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第19話 そして、伯爵家での始まり

「いってらっしゃいませ、旦那さま」


 僕は深く頭を下げる。


 すると、伯爵さまが苦笑する気配が下げた頭の上でした。それでも僕は気付かないふりをして、頭を上げなかった。


「行ってくるよ」


 伯爵さまが馬車に乗って行ってしまうと、隣にたっていた執事さんはきびすを返し、さっさと歩き出す。

 僕は慌てて着いていく。



 



 あれからの話だ。




「僕は伯爵さまの養子にはなれません」


 僕の発言に、伯爵さまもシスターも驚いて目を見開くばかりだ。


「僕は伯爵さまに気にかけていただくような人間ではありません。


 養子などとおそれ多いことです」


 伯爵さまが口を開こうとしたのを察して、先に口を開く。


「ですが、僕でよろしければ、養子にはなれませんが、使用人として雇っていただけませんか?


 僕は、絶対に伯爵さまのお役に立ってみせます!!」



 僕がそう言うと、伯爵さまは困ったような優しい瞳で僕を見つめていた。




 そうして、僕は伯爵さまの屋敷の使用人見習いになることに成功した。



 もちろん、養子になんてなれるわけがない。


 僕はお優しい伯爵さまの気持ちを利用したんだ。


 ああ言われれば、伯爵さまは僕の意志を無視して、無理やり事を進めることはできないだろう。元々、僕の意志を尊重すると言われていたんだし…。


 だから、利用した。一番の落としどころを考えた。


 僕を養子にしたい伯爵さま。養子になりたくない僕。それでも、断ることはできない。それなら…。



 僕の考えなんて、単純な子ども考えだから、恐らく、伯爵さまには解っているだろう。解ったうえで、それに乗ってくれた。いや、あの場では乗らざるを得なかった。


 一度、僕の意志を組むことをシスターに言ってしまったからには、最後までそれを通さなければいけないだろう。


 貴族らしい貴族様ならそんな意見を簡単に覆すこともするだろうけど、この人はそんなことはしないと確信があった。


 

 たぶん執事さんも僕の考えを解っている。だから、執事さんは伯爵さまから世話係を頼まれたのに、僕に何かを言うことはない。名前さえも教えてもらってない。


 仕事も見て覚えろと言うことなんだろう。何も言わない。


 それに倣っているのか、他の人も僕のことを厳しい眼で見る。睨むまでは行かないし、別に何かされると言うわけではない。話もしないし、あいさつをしても返してもらえないというだけだ。



「まぁ、別に孤児院にいた時から、誰とも進んで話なんかしないけど…」


 このままでいいのかは疑問だ。


 『師匠』に言われたように、この屋敷に来てから、毎日のように人気のない所に来ては木剣を振るう。今いるのは、広い屋敷の裏庭。小さな森のようだ。うっそうとしているわけじゃないけど、木が周囲からの視線を隠してくれる。塀に近いここにはあまり人は近付かない。人気はないけど、『師匠』は来てくれない。


 『影』さんが言っていたことは事実なのだろう。と思う。


 僕は侯爵さまの興味を引きすぎた。だから。



 監視されている、と…。




――監視?ですか?


――そ、孤児院にいる今はいいんだけど、多分、屋敷に行ったら、しばらくは監視されていると思った方がいい。


――どうしてですか?


――あの、嫌な笑い方をする貴族さんの子飼いの駄犬が命令を受けてたからさ。


  探れ、と言っていたから、君の行動は監視されるだろうね。今はいないから、大丈夫だよ。


――…監視…。


――あぁ、気にしなくていいよ。あの人のことは感づいてないだろうからね。


――そうですか。よか…。


――もし気が付いてたら、駄犬は始末していたところだよ。


――しま…っ


――まぁ、あの人に止められたから、しないけど。





 ぶん!!


 と、木剣を振り下ろす。孤児院の最後の夜に、1人になった僕の所にきた『影』さんがした話を思い出していた。


 監視か。今もいるのかな?周りを窺おうとして、思いとどまる。だめだ!気が付いていないふりをしなきゃ!


 ふっと息を吐いて、木剣を担いで、屋敷に戻ろうとした。が、僕は歩き出そうとした足をそれ以上進めることができなかった。



 少し離れたところに、厳しい眼をした執事さんが立ってこちらを見ていた。



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