縄はドラゴンの口に絡みつくと、ドラゴンの炎の出口を封じた。

「ジェイ、一発ですね!」

 ゴローがそばで感心している。

 今回は、縄の改良も上手くできたうえに、魔法の腕もあがっていたためか、これだけでドラゴンを落とすことに成功した。

 大きな音を立てて荒れ地に落ちたドラゴンに駆け寄り、ジェイはその左前脚を切ろうと短剣を取り出した。


≪いつもより、小さいな≫

 ジェイがドラゴンを切りつけようとした時、

「ジェイ、待ってください!」

 と、ゴローが声を上げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。