72 やる気が出てきた!
その後何とか勉強に路線を戻し、百合と心花が必死にペンを動かした。
「あ、百合。そこ間違えているぞ」
「え、どこ?」
「心花さん、また一問も合ってません…」
「ウソ!!??」
心花は葵に教わり、百合は菫に勉強を見てもらっている。
なぜこんな構図になったかは単純で、葵が百合に教えることになった場合に心花が嫉妬するかもしれないからである。あとついでに心花と菫はまだあまり話したことがないからだ。まあどうせコミュ力最強の心花ならすぐに仲良くなれるだろうけど。既になんか打ち解け始めてるし。
「どうやらそちらのお嬢さんは容姿と引き換えに勉強が出来ないらしいな」
「まあそうなんすよねぇ〜。あたしが可愛すぎるのが悪いんだよね〜」
なぜか誇らしげにしているが、多分もっと焦るべき状況だ。
こちらとしても赤点になって遊ぶ時間が減るのは困るし、ちゃんと指摘をしておく。
「そんなこと言ってないでちゃんと葵に教えてもらいなよ。また赤点祭りになるよ?」
「なんだその縁起の悪そうな祭りは…」
「時は二年二学期末テスト。完全に中弛みした女王に赤点七冠という絶対的な称号が…!!」
武勇伝のように語り始めたが、その話は中学時代の心花を知らない二人にとっては困惑でしかないもので。
「え、七…??」
「聞き間違いか?赤点を七教科で取ったように聞こえたのだが」
「そうだよ?」
「七教科赤点。放課後先生に呼び出されて一時間ぐらいお説教くらってたね」
「反省文五枚を一週間って…もうこれパワハラじゃない?あたし訴えたら勝てるよね!?」
「「「…………」」」
三人ともがドン引きする。
流石に自分以外の全員からジト目を向けられるのは苦しいのか、すぐに危機感を抱き始めた。
「え、もしかしてあたしヤバいやつ認定されてる?」
「ヤバいとまでは言わないが…正直今までどうやって生きてきたのかは気になるな」
「結構酷くない!?普通に心に突き刺さったんだけど!?」
もうイジるほどの関係性に達した心花と菫。やはりコミュ力高い同士だとこんなにも早く仲良くなれるものなんだ。
(いいなぁ。私ももっといろんな人と自然と仲良くなれるようになりたいなぁ)
そんな風に、二人を見つめながら考えた。
考えてみると、高校で出来た友達の葵と菫は向こうから仲良くなろうとしてきてくれたのがきっかけだった。自分から積極的に話しかけに行ったことなんてまだ一度もない。だからこそこの三人の積極性は羨ましくて、そして受け身のこちらからすれば有難い存在だ。
でも周りに恵まれているからといってそれに甘え続けるわけにはいかない。いつか彼女ら以外と関わらなくてはいけなくなった時、今までの自分のように受け身の子のために話しかけられるような存在になりたい。
そうならないと、きっとこの人たちの隣に立つ資格はない。だからこそ百合は行動に出る。
「あのさ!!」
「「「???」」」
「みんなで勉強、頑張ろうねっ!!」
こんな言葉、この人たちからすれば簡単に浮かんでくるのかもしれない。でもこれが今の精一杯で、百合の限界なのである。
そしてこの三人、特に恋人候補の二人は百合の性格を完全に把握しているため、この行動にかなり関心してくれたようだった。
「はいっ!!頑張りましょう!!」
「アンタにそこまで言われたらやるしかないね。葵、もっかいお願い!」
「わかりました!」
どんな反応をされるか不安だったけど、やはり二人は優しかった。
そしてそれは隣に座る彼女も例外ではない。
「どうやらやる気が出たみたいだな」
「まあね。私もみんなに負けてられないから」
「いい心意気だ。私も頑張るとするよ」
「よろしくお願いしますっ!!」
ただ勉強するだけのつもりだったのにここまで奮い立たされるなんて。やっぱり前とは考え方が変わったのかな?
もしそうだった場合、間違いなくそれには葵や心花が関係しているし、もしかしたら菫も加わってくるかもしれない。これ以上は未来のことだからわからないけど、この人たちといればきっと強くなれる。
そう、あの姉や妹にも負けないぐらい、強い人間に。




