インシオの母
インシオの母親視点です。
私が生まれたのは、ガルム帝国の公爵家だった。
私の本名はセイン・レーミリオ。
レーミリオ公爵家の三男だ。
私は愛されていたと思う。
三男で末っ子ということもあっただろうが、兄弟の中でも優秀で、いつもいい子を演じていたから。
親や兄弟達には逆らわず、従順だったから。
だからだろう。私に知らせずに、家族が私の婚約者をかってに決めたのは。
それでも、今までの私なら従っていただろう。
でも、その時の私には恋人がいた。
誰にも言ったことがなかったが、私は庭師の息子と恋人関係だったのだ。
だからそれも必然だった。
婚約が決まったと聞いたその日、私はその子と駆け落ちした。
その子と私が十七歳の時だった。
この大陸には五つの国があるが、故郷であるガルム帝国には住めなかったため、私達は他の国を転々とした。
お金はあったが、地域よっては同性愛者が忌避される土地もあったため、それなりに辛い暮らしを強いられることもあった。
やがて私達は、スーザン公国の片田舎にあるリンゼ村にたどり着き、そこに定住することに決めた。
村の人達は、よそ者の私達を快く迎え入れてくれた。
同性愛者だと言う事も、恋する相手は人それぞれだと言って受け入れてくれた。
それからの暮らしは幸せの連続だった。
定住した四年後には第一子が産まれた。名はインシオとした。
インシオは、私のセインのインと、エミリオの好物の塩パンからとった名前だ。
私はこの名付け方に疑問を持ったが何も言わなかった。
更に三年後には双子の兄妹を産んだ。
名を兄の方はレオン。妹の方はエミリと名付けた。
レオンはエミリオの過去の剣の名前で、エミリはエミリオからとった名前だ。
私はこれにも色々と疑問を持ったが、何も言わなかった。
そして三人の子供はすくすくと元気に育っていった。
特に長男のインシオは二人のいいお兄ちゃんになってくれている。
ただ、インシオは七歳の時から少し変わってしまったのが心配だ。
まぁ、変わったと言っても魔法や一般の勉強をするようになった事ぐらいだからあまり違和感はないが。
だが、そんな平凡で、幸せな暮らしをしていたある日。それは起こった。
インシオがいつも魔法の修行をしていた森の方から、突然膨大な魔力の気配を感じたのだ。
魔力を持つ者は貴族がほとんどで、平民にはあまり生まれない。
でも、私の子供達には全員魔力があった。
私のを受け継いだのだろう。
だが、インシオはまだ十歳だ。
上級魔法を使うことはできなかったはず。なのに森の方から大量の魔力の気配がする。
私は胸騒ぎを覚え、エミリオと共にインシオがいつも修行をしていた森の方へ向かった。
向かっている途中で村長の所の双子の兄妹とあった。確かインシオと同い年だったはずだ。
何故森の入り口から出てきたのか不思議に思い二人に近寄ると、二人は私達に気付き、凄い勢いで走って来た。
話を聞くと、二人は探検しようと思い森に入ったらしい。そこで狼に襲われた。必死に逃げている時にインシオと会った。インシオは魔法で二人を助けると、後は自分がどうにかするから逃げろと言ったらしい。
二人はそれに頷いて逃げた。
だが、今になってインシオが心配になり、こんな森の入り口でうろうろしていた。と。そういう事らしい。
私達はその話を聞くと顔を見合わせて頷き合った。
双子には村長にこの事を知らせて医師を呼んでくれるように伝えてくれと言うと、私達は直ぐに森の中へと入った。
そうしてしばらく走った頃、森の中の突然開けた場所に出た。
そこは不自然に大穴が空いている場所で、まるで隕石が落下したようだった。
だが、私には分かった。そこに魔力が多く漂っていることを。
私は確信した。ここがさっき感じた大量の魔力を使った場所だと。
そして、この魔力がインシオのものだと。
魔力は人それぞれ違いがあるが、それは使う人の性格を表しているのだと聞いたことがあったのだ。
私はそれをエミリオに伝え、インシオを探した。
インシオは直ぐに見つかった。
大きく空いたクレーターの真ん中にちょうど地面が残っていた場所があった。そこで眠るようにして倒れていたのだ。
私達は直ぐにインシオを村長の家まで運んだ。その間、一度も目を覚ます気配はなかった。
村長の家には既に医師が来ていた。
私達は医師にインシオを任せると、その間、村長の家のリビングで祈るように待っていた。
それから何時間、いや、実際には数分だっただろうか。永遠にも感じる時間は、医師が部屋に入って来たことによって終わりを告げた。
医師によると、命に別状はないが、急激な魔力の減少により、体に過度な負担がかかり、しばらくは眠ったままだろうと言われた。
エミリオはそれに安心した表情になったが、私は完全に安心は出来なかった。
命に別状がなかった事は嬉しいが、魔力の急激な減少は後遺症が伴うこともある。
私がそれについて聞くと、医師はそれに関しては起きてみないと分からないと言った。
私は不安だったが、今はそれよりも無事に起きることを祈ろう、とエミリオに言われ、その通りだと頷いた。
そしてこの時、私は頷きながらもある一つのことを決意していた。
インシオに、ずっと黙っていた秘密を話そうと。
そう決意したのだ。