7 熟考と決断と
それからというもの、鞆絵は今後についてひたすらに考えた。
その間、護衛としてコルボーがいてくれたことは精神的な意味で非常にありがたかった。
両親の唐突な死を経験して早めに立ち直ることが出来たのは、今までと違う世界を突然見せられてそのことを考える余裕がなかったことと、コルボーの精神的な気遣いだった。
めまぐるしく変わる日常。
いろんな処理を全て終わったときには、全ての始まりであるあの思い出も遠く昔のことに思えてしまうほどに時が経っていた。
そして、鞆絵は結論を自分の中で出した。
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「んでぇ~? どうするの? トモエちゃん」
「私、アルモニーに行きます」
期限になって、わざわざまた来てくれたヘルツバールに対して、鞆絵は自分の中で決めたことを話した。
ヘルツバールは以前とは違う中世の貴族風の衣装だ。
「ここに残っても、皆に迷惑をかけてしまいますから。
時間が経ち過ぎたせいで、学校に通っても留年扱いになってしまいますし…」
あれから、鞆絵は高校に行っていなかった。
両親が唐突に亡くなったショックも一つの原因であったが、コルボーやヘルツバールからいろんなことを聞かされたためか、今まで通りの生活を送れないと判断したためでもあった。
鞆絵がアルモニー行きを決意した理由の一番大きいところは、やはり周りに迷惑をかけたくないという気持ちからだ。
それと、二人には話していない理由があった。
それは鞆絵がコルボーのことが気に入っていることだ。
この件が終わって鞆絵が普段通りの生活を続けた場合、コルボーとは離れ離れになり、二度と会えない可能性の方が高い。
多分ここで離れたら、一生後悔するのではないか? という気持ちがあった。
両親が鞆絵の前からいなくなり、精神的に不安定だった時期に、支えてくれた影響は非常に大きい。
鳥の雛が盲目的に親を信じるのと同じような感覚なのかもしれない。
「うんうん、それがイイよ☆
じゃあ俺サマはトモエちゃんをアルモニーに迎える手はずを整えないといけないから、帰るね。
その間にトモエちゃんもこっちにくる手はずを整えておいて。
トモエちゃんの方が時間がかかると思うから、こっちにくるのはトモエちゃんの手はずが準備万端になってからででイイからねぇ~
いゃ〜本当に小躍りしたい気分だわ~」
「勝手にやっとけ」
「あとね、ヴィスはトモエちゃんをアルモニーに送り届けるまでの護衛をお願いするよ。
プライベートジェット準備するから」
「魔法は使えないんですか?」
ヘルツバールみたいに一瞬でその場所に行けるのであれば、そちらの方が効率的ではないだろうか?
「ん? 転移の魔法か?
普通、魔法を使うと疲労が溜まる。
だからこんな長距離を疲労が全く溜まらずに平然とやってのけれるのはこのじじいくらいだぜ。
普通の契約者がこの距離を転移するとなると、昏倒するぞ。
俺にそうなってほしいのか?」
そんなに甘い話は無いか…
というと、それだけヘルツバールという人物がすごいことになるのだろうか?
それとも、ヘルツバールと契約している竜族の君主がすごいのであろうか?
多分、両方であろう。
「あー! 忘れるところだった!!
ヴィス、帰るまえに仕事やってよ。ターゲットが近くにいるから」
「はぁ? 何でそんな重要なことを忘れようとするんだよ!! 詳細を知らせろ!!」
ターゲットっていうと、鞆絵の両親を殺した人と同様の存在であろうか?
それとも以前話に出た、壊れた物とかいうのであろうか?
鞆絵はコルボーとヘルツバールが話しているのをぼんやりと見つめていた。
「ーーーというわけだから、俺サマは帰るねぇ~ トモエちゃん、今度はイギリスで会いましょう?」
そう言い残し、ヘルツバールは帰っていった。
「コルボーさん」
「ヴィスで良い。トモエとは長い付き合いになりそうだからな。
それに、俺に対して敬語を使わなくてもいい」
そう急に言われても、鞆絵は今までの言動を変えることは簡単には出来ない。
だからせめて名前だけでもと思い、呼び名を変えてみた。
「では、コ…ヴィスさん。先ほどの話は…」
「討伐するときトモエも来い。
危害は加えさせないし、アルモニーに行く以上こういう光景に少しでも馴れておく必要があるからな」
言動についてはコルボー、もといヴィスは気にしていないようだった。
そのことに、鞆絵は安堵する。
鞆絵は強制的に同行させられるようだった。
両親が殺されたときのようなフラッシュバックが起きるのではないだろうか?と心配はした。
でも、ヴィスが傍にいれば、安心ではないだろうか?
あの始まりの時もヴィスとは初対面にも関わらず何となくだったが安堵を感じ、腕の中で気絶したくらいだし。
「わかりました」
「じゃあ、イギリス行きの準備でも始めましょうか」
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数日後、ヘルツバールから手はずを整えたとの連絡が入った。
これによって、鞆絵の支度とヴィスの仕事が完了すれば、イギリスへ出発することになる。
その中で、一日中ヴィスと行動を共にし、ヴィスのことについて鞆絵は新たに分かったことがある。
ヴィスは来日してから今までホテルを使用していて、転移の魔法で唐突に表れること。
そしてもう一つ、鞆絵が仰天する事柄があった。
「俺は生まれつき運がいい」
「はぁー」
そういう人って、大抵運が悪いのではないだろうか?
と、鞆絵はそのとき思っていたりはしたものの、それは実際に証明された。
鞆絵が一生懸命に奔走している間、ヴィスは宝くじを一枚買っていたらしい。
宝くじとは当たったら、大量のお金が手に入るが、実際には当たるわけがないシロモノだ。
それを知ったとき、鞆絵はフーンと思ったものの、特に追求することはなく忘れてしまっていた。
「トモエ、一等当たったぞ」
その言葉をヴィスから聞いた時、鞆絵はそんなバカな!? と思った。
まずは、ヴィスが自分をからかっているのではないかと疑った。
だが、実際に当たったことの証明を見せられて、鞆絵は脱力した。
「実際に当たるんですね…」
「俺は逆に外したことがないな」
そんなことを言ってしまえば、世の中にいる宝くじを買っている人の恨みを買うだろう。
「この賞金でトモエに何かしてあげよう。何が良い? 何でも良いぞ」
そう聞かれたときには、鞆絵は何だかんだヴィスに注文をつけた。
両親のショックからある程度立ち直ったのと、日本でやり残したことを無くすために。
あとヴィスには言えなかったが、自分にかまってもらうために。
外に出かけたらお金を使ってしまうので、その時はヴィスに頼んだら、ヴィスは何でも買ってくれた。
ヴィスは財布の紐が緩いみたいだ。
賭け事には負けたことが全くないというヴィスは強運以外の何物でもない、と鞆絵は思った。
しかし、ヴィスは鞆絵には財布の紐が緩いものの、自身のことに関していえば、硬かった。
前髪にしても服装にしても、全く無頓着でお金を使わない。他のことに関してもほとんど無頓着だ。
強いて言えば、本を買うぐらい。
しかし、それについても鞆絵の要求した金額に比べたら些細な金額にしかならなかった。
賭け事に勝ったとしても、ヴィスはほぼ全て貯金するらしい。だから有り余るお金があると。
だからヴィスは鞆絵のためにお金を使ってくれているのであろう。
鞆絵は運が必要とされるものを思いつくままにヴィスにさせてみたが、全て最上の結果になっていた。
そのため、ヴィスが強運ということはもはやいうまでもない事実として鞆絵の中に記憶されていた。
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「そろそろ、討伐に行こうか」
とヴィスが言い出したのは、鞆絵の準備がもうほとんど全て整ったある日。
晩御飯を食べている途中のことであった。
最近はヴィスにご飯を作ってもらうことが多く、料理はどれも美味だ。
「というか、今まで遭遇しなかったことが奇跡的だな。やっぱり俺の強運のお陰か」
「ヴィスさん、あんまり運に頼りすぎるのも危ない気が…」
「まあトモエの言うとおり、運というのはほどほどに信じるものだよなぁ。
でも結構運は重要だぜ。ときには運を天に任せることだってある。
…ってことで、トモエには詳細教えていなかったから、今回の件について、詳細を教える。
しっかり聞いておけよ」
ヴィスは今回の騎士の仕事内容について話し始めた。
「まず、騎士について、改めて説明しておく」
「お願いします」
「騎士はまず、契約者しかなれない。
まあ、これは当然といえば当然だ。
相手が幻妖だからな。それに相当する力を持っていないといけないことは分かるだろう?」
「はい」
つまり、魔法を扱える幻妖が相手であるから、自分たちもそれ相応の力を借りていないといけないということだろう。
「騎士が討伐するものは大きく分けて三種類に分類出来る。
一つはトモエが遭遇したあの類、つまり契約者の素質がないものを無理矢理に契約させて操る幻妖。
あれらはいわゆる、言葉は悪いが雑魚だ」
「雑魚?」
「えーっとな、幻妖はこちらの世界に来ることが可能だ。
トモエもじじいに連れられて行ったんだろう?幻想世界に」
「はい」
でも、あのとき確か危ないとか、時間制限とか、そんな話があったような…
「だがな、普通は契約していないと、留まっていられないんだ。
トモエの場合、契約者の素質が高いから、幻想世界に行くことが出来た。
普通の人、つまり素質が無い人が幻想世界に行った場合、すぐに死んでしまう」
ヘルツバールは大丈夫と簡単に言っていたが、そんな危ない橋渡りをしていたというのか?
「逆に幻妖もそう。
こっちの世界のことを幻妖たちはロワンモンドと呼ぶんだが、普通契約していない幻妖がロワンモンドに来る場合、弱体化して、力の弱いものは実体化出来なくなる。
そいつらは契約すら出来ないから、素質のないやつを操り、間接的に素質のあるやつらを襲おうとする。だから雑魚。
あと、素質のあるやつらはそいつらには操られない。それくらい不安定な存在なんだ」
雑魚…というくらいだから、ゲームの最初のほうに出てくるモンスターと認識して置いたほうが良いかもしれない。
「だったら、何でわざわざ弱い幻妖たちはロワンモンド? に来るんですか?
弱体化するなら、デメリットのほうが多いような気がしますが…」
自身の消滅の危機まであるこの行為。
それほどまで高いリスクを払ってまで、こちら側の世界にくる理由は何であろうか?
「それはな、幻妖も強くなりたいんだよ。ただ、それだけの理由だ。
契約者の素質はいわば幻妖にとっては自分の力を強くするための養分だからな。
幻想世界は完全に、力の有り無しで階級が決まるからな。
世界が変わろうが、上昇志向を持った野心家は存在するってことだな。全く」
ヴィスは皮肉めいた言動で、人間と幻妖の関係を鞆絵に説明してくれた。




