賢者らしさ
次の日からも3人は南へ向けて歩いた。
時にはモンに作ってもらった地下の道を通り、時には地上に出て歩いた。3人が町のそばを歩いていると、黒いドラゴンを連れた賢者様の噂はどこでも知られていて、歓迎してもらえた。
「賢者様、どうぞ、これをお持ちください」
ジェイはよくこうして、食べ物や着る物などを貰った。
「え、いいんっすか・・・ありがとうございます」
今まであまり人に接していなかったので、なかなか慣れず、しかも変に恐縮していて、とても賢者には見えなかった。単なる腰の低い若者のようだった。
「この町って、ドラゴン来るんですかあ?」そうすると、モンが町の人に話しを続けてくれたりした。
「そうですねえ、ここはわりと小さい町だからか、あんまり来ないですよ。素通りしてあっちの方へ飛んでいくのを見かけますが、見るだけでも怖いもんです」
その人の顔を見れば、どれだけドラゴンが恐ろしいかというのがわかる。そんなドラゴンと戦うために旅をしている賢者のことをもの凄く尊敬してしまう気持ちもわかるのだった。
「あっちの方ですね。ジェイ、行ってみましょ」
「あ、ありがとうございます」
ジェイが町の人に礼を言うと、たいてい大笑いされた。
「礼を言うのはこちらのほうですよ。賢者様がドラゴンをやっつけてくださるんですから」
「はあ」
こんなに信頼されて、こんなに感謝されて、居心地が悪くてたまらないが、以前のように逃げ回っているのとは違う。それはそれで変な感じがした。こんな自分にドラゴン退治が務まるのか、今でも信じられない。そんなに重要なことを託されているのに、自分の魔法はまだ「くっつく」しかないのだ。
ジェイが困ったような顔で頭を掻いているのを、モンがさりげなくフォローしてくれた。
「ジェイだって怖いわよね。でもドラゴン3頭ちゃんと捕まえたのよね」
「あ、うん。でも、俺がやったのは捕まえるだけだよ。それなら、町の人たちで協力すればできると思う」
ジェイは、それが自分の手柄だとは思っていなかった。だから惜しげもなく、その方法を教えた。
「そうなんですか?」
この町の人も、ふんふんと興味深そうにジェイの話しに聞き入った。
「ドラゴンを捕まえるには、翼を封じればいいんだ。あと、危険なのは口から吐く炎だから、できれば口も塞ぐんだけどね。
錘の付いた縄か網で翼を引っ掛ければ良いんだ。普通に投げても届かないだろうけど、投石器とか、あるでしょ?そういうのを使ってみんなで投げれば、ドラゴンを捕まえられるはずだよ」
「投石器、あったかなあ」
「普通にはなくても、兵舎とかそういうところならあると思うよ。ちょっと偉い人に聞いてみたら良い。何もしないで空を見てるよりは、少しでも対策がある方が良いと思うよ」
「そうですねえ。聞いてみますよ」
「それから、ドラゴンはね、左前脚が急所なんだ。殺そうとするなら、胸や頭よりも左前脚を狙うと良いよ」
友だちにでも話すかのような気さくなジェイに、町の人は親しみを覚えるのだろう。だいたいジェイは、賢者らしさがない、ただの若者にしか見えない。それでも、こうして持てる知識を教えてもらえることは、ありがたいことだった。
「なるほど、さすが賢者様」
そう言われると、途端に微妙に困った顔をするジェイだったが、町の人には好印象だった。変に威張っている気難しいじいさんより、親しげに話したり色んなことを教えてくれる若者のほうがずっと良いに決まっている。
「さ、ジェイ。行きましょ」
「うん。じゃあ」
モンに促されて、ジェイが去ろうとすると、町の人はジェイの背中を叩いた。
「頑張ってくれよな。応援してるから」
「あ、うん。ありがとう」
話をしたことで、今までのような、根拠のない応援ではない応援を貰った気がした。こんな応援だったら嫌じゃない。
やっとジェイの顔から困った表情が消えた。
この町の人も、自分も同じ。ドラゴンと戦う同志だ。
ジェイが振り向くと、町の人は力強い顔をして手を振ってくれていた。頑張れよ、と気持ちを込めた表情に、勇気をもらい、ジェイは先へと足を進めたのだった。
町を通り過ぎ、少し歩いたところでジェイがいきなり頭を抱えた。
「うわー、しくった!」
「なにがですか」
ゴローとモンが不思議な顔をして、のた打ち回るジェイを見ていた。
「だって、俺、賢者じゃん!アレ言おうとしてたのに」
「「アレって?」」
「アレだよ、あのセリフ。“ドラゴンの命は、左前脚に宿っておる”ってやつだよー!」
「何それ?」
モンはそのセリフを知らなかった。ジェイがドラゴンと戦っている時は、モンはいつも地下への穴の入口で待機しているのだ。ドラゴン退治の時に何が行われているかははっきりとは知らなかった。
「あそこで、ドラゴンの殺し方を教えてくれた人がいたんですよ。その人の言った言葉ですよね」
ゴローがモンに教えてあげた。
「そう。アレがカッコいいから、使おうと思ってたのに」
「言ったじゃないですか、ちゃんと。左腕を切るって」
「そうじゃなくて~」
相変わらずジェイは打ちひしがれたように大げさにのた打ち回っていた。
「じゃあ何ですか」
「だから、あのセリフがかっこいいんだって。“ドラゴンの命は、左前脚に宿っておる”って言いたかったんだよお」
ジェイはしかめっ面を装い、そのセリフを言った老人の声色を真似ている。それが賢者らしいと思っているのだろう。
「そのまま?」
「一言一句?」
「そう!」
キッとジェイが二人の方を向いた。ゴローとモンは呆れた顔をして、薄く笑っていた。
「少し賢者様っぽくなってきたと思ったけど、まだまだみたいね」
モンが笑いながら言った言葉は、1人世界に入り込んでバカみたいに悶えているジェイには聞こえていなかった。




