敵として殺める
金色のドラゴンの炎から逃げるために、ゴローはジェイを背中に乗せて空へ飛びあがった。
「うわっ、ゴロー!と、飛んでる!」
「さ、ジェイ。あのドラゴンの炎のことは気にしないで、攻撃に集中してください」
なんとゴローに乗って、金色のドラゴンと空中戦というわけだ。
「お前、飛べるのか」
「当たり前です!」
≪なんで飛べるんだっけ≫
などと、根本的なことを考えている場合ではない。今はあの金色のドラゴンをなんとかして、縄で封じなければならない。
ジェイはキッと金色のドラゴンに目を向けると本人は気付かないが、本気モードの顔になった。
「よしっ、いくぞ。くっつく、縄!」
ジェイは再度、ドラゴンに向かって縄を投げた。そうして、2本の縄をあの翼に絡めるのだ。両腕を伸ばして縄を絡めようと動かす。
「くっつく、縄!」
何度も何度も同じ魔法だけを繰り出した。
「くっつく・・・」
「なっ」
金色のドラゴンの翼は力が強く、ジェイは苦戦した。縄を一度絡ませるのに、ジェイの腕が捥げそうなほどの力が必要なのだ。そのため、魔術詠唱を発している余裕がない。口から出るのは、ほんのひと文字だけだ。
「つっ」
「・・・!」
ついには、魔術詠唱は口から出ることなく、ただ、腕だけを動かして魔法をかけていた。
しかし、口から魔術詠唱が発せられなくても、ジェイの魔法はちゃんとドラゴンに届いていた。
ゴローはそんなジェイを守るために、金色のドラゴンの炎から身をかわしながら飛び続けた。ジェイが焼かれないだけでなく、ジェイが魔法を繰り出しやすいように、ジェイの心に寄り添うようにして飛んだ。
縄は少しずつ、しかし確実にドラゴンの翼に絡まり、ゆっくりとその動きを封じていった。2本の縄にじっくりと絡め取られ、金色のドラゴンは気付かないうちに飛ぶことができなくなっていった。
「よしっ」
ついに金色のドラゴンの翼に縄が絡まりきると、ドラゴンは大きく唸りながら暴れ、そうして方々に炎をまき散らして、落下を始めた。
「ジェイ、口も閉じないと」
「うん」
ジェイは素早く新しい縄を構え、そしてドラゴンの口めがけて放った。
もう言葉として魔法を発していなかったが、その縄はちゃんとドラゴンの口にくっついた。
「むううっ」
相変わらず力の強いドラゴンに、ジェイは渾身の力でもって、縄を絡めた。
「うりゃ!」
やっとのことで口に縄が絡むと、ドラゴンの口からは火が見えなくなった。
そうして、金色のドラゴンはくぐもった声をギャーギャーと響かせながら、地面に叩きつけられるように落ちた。
空から見ると、ドラゴンの落ちたところは土煙がもうもうと上がっていた。
すぐにゴローは地上に降りてくれた。
そしてジェイはゴローの背中から飛び降りて、コロリと転がると(うまく着地できなかったのだ)、短剣を取り出しすぐに金色のドラゴンの方へ駆け寄った。
バタバタと身をよじって暴れるドラゴンのそばに寄るのは危険だ。しかし、早くとどめを刺さないとかえって危険である。
「ゴロー、話し、するか?」
ジェイは短剣を構えながらも、ゴローに聞いてみた。しかし、ゴローはジェイを守るためにそばにいたものの、そのドラゴンと話をしようとは思わなかった。
「いえ、だいたいわかりましたから、けっこうです」
きっと戦いのさなかに、ゴローなりに話しかけていたのだろう。ドラゴン語があるのかどうかはわからないが、通じるところはなかったに違いない。
「じゃあ、殺るか」
「はい」
食べるために獣を屠るのとは違う。敵として殺めるのだ。しかも、呼吸をしていて、血が通っていて、熱を感じる生き物を殺すのは、なかなかに嫌な役目だ。
それでもやらなければならない。
ジェイはドラゴンの首筋に短剣をたてて、力いっぱい押し込んだ。
ブっと硬い皮膚が裂けて、黒い血が流れ出した。生臭い、ジェイの知らない血の匂いが鼻を突く。
グッと乾いた唾をのみ込みながら、ジェイはさらに剣を押し込み、捩じって引き抜いた。
― グゥウウウウウ ―
ドラゴンが唸り、鋭い目でジェイを睨む。
ジェイは嫌な汗をかきながら、さらに喉笛の方に短剣を突き刺した。
「うっ」
顔をしかめ、その臭いに耐える。しかし、ドラゴンは激しく唸り暴れ続けている。もしや、短剣が短すぎて、命の元まで届かないのだろうか。
もう、殺すことが嫌だとかそんなことを考えられないくらいに、ジェイは焦った。
≪どうやったら死ぬんだ、コイツ≫
これだけ刺しても死なない、どころか、弱ったふうにも見えないのだ。ゴローも協力して、ドラゴンを押さえてくれているが、それでもまだまだ金色のドラゴンは力強く暴れていた。
そんなことをしていると、ザワザワと人が集まってくる声が聞こえた。ここから東の方の町の人たちが、上空にドラゴンを見つけたので、討伐に出てきたのだろう。みんな武装していた。
彼らは額に賢者の印を光らせて、ドラゴンに短剣を突き刺している男を見て大声をあげた。
「賢者様が、ドラゴンを倒したぞー!」
「賢者様、ばんざーい!」
万歳と言われても、賢者はドラゴンを殺せていなかったのだが・・・
とにかく、たくさんの町の人が来たことで、ジェイは少しばかりホッとしたのだった。




