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L'amour pur -純愛-  作者: 鶯花
Dragon -竜-
29/92

26 触らぬ神に祟りなし

お陰様で一周年です! あっという間でした!!

いつも楽しく書いています。宜しければ今後ともよろしくお願いします。


完結への道はまだ遠い…

「ソイツヲヨコセ。コロシテヤル」


今までのヘルツバールとは様相が違うことをエフォールは感じ取っていた。というより、この違いに気がつかない者はどこにもいないだろうと思う。

圧倒的強者が放つ気配なら感じたことはある。父親であるアルゲベルトが典型例だ。でも、これはそれらとは違うものだ。




自分がいかに無力な存在であるかを自覚することが出来る気配だ。平伏したくなる気配。それは誰であろうと該当するであろう。格が違うのだ。

逆らう存在は全て消し去ることが容易に可能だと言わんばかりのそのオーラは叛逆する意思すら芽生えさせることはない。




「ま………まて。ヘルツバール。そ、それよりもヴィスの治療の方が………先ではないか?」


そこまで父親が話せることに驚嘆を禁じ得なかった。会話が可能なのは長い年月によるものだろうか。それだとしても…ここまで話すには精神力を相当使うだろう。

圧倒されて立ち上がることさえ出来なかった。今この場を支配しているのはヘルツバール・ラバス・ロワイヨムで、それ以外の存在はーー父親であるアルゲベルトでさえもーー妹を腕に抱いたまま立ち上がることが出来ず、上を見上げて必死に懇願している。




契約者(コントラクター)幻妖(フェージョン)の関係は、圧倒的に幻妖(フェージョン)の方が有利だ。何故なら、契約(コントラ)の権限は全て幻妖(フェージョン)側にあり、契約者(コントラクター)たる人間は拒否することができないからだ。解約(リベラシオン)の権限は契約者(コントラクター)が持っているとはいえ、待っているのは契約者(コントラクター)の破滅のみで、幻妖(フェージョン)側には何ら損傷はない。

しかも、ーーこれが最大の理由になるがーー 契約者(コントラクター)魔法(マジー)を使えることになるとはいえ、それは "借り物の力" だ。契約(コントラ)している幻妖(フェージョン)の力を借りて魔法(マジー)が使えているにすぎない。"魔法(マジー)が使える" ようになるのではなく、 "契約(コントラ)している幻妖(フェージョン)から魔法(マジー)を借りる" というのが本当のところで、人間自体は素質があるだけであって、圧倒的弱者なのだ。


だが、エフォールが見ている光景はそれの真逆を行っている。契約者(コントラクター)が圧倒的強者で懇願する幻妖(フェージョン)が圧倒的弱者であった。

別に人間のことを蔑んだりすることはしないエフォールであったが、 "自分たちより弱い" という認識は持っていた。そのため、この光景は自分の常識をひっくり返すような出来事であったのだ。とはいえ、ヘルツバールが他の人間とは一味も二味も違うことは承知していたが。




「…………………………そうダナ」




風船が萎むかのように、ヘルツバールはエフォールのよく知るヘルツバールの気配に戻っていた。と、その瞬間、疲労がエフォールの身体中を襲った。緊張して張り詰めていた精神が弛緩し、反動が体全体を巡ったのだ。


「血は全て入れ替えたカラ、俺サマが出来ることはここマデだ。レイアーナ・ペルーシュをここに呼ンデ来る。ヴィスは長距離移動が耐えれる状態ジャアないからな。アル、異論を唱エヨウならお前であってもダダじゃおかナイ」


レイアーナ・ペルーシュは他族の幻妖(フェージョン)契約者(コントラクター)だ。今ヘルツバールがしようとしている行為は外国人を自国ではないところへ強制的に連れ込もうとしている行為と同等である。当然だが幻想世界(イリュジオン)でも他族の領土へ入る場合、しかるべき手続きが必要だ。ヘルツバールはそれを全てすっ飛ばそうとしている。






アルゲベルトは分かっていた。盟友が暴走した場合、止めれる存在はヴィスしかいない。しかし、ヴィスは今危篤の状態だ。この状態下でヘルツバールを止めれる存在は皆無だ。例えギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムであっても彼を止めることは不可能だろう。何故ならーー


「分かった」


アルゲベルトは分かっていた。自分がその行動に異を唱えた瞬間、生命が尽きるのだと。






+++






「寝室へヴィスを運べ。動ける者はーー私とラフィヌ、そしてエフォールだけか」


酷い状況だ。とアルゲベルトは内心溜息をついた。

盟友があちら側の世界(ロワンモンド)に行ってくれたおかげで最大の脅威は去った。だが、予断は許される状況ではない。

今自由に動けるのは先程も言ったが、自分、妻、そして息子のみだ。しかし、今自分は娘を抱いていて手が空いていない。洗脳されていて自分の手で昏倒させた娘。辛いが君主(モナルク)としての立場から、彼女は幽閉しなければならない。そうでなくとも、ヘルツバールに殺されることなく生きていることが奇跡的だ。気まぐれではあるが命を奪わなかったことを、盟友に感謝せねばならないだろう。


「エフォール、ヴィスを寝室へ運んでくれ。私が先導する。ラフィヌはここで待機。結界を張った後プランナ含め監視を頼む」


アルゲベルトは娘を降ろした。意図を察したラフィヌが結界の魔法(マジー)を張る。万が一暴れられた場合に対する保険だ。ここには娘の他に自分が吹き飛ばしたあと、ヘルツバールの()にやられてしまい昏倒している幻妖(フェージョン)がいる。


アルゲベルトは連絡役を務めなければならなかった。君主宮(モナルク・パレ)に連絡を取り、この場に竜族の幻妖(フェージョン)の増援を命ずる。その一方でヘルツバールと連絡を取らなければならず、更にはヴィスを横たえる場所も考えなければならない。そこには他族の契約者(コントラクター)であるレイアーナ・ペルーシュが出入りするのだ。彼女の入国手続きの書類の作製も臣下に命じなければならなかった。そうしなければ不法侵入として神族が介入する事態へと発展する可能性も考えられる。


レイアーナ・ペルーシュ自身はバックボーンと呼べる存在が化け物である竜族と敵対することがどれほど愚かなことかは分かっているだろうが、彼女の契約(コントラ)している幻妖(フェージョン)は神族に直接仕える族の導師族だ。

彼女と契約(コントラ)している幻妖(フェージョン)はクロード・グルーだ。レイアーナ・ペルーシュとクロード・グルーが契約(コントラ)していることは極々少数しか知らないが、更に問題となるのが、クロード・グルーが実質、導師族を率いていること、即ち君主(モナルク)同然の働きをしていることである。導師族は世襲制で、現在導師族の君主(モナルク)である彼の父親は高齢により体調が芳しくない。実務はクロード・グルーが全て肩持ちしており、その実務の最重要業務はーー幻想世界(イリュジオン)の神様的存在であるギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムの専属の治療師(ソワンシエ)であることだ。治療師(ソワンシエ)という役職名はアルモニーの役職名だけではなく、幻想世界(イリュジオン)でも通じるものである。


(ヘルツバールは…大丈夫であろうか? もしあちらでも同様のことが(・・・・・・)起こっている(・・・・・・)場合ーーもしかしたら彼女は力を貸せないかもしれないというのに)


最悪の状況が目に浮かびそうになる。以前、何度も盟友を通じて見てきた光景だ。そのときのヘルツバールの様子は………見るに耐えない。そうならないように、アルゲベルトもヴィスを救おうと切実に思っていた。


(いや…………もしかしたら彼の御方を巻き込むのか?)


この事態を打開出来る存在を、アルゲベルトは知っていた。彼の正体は身内以外は…自分しか知らないものだ。妻にも存在を知らせてはいない。


「父さん」


息子の呼びかけで、アルゲベルトは現実を取り戻した。彼の腕には全身黒ずくめのヴィスが抱えられている。ヴィスの顔色を見て、とりあえず最優先にしなければならないことをアルゲベルトは察した。


「ついて来い。部屋はーー私とラフィヌの寝室で良い」


「それで良いの?」


「ああ。どうせ今宵は後処理で寝れる暇なぞないと思うからな」


「僕も出来ることがあれば…手伝うよ」


ヘルツバールは、目を丸くした。


(こんなにも、息子を頼もしいと感じたことは…今までなかったかもしれん)


竜族は成長するのが遅い。だからアルゲベルトは息子のことを内心子ども子どもと思っていた節があった。しかし、若い故の行動力は時折最大の助けになることがある。

庇護していた存在が、隣に立てるようになること。それが一人前の巣立ちである証拠でもあった。


「けれど、全部終わったらーーちゃんと説明して。妹が巻き込まれたんだ。僕も部外者でいることは出来ないと思うから」


(………)


それを聞いたアルゲベルトは、先程の考えを即座に撤回した。事実を全て教えたら、危険な行動を取る可能性が充分にあり得るからだ。

後日、アルゲベルトは息子にどう説明すれば良いのか頭を悩まされることになる。





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