第9話 そして、神託は下った
「ねえ、アイラ。話があるんだ」
困り果てた僕は、直球で行くことにした。
話しかけたアイラは、驚いた顔をしたあと、すごく嬉しそうな顔をした。
うん。結論を言うと…
仲直りはできた。
しかも、あっさりと…
何だったんだと、拍子抜けした。
しかも、アイラは強くなることも応援してくれた。
意味が分からない。
手のひら返された気分…
「まあ、よかったんじゃないかね?」
『師匠』は首を傾げる僕にそう言ってくれたが…
なんだか、あっさりしすぎて怖い。
『師匠』と出会って、3カ月が過ぎたころ、ようやく走りこみ以外をさせてもらえるらしい。
正直、やっとか、という思いだ。
走るのは、1週間で5周増えた。
2週間で10周増えた。
あとは、どんどん増えて行く周が週末には段々、楽になっていったから、体力はついたと思う。
それに途中から、腕に重りをつけて走るように言われて、腕をしっかり振るようにしたら、いっぱい走れるようになった。
だから、走るのもちょっと楽しかった。
今日は、何分で走りきる!今日は、言われた周数以上走れた!
周が増えて、身体を動かすのは楽しかった!
「今日から、走り20周とこれで素振りをすることだね」
差し出されたのは、木製の剣。受け取ろうとすると…
「ああ、重いから、心して受け取らないと、肩が外れるからねえ」
……え?
心して受け取ったのに、腕を痛めました…
地面に取り落とした木剣を『師匠』は軽々と拾い上げる。
「うん、ちょっと早かったか…」
別の木製の剣を脱いだ帽子から取り出す『師匠』…
あ!そうそう!椅子の『秘密』はこの帽子らしい。
なぜか帽子に椅子もテーブルも紅茶も剣も…そういえば、動物も…入っているようだ。
僕も持たせてもらって、手を突っ込んでみたが…ただの帽子…
どんな仕掛けかは知らないが、『師匠』が手を入れると、望みのものが出せるらしい。
よく椅子が入るな…と思っていたら、隅っこさえ口に入れられたら、出し入れはできるらしい。
なんて便利なんだろう。
「こっちを持ってみたまえ」
今度も心して受け取る。
重かったら、すぐに手を放そう、と心に決めて。
――ずん!
確かにちょっと重い。でも、さっきみたいに持てない重さじゃない。
少し手が震える。
これを素振りするとなると…
「ふむ…」
『師匠』はまた帽子に手を突っ込む。
「こっちはどうかね」
別の剣を渡してくれる。
今度の木剣は、ずしりと重さがちょうどいい。
「よさそうだねえ」
「うん」
「最初はこれくらいで、重さは徐々に変えていくし、長さもね。
自分の戦闘に合った長さを選べるようになるまでは、小剣でいこうかね」
「長さも?」
「長さは…」
あ、黙り込んだ。
説明がむずかしいんだ!
「まあ、振るっているうちに分かるだろうねえ。いいかい?持ち方は…」
あれ?また黙っちゃった?
「いや、自由に持って。振るのだけ、見ていてよ」
『師匠』は木剣を上で構え…
気がついたら、『師匠』の剣は下に降ろされていた…
あれ?
きょとんとしていると、気付いた『師匠』は少し笑いながら「今度はゆっくりするから」と…
……2度目も見えませんでした。
ぶわっと風を感じた。
結局、『師匠』は本当にゆっくりと木剣を振ってくれて、それでも早かったけど、なんとか見えた。
「これ以上ゆっくりは参考にならない」と言われた。
『師匠』は、剣が使える方ではないと言っていたけど…
見えない速度で剣を振るえるんだから、使えるうちには入らないのかな?
それとも、僕が強くなって、剣も使えるようになれば、『師匠』の剣も見えるのかな?
僕は、強くなれるかな?
早く強くならなくちゃ!!
「あんたの剣速って本当に遅いっすね」
「…うるさいねえ。そのよく鳴く口、縫いつけてやろうかい?」
「こわっ!!そんなんでよく子どもの相手ができるっすね」
「…君くらいのものだよ。私にそんな口をきくのは」
『影』は笑う。
「お褒めに預かり光栄っす」
「褒めてない…」
それで…と話を変える。
「2ヶ月、なんの連絡もしてこないと思っていたら、急にどうしたんだね?」
「ああ、珍しく部下もあんたから離していたからか。
とある情報を追っていた。真実かどうかの確認のために、全ての『影』を総動員した。
そして、3日前ようやく、裏がとれた。
あんたには俺の口から伝えるべきと思った」
普段の軽口と違い、真剣な声の『影』は言いにくそうに、それでも確かに、衝撃の一言を放つ。
「3ヶ月前、神託が下った…。
『勇者』がこの世界に誕生した…と!!」
それは「ものがたり」の時代の再来を告げるものだった。




