14 頂点と契約者の関係性
イギリスへとたどり着いた。
この豪華なプライベートジェットともお別れだ。
「外に出ると、車があるはずだ」
そうヴィスは言う。
「トモエ、俺から離れるなよ」
そう言われて、物珍しさに辺りをキョロキョロ見回していた鞆絵は若干どきりとする。
「ヨーロッパは幻妖の出現率が日本と比べたら桁違いだからな。一人でウロウロしているとすぐに襲われるぞ。
例え建物内であってもだ」
ああ。そういうことか。
別に見知らぬところを一人でウロウロするつもりはない。
ヴィスといた方が安心だし、自分自身ヴィスと一緒にいたいと思っているし…
「あー、あと言っておかないといけないことがあったな」
ヴィスが椅子に座ろうと鞆絵を促したため、鞆絵は従う。
「何ですか?」
「アルモニーの中ではじじいのことは"ヘルツバールさん"じゃなくて、"ラバス様"と呼べよ。
そうしないと、最悪の場合命を落としかねない」
「?」
ヘルツバールはアルモニーのトップだから、"様"をつけないといけないことは分かる。
しかし、何故にそう呼ばないと命を落としかねないのか?
「じじいはアルモニーのトップである以前に竜族の君主と契約している。そこが厄介どころなんだ」
契約者は契約した幻妖の派閥に入ることになる。
例えば、天使族の幻妖と契約した場合は、その契約者は天使族の派閥に、悪魔族の幻妖と契約した場合は、悪魔族の派閥に入ることになる。
天使族と悪魔族は長年の間対立関係にあるため、必然的に二人の契約者は対立関係になるという。
「幻想世界では力の強いものが権力を握る。そのため君主は族の中でも一番強い者が基本的になる。
幻妖は力が強い者への憧憬が強い。だから君主は同族から憧憬され、崇拝されやすい。そう言ったこともあって、アルゲベルトは同族から崇拝されている。
そんな竜族と契約しているじじいは同族、つまり竜族と契約している者たちから崇拝されている」
「つまり竜族と契約している契約者の皆さんは、ヘルツバールさんのことを崇拝している…ということですか?」
「そういうこと。
更にいえばじじいは同族ばかりではなく他族の契約者からも崇敬されている。
崇敬の対象が呼び捨てされてみろ。腹が立つだろ?」
ヘルツバールは契約者達から尊敬されているらしい。
そんなにも偉大な人物と自分は話をしていたのか? と鞆絵は思った。
そんな人物を"じじい"と呼べるヴィスはすごいのか、それとも危険を恐れない男なのだろうか…
「とりあえず、じじいに対しての言葉遣いは気をつけろということだ。
言葉遣いを謝ると、腹を立てた契約者から焼き殺されるかもしれないし…」
「それ………本当のことですか?」
普通に考えても不快に思うだけだと思うのだが、崇拝しているのであるならば腹を立てるかもしれない。
でも言った瞬間に焼き殺される…ということは…ないはずだ。
ないはずだと…思いたい。
「まあ、過大表現した感はあるがな…それだけじじいが慕われているってことを教えておきたかっただけだ」
ああ、何だ。そんなことか。
鞆絵は安堵した。
「ただ…」
「ただ…?」
「………契約者もじじいほどじゃないが長命なものが多いから気をつけろ。それだけだ」
ヴィスはそう早口に言って、スタスタと歩き出した。
鞆絵も慌ててついて行く。
さっきの間は…何だったのだろうか?
もしかしたら、ヴィスは別のことを言いたかったのだろうか?
じーっとヴィスの背中を見てみるものの、答えは語ってくれない。
+++
用意されていた車に乗り込んだ。
ヴィスは無言で、そんな彼はどこか近寄り難い雰囲気がある。
イギリスは北海道よりも更に北にある。でも偏西風と暖流のおかげもあって、暖かいことを高校の授業で習った。
(面白く…ないな)
鞆絵はイギリスにはいつか行きたいとは思っていた。
しかし、それが実現して喜ぶべきこの状況下、何故か面白くないと思っている。
どうしてか?
両親がいないから楽しめないのだろうか?
いやいや、そんなはずはない。
一人でも行ってみたいと思ったくらいだったし。
外の風景を見るのを止めて、ヴィスを見てみる。
近寄り難い雰囲気があるが、見るくらいは問題ないだろう…と思いたい。
さらさらしていた、黒髪の中にはどんな顔があるのだろうか?
それを自分の中で想像するだけで、ワクワクしてくる。
風景を見るよりも、ヴィスを見ているほうが………楽しい。
鞆絵はヴィスのことについて、何も聞かないと本人に約束した。
しかし、それは彼に対して無関心になったというわけではない。
寧ろ逆で、ますます興味を持ったと言ってもいい。
一番気になるのが、やっぱり顔。
どんな理由があって、顔を隠しているのか。
想像するだけで、楽しい。
でも、出来るならば、顔を見たいとは思う。
その瞳で自分の顔を直接見てーー
「トモエ? 大丈夫か?」
「え?」
「もう、着いたぞ」
ヴィスのことについて考えていたら、アルモニーに着いてしまったらしい。
ヴィスが降り始めたため、鞆絵もそれに従う。
そこはーー
異世界…だった。
つい先ほどまで都会にいたというのに、何て中世的な建物なんだろうか?
その差に眩暈を起こしそうになる。
目を開けたら全く違う世界が広がっていた。という流行りのタイプの小説は読んだことがある。
今、自分はそんな経験をしているに違いない。
「車は…ここまでなんだよな。あとは歩きだ。
結構歩くことになるからな。荷物は俺が持とうか?」
「大丈夫です」
今、持っている荷物はそう多くない。
これなら大丈夫だろう。
「じゃあ、行くか。
ここめちゃくちゃ広いから、ちゃんとついて来いよ。
風景ばかり見ていたら…迷うぞ」
確信を突いたヴィスの言動に、鞆絵はビクリとする。
「でもまあ、黙って歩くと面白くないからな。建物なんかを説明しながら歩くとしようか」
そう言って、ヴィスは歩き始めた。
鞆絵に歩調を合わせつつ。
先ほども思っていたが、ヴィスの説明を聞くうちに納得してくる。
ここはファンタジーというよりは中世ヨーロッパ的な要素が多いのかもしれない。
それには理由があって、契約者は中世の時代が一番多かったかららしい。
その人たちがヘルツバールを頂点に掲げ、アルモニーを創立。このような建物を作り上げたと。
その状態のまま今も現存しているためか、中世的な感じがするのかもしれない。
しかし、建物は中世的でも、風景はファンタジー世界そのものだ。
ヴィスが説明するに、幻想世界の風景に似せようとした結果、こうなったと。
つまり、ファンタジー世界の風景の源は幻想世界の風景だということになる。
まあ、幻妖そのものが、モンスターの起源になっているのだから、当然といえば当然か…
「ついたぞ。目的地だ」
建物の概要を聞きながら歩いていると、あっという間に目的地に着いてしまった。
あっという間と感じた…ということは、それだけ自分が熱心にヴィスの話を聞いていたということになるのだろうか?
目的地の建物は…城だ。
高さは…アルゲベルトよりも若干低いくらいか?
そうだとしても、普通想像する城なんかよりも余程高い。
「ここが本部。まずはじじいに会わないといけない。トモエが暮らすことになる場所は…また別の場所だ」
つまりここは、アルモニーの本部ということになるのだろう。
いわゆる仕事場だ。
「とは言っても、俺たちが来たことは向こうは分かっているもんな」
「えっ? どういうことですか?」
「アルモニー内はじじいが一帯に結界を張っている。だから関係のないものは入れないようになっている」
「………やっぱり凄いですね。ラバス様」
見渡す限り、果てが見えない。
この領域の柵は果てしなく広がっているのではないかと錯覚するくらい、ここは広いのだ。
そんな一帯に結界を張るということが、どんなにすごいことなのか、素人の鞆絵にもわかってしまう。
「中に入るぞ」
扉は精密な装飾が隅々に施されていて、なおかつ重厚感があり、一瞬開けられないのではないか? と鞆絵は勘ぐってしまったが、ヴィスは難なくその扉を片手で、しかもあまり力をいれてないような形相で開けた。
「見た目よりも、この扉は重くない」
そう簡単には言ったものの、自分がヴィスのように楽々と開けることは不可能だろう。
鞆絵は改めてヴィスのことをスゴいと思った。




